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偽善者と三つの旅路 十五月目

偽善者と帝国散策 その14

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『ウェナ・ファナス! 詳しい方は、すでに彼女のプロフィールを把握しているでしょうが……今回は特別にご説明いたしましょう』


 舞台に上げられた少女は、身動き一つせずただ茫然としていた。
 体を引き摺られても、それこそ何千何百という視線を浴びせられようとも。


『彼女はこの国の元お姫様プリンセス! 現皇帝であらせられるエルダスト様より、直接下賜された磨き上げられた奴隷でございます!』


 状況自体は理解しているのか、司会がどのようなことを言おうが無反応だ。
 それで売れるのか、と聞かれるとあんまりそうでもないと思う。


『彼女はハーフでございます。父親であるエルダスト様の普人族。そして、吸血鬼の母から生まれました』


 彼女の顔が映像としてアップされた。
 吸血鬼特有の紅の瞳が、爛々と輝く。
 また、犬歯もちょっとだけ長く、首輪を通じて開けさせられた口の中にそれが映る。

 加えて、吸血鬼特有の青白い肌。
 不健康そうな肌と母譲りなのか端正な顔立ち……会場の男たちは興奮し、女性たちはそれなりに怒りや妬みを感じていた。


『まだ血は一度も飲ませていないとのことですので、吸血鬼特有の特殊な力が皆様を害することはございません。しかし、再生能力だけはしっかりと機能しておりますので、どのような扱いでも対応することでしょう』


 血を吸うことで成長可能な吸血鬼。
 血を霧のようにバラ撒いたり、姿を蝙蝠に変えたり影に潜ったりできる……そういうことができないということか。


『もちろん、通常業務を行うことも可能なように育てられております。なにせ、皇帝様の娘さんですので。掃除洗濯などの家事は当然のこと、戦闘にも最適です』


 彼女のステータスが表示される。
 たしかにレベルが低いながらも、豊富なスキルを有していた。
 そういった方針で予め育てておけば、そうなるだろうと思える。


「メルス、またお姫様だって……」

「オークションって、実は処分に困る王族をどうにかする場所なのかもしれないな」

「オークションじゃなくても、お姫様を拾ってるメルスが言うと実感があるね」

「……なあ、俺が言うのもあれだが、そんな感想でいいのか?」


 かくいうアイリスもまた、亡国のお姫様という立ち位置に居る。
 今の時代に彼女の国を知っている人が居るかどうかは別だが、彼女の経歴そのものに変化はない。


「けどさあ、あんな顔をしている娘を見捨てるわけにはいかないよね? 助けようよ、嫌がってもさ」

「まあ、札を持って上げる前にそれを言ってたら……好かったかな?」


 オークションはとっくに始まってるし、競売には俺たちも参加している。
 なのにこうして再確認のようなことをしているのは、様式美というものだろう。


「お金で人生が決まるって、地位が高ければ高いほど嫌になるよな。そりゃあ農民とかが人生逆転を狙って奴隷になるなら、むしろ価値を感じるかもしれないけどさ」

「……ワタシの場合は、お金で延命していたようなものだけど。パパもママも、ワタシが生きてくれるならって、疲れながらもお金を稼いでいたかな……」

「そう、だったっけな。悪いな、忘れてた」

「ううん、気にしないで」


 転移なんだか転生なんだか、微妙な状態でこっちに来たアイリス。
 突然居なくなったアフターケアを、お神がしてくれたかどうか分からない。

 まあ、それを知る方法はないからどうしようもないわけで……どうにかなる方法を見つけてから、考えるべきことだ。


「話が逸れたな……今の額、五千万Yあれば平民がずっと働かずに生きてられるよな。だけど、欲望を満たそうとそれ以上のナニカを犠牲にしている。いっぱい対象はあるけど、一番は他の生き物だよな」

「ハーレムって欲を満たすために、あの手この手で女の子を堕としている人とか?」

「ああ」

「否定……しないんだね」


 否定は、眷属の今を否定するのと同意だ。
 それだけはしないし──してはいけない。
 偽善なんて、世間から見たら嫌われるようなことしかしていない俺だからこそ、通さなきゃいけないモノがあるだろう。


「また逸れた……五千万って額、あったらアイリスは何に使う?」

「うーん……外の物の価値なんて、ゲーム内の物しか知らないよ?」

「たまに違う物があるしな。そっか、それを考えてなかったな」

「五千万って言うと、たしかパパの月収が一千万とか言ってたんだよね……」


 知らなかったが、お金持ちだったようだ。
 まあ、難病をずっと治療するにはかなりの額が要るらしいからな。
 十年単位でそれを可能とするための額を、稼いでいたようだ。


「一億、超えたな……これまでのヤツもそれ以上だったし、グングン増額するな」

「これだけのお金があったら、どれだけの人が救われるんだろう?」

「さぁな、けど人間の価値は平等じゃないって言うし……気にしなくていいだろ」


 クライマックス、すでに億越えの人気とはずいぶんと期待されているようだ。
 サクラが盛り上げているようだが、最終的に買えるなら問題ない。

 ──まあ、これに立派な目的でもない限りは俺なりのサービスをする予定だがな。


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