上 下
1,031 / 2,518
偽善者と三つの旅路 十五月目

偽善者と帝国散策 その10

しおりを挟む


 そして数時間後、再び俺たちは集まった。
 全員が達成感に満ちた表情を浮かべる中、俺だけが表情を苦悶させている。
 その様子を見た彼らは、よりいっそう表情筋を上げてニマニマとしだす。


「……まさか、お前らが全部仕事を終わらせているとはな。そのせいで、いっさいやることがなかったじゃないか」

「これもボスのためを思ってのことですよ」

「そうっすそうっす! ボスのために、体まで売ったんっすよ、任せてくださいっす!」

「お前ら……」


 この場合、俺は感涙すればいいんだろう。
 だが現実は残念なもので、周りの奴らは含みがある厭味ったらしい笑顔でしかない。
 ……決めていたのだ、一番活動をしていなかった奴が、この後のイベントで動くと。


『と、いうわけでボス。頑張って参加してください(っす)!』

「よし、お前ら。真剣勝負がしたいなら、最初からそう言ってくれよ」

『…………』

「おい、黙って逃げるんじゃねぇ! 大人しく俺のストレス発散に付き合え!」


 追いかけ回すように走り、それぞれが周りの様子を窺う。
 別に普通に走ってもいいのだが、いちおう俺は簒奪者としても有名になっているので、その名前を有効的に使っておく。

 ヒソヒソと立てられる噂。
 それは好意的なものではなく、この場に居る貧民上がりの者を侮蔑するモノが多い。
 だが誰も、怒りを感じることなく目的を全うしてくれる。

 ──そうすれば、きっと救われる者が多く生まれると信じて。


「……期待には、応えないとな」


 気功で強化した肉体を使い、全速力で部下たちに接近し──攻撃する。
 抵抗するが勢いに負け、全員が別々の場所に飛ばされていく。


「ふぅ……これで準備は上々っと」


 周りが引き攣り、俺に道を開けてくれる。
 偉そうな貴族も、わざわざこの場で俺をイジメようとは思わないようだ。
 分かり切っていたことは気にせず、俺は目的地に向けて歩を進めていく。





 かつて見た赤色の世界のオークション会場もまた、似たような場所だった。
 魔道具は異なり数字が記されたただの札だが、個室が用意されるところなどはほとんどいっしょである。


「おい、状況を報告しろ」


 耳に取り付けたインカムのような物に触れながら、ここにはいない者へ声をかける。
 すると一瞬のノイズ音のあと、返事が複数聞こえてきた。


『こちら『檻』、潜入しました』
『こちら『司会』、交渉終わりました』
『こちら『出口』、確保したっす』
『こちら『攪乱』、準備できた』

「よくやったお前ら。それと、単独で入ったら怪しまれた。誰かこっちに来い」

『…………』

「おい、誰か応答しろ」


 人気が無い上司は大変なもので。
 数回声をかけたが、誰一人として返事をしない……付けたままにしてくれてはいるが、誰がここに来るかを確認しているのだろう。


『こちら『出口』、ボス一人でもどうにかなるっすよね? それに、たしかそこって一番危ないんじゃ……』

「なんだ、俺は危険な目にあってもいいってのか? お前らは、そんな風にオジキを見せてるのか?」

『オジキもオジキで、刺客なんて笑い飛ばしていそうっすけど……』


 ああ、うん。
 たしかにそれを言うと、そんなイメージしか湧いてこないや。


「人数に余裕はないのか?」

『ありません(っす)!』

「ああ、もう……こっちで対処しておく。あとで俺が誰かと居ても、何も気にするな」

『…………』


 何かを思いだしたのか、再び沈黙する。
 だがその道を選んだのは彼ら自身であり、俺は悪くない……そう、何も問題はない。


「誰にしようかな。それは俺様の言う通り。ギッタンバッコン、ギッタンバッコン。言う通り!」


 適当に一枚一枚捲っていった白い本、やがて止めたページに記された召喚陣に魔力を流し込んでいく。
 そして、陣が本から地面に複写され──少女が一人現れる。


「うーん……召喚してくれるのは初めてじゃないかな?」

「そうか? まあ、たしかにリーンとかは気にしなかったが、さすがにこっちの世界だとどうだか気にしていたからな」

「ここは……オークション会場? しかも、非合法な匂いがするね」

「まあ、当たっているんだが……そこまで分かるものか?」


 西洋人形のような精巧な美しさを持った、アッシュブロンドの美少女。
 背中から生えた翼をパタパタとさせ、軽く地面から浮遊しつつ辺りを見渡していた。


「──アイリス、今回呼んだ理由は分かっているな?」

「うん、暇潰しでしょ?」

「まあ、そうなんだが……いちおう召喚前に連絡したよな、護衛モドキをしてほしいと」

「あー、そうだったっけ? そうそう、そんな理由だったね」


 召喚は強制ではなく、呼ぶ前に何をするか連絡している。
 嫌なら拒否できるので、アイリスはそれを受け入れたはずなんだよな……。


「ごめんごめん、ちょっと裏の仕事っぽいって部分ですぐに承諾しちゃって」

「まあ、分からんでもないけど。護衛はあくまで形だけだし、ここに居てくれるなら何をしていてもいいぞ」

「と、言われても……暇だから来たのに、やることなんてないよ」

「それもそっか。なら、好きにしてくれ。必要な物があれば、こっちで用意する」


 幸いにして、そういったアイテムを大量に用意してある。
 開始時間まではあと少し、それまではこうして楽しんでいようか。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?

破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。 そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。 無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた… 表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと イラストのurlになります 作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)

虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件

こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。 だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。 好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。 これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。 ※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

処理中です...