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偽善者と三つの旅路 十五月目

偽善者と帝国散策 その06

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 そして、向かえたオークション開催日。

 ──なんやかんやの果てに、帝国の裏を牛耳る組織を一つ潰した俺は、その部下たちを連れてオークション会場に向かっていた。


「いや、なんでこうなったんだか」

「どうしたんですか、ボス?」

「たった数日でお前らを従えることになるとは、思ってもいなくてな」

「……俺らにとっちゃ、アンタは救いだよ。兄貴の信念が守られたんだ、その恩義は絶対に返さねぇと」


 先に言うが、『兄貴』は死んでないぞ。
 簡単に言えば、もともとは真面目だった組織が腐敗していたのでぶっ潰したというだけのシンプルな出来事イベントだ。

 呪いがかけられたボスを治し、兄貴分を拳で殴り、狼藉をしていた奴らを全員シメたことでなぜかトップに祭り上げられた。
 先代ボスは隠居するとか言ってたし、兄貴分は俺がボスになることを歓迎していて、誰にも止められなくなったのが現状である。

 俺としても、オークション会場に入るための条件が満たせていなかったので、この日までは仕方なくそれっぽいことをやっていた。
 ……数日だったから、小難しい問題が露呈しなかったからである。


「正直、俺は今日が終わればお前らのボスをやる必要が無くなるんだが? 先代とも、とりあえず今日までという約束だ」

「甘いですよ。親分は諦めませんから、ボスが今の座から離れることを拒みます。実際、兄貴もそんな感じでしたので」

「マジか……。まあ、絶対に嫌ってわけじゃないし外に広めるだけでなら好きにしろ。そこが落としどころだと伝えておいてくれ」

「へい、あとで伝言させましょう」


 その伝言ゲームにも不安があるが、困ったら説得(物理)をすれば認めるだろう。
 それよりも今は──オークション会場へ入ることが先決だ。

 歩き慣れた薄暗い大通りを抜け、帝国に入国した頃に見た明るい大通りに入る。
 俺といちおうの部下の格好は、帝国の光に住む者たちが不快にならないような格好には整えてあった。

 誰かに見咎められることもなく、目的地となる巨大な商会に向かう。
 お客さんも多く来ており、かなり忙しそうだが……それでもしっかりと、スタッフはすぐに来てくれた。


「いらっしゃいませ、何をお求めでしょう」

「ああ、そうだな……『丈夫で頑丈な鍵』でも見つけてくれないか?」

「『丈夫で頑丈な鍵』ですか?」

「そうだ。『真銀ミスリルの装飾』が付いていると、なおのこと良いだろう」


 営業スマイルは消え、仮面でも被っているかのように無表情となった店員。
 詳細を聞きましょう、と言って俺たちを店の中へ連れていく。

 商談用の部屋から続く隠し部屋に、魔法陣が用意されていた。
 店員はそれを専用の魔道具で起動させ、俺たちに乗るよう促してくる。


「行くぞ、お前ら」

『へい!』


 全員が乗ると、店員が術式を発動させた。
 やがて光の粒子が下から浮かび上がり──視界が切り替わる。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 あえて一般人も使う大通りに入口があったのは、王族や貴族のような者たちでも入場できるようにするためだ。
 そのためあの商会も、国御用達の商会として栄華を誇っている。

 また、他国の要人もあそこであれば入ったとしても疑念が浮かばない、という場所でもあった。
 その場所として選ばれたことが、幸なのか不幸なのか……それは商会長次第だろう。


「ここが帝国の闇そのもの。なんともまあ、どこかで見たことのあるような場所だな」

「来たことがあるんですかい?」

「いいや、ここは初めてだな。似たような場所があった気がするんだ」

「そうですかい……」


 もちろん、こっちの世界の人たちには縁のない場所いせかいでのことだが。
 今のところ、カジノが見当たっているわけではない。

 だが、絢爛さはほとんど同じである。
 赤色の世界風と帝国風で違いはあるが、派手で華美なもので飾り付けられたそこは、まさに金持ちの散財場所として相応しい眩しさが演出されていた。


「ボスの目的であるオークションには、まだ時間がありますが……どうしますかい?」

「ああ、分かっているさ。お前ら、ハメを外しすぎんなよ!」

『おう!』

「だが、もし逆らった暁には……どうなるかは理解しているな?」


 連れてきた者たちは、倫理観に問題がない奴だと思っている。
 少なくとも、問題がある奴で見つけた分は処理してあるし……。


「お前らは先代からの忠義も厚い、頼れる奴だと聞いている。お前らの行動も、先代を裏切ることだと思っておけ。それに背けば、俺はお前らを粛清しなきゃならない」

「しませんよ、そんなこと。ボスやオジキには恩があります、仁義は通しますよ」

「俺はそうだな……適当に巡っている。もしアレを見つけたら、できるだけ買い占めろ。俺から言いたいことはそれだけだ」

「……分かりやした」


 散開し、グループごとに移動を始める。
 俺だけは独りで、周りの様子を窺う。


「あー、やっぱりカジノはあるのか。だが、こっちはプレイヤーも居るしあんまり目立たない方がいいか……」


 変身魔法は使えない。
 武技や気功の技術で隠密行動をすることは可能だが、それでも完璧では無い上にバレたらロクな目に合わないだろう。

 ……けど、ジャックポットが俺を呼んでいる気がするな。


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