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偽善者と三つの旅路 十五月目

偽善者と帝国散策 その10

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 そして数時間後、再び俺たちは集まった。
 全員が達成感に満ちた表情を浮かべる中、俺だけが表情を苦悶させている。
 その様子を見た彼らは、よりいっそう表情筋を上げてニマニマとしだす。


「……まさか、お前らが全部仕事を終わらせているとはな。そのせいで、いっさいやることがなかったじゃないか」

「これもボスのためを思ってのことですよ」

「そうっすそうっす! ボスのために、体まで売ったんっすよ、任せてくださいっす!」

「お前ら……」


 この場合、俺は感涙すればいいんだろう。
 だが現実は残念なもので、周りの奴らは含みがある厭味ったらしい笑顔でしかない。
 ……決めていたのだ、一番活動をしていなかった奴が、この後のイベントで動くと。


『と、いうわけでボス。頑張って参加してください(っす)!』

「よし、お前ら。真剣勝負がしたいなら、最初からそう言ってくれよ」

『…………』

「おい、黙って逃げるんじゃねぇ! 大人しく俺のストレス発散に付き合え!」


 追いかけ回すように走り、それぞれが周りの様子を窺う。
 別に普通に走ってもいいのだが、いちおう俺は簒奪者としても有名になっているので、その名前を有効的に使っておく。

 ヒソヒソと立てられる噂。
 それは好意的なものではなく、この場に居る貧民上がりの者を侮蔑するモノが多い。
 だが誰も、怒りを感じることなく目的を全うしてくれる。

 ──そうすれば、きっと救われる者が多く生まれると信じて。


「……期待には、応えないとな」


 気功で強化した肉体を使い、全速力で部下たちに接近し──攻撃する。
 抵抗するが勢いに負け、全員が別々の場所に飛ばされていく。


「ふぅ……これで準備は上々っと」


 周りが引き攣り、俺に道を開けてくれる。
 偉そうな貴族も、わざわざこの場で俺をイジメようとは思わないようだ。
 分かり切っていたことは気にせず、俺は目的地に向けて歩を進めていく。





 かつて見た赤色の世界のオークション会場もまた、似たような場所だった。
 魔道具は異なり数字が記されたただの札だが、個室が用意されるところなどはほとんどいっしょである。


「おい、状況を報告しろ」


 耳に取り付けたインカムのような物に触れながら、ここにはいない者へ声をかける。
 すると一瞬のノイズ音のあと、返事が複数聞こえてきた。


『こちら『檻』、潜入しました』
『こちら『司会』、交渉終わりました』
『こちら『出口』、確保したっす』
『こちら『攪乱』、準備できた』

「よくやったお前ら。それと、単独で入ったら怪しまれた。誰かこっちに来い」

『…………』

「おい、誰か応答しろ」


 人気が無い上司は大変なもので。
 数回声をかけたが、誰一人として返事をしない……付けたままにしてくれてはいるが、誰がここに来るかを確認しているのだろう。


『こちら『出口』、ボス一人でもどうにかなるっすよね? それに、たしかそこって一番危ないんじゃ……』

「なんだ、俺は危険な目にあってもいいってのか? お前らは、そんな風にオジキを見せてるのか?」

『オジキもオジキで、刺客なんて笑い飛ばしていそうっすけど……』


 ああ、うん。
 たしかにそれを言うと、そんなイメージしか湧いてこないや。


「人数に余裕はないのか?」

『ありません(っす)!』

「ああ、もう……こっちで対処しておく。あとで俺が誰かと居ても、何も気にするな」

『…………』


 何かを思いだしたのか、再び沈黙する。
 だがその道を選んだのは彼ら自身であり、俺は悪くない……そう、何も問題はない。


「誰にしようかな。それは俺様の言う通り。ギッタンバッコン、ギッタンバッコン。言う通り!」


 適当に一枚一枚捲っていった白い本、やがて止めたページに記された召喚陣に魔力を流し込んでいく。
 そして、陣が本から地面に複写され──少女が一人現れる。


「うーん……召喚してくれるのは初めてじゃないかな?」

「そうか? まあ、たしかにリーンとかは気にしなかったが、さすがにこっちの世界だとどうだか気にしていたからな」

「ここは……オークション会場? しかも、非合法な匂いがするね」

「まあ、当たっているんだが……そこまで分かるものか?」


 西洋人形のような精巧な美しさを持った、アッシュブロンドの美少女。
 背中から生えた翼をパタパタとさせ、軽く地面から浮遊しつつ辺りを見渡していた。


「──アイリス、今回呼んだ理由は分かっているな?」

「うん、暇潰しでしょ?」

「まあ、そうなんだが……いちおう召喚前に連絡したよな、護衛モドキをしてほしいと」

「あー、そうだったっけ? そうそう、そんな理由だったね」


 召喚は強制ではなく、呼ぶ前に何をするか連絡している。
 嫌なら拒否できるので、アイリスはそれを受け入れたはずなんだよな……。


「ごめんごめん、ちょっと裏の仕事っぽいって部分ですぐに承諾しちゃって」

「まあ、分からんでもないけど。護衛はあくまで形だけだし、ここに居てくれるなら何をしていてもいいぞ」

「と、言われても……暇だから来たのに、やることなんてないよ」

「それもそっか。なら、好きにしてくれ。必要な物があれば、こっちで用意する」


 幸いにして、そういったアイテムを大量に用意してある。
 開始時間まではあと少し、それまではこうして楽しんでいようか。


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