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偽善者と三つの旅路 十五月目

偽善者と帝国散策 その02

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「──こちらが当店の目玉商品となります」


 案内された場所に居たのは、見た目麗しい美少女であった。
 王道の展開ではあるものの、男という生き物は女に抗えない哀れな存在なのだ。

 緑髪の美少女が、檻の奥で蹲っていた。
 首輪を介して強制的に起こさないのは──おそらく衰弱しきっていて、やると間違いなく死ぬからだな。

 それでも瞳の意思は、弱々しくも何かを訴えるように見えた。


「これは……森人エルフ、いやハーフか」

「ええ、半血ということに加え、少々呪いがありまして……ですが、戦闘以外で用いるのであれば充分にお使いになれますよ」

「……呪いだと?」

「はい。彼女の瞳を見てください」


 耳の長さからハーフだと予想したのだが、それ以上に特徴的な点があった。
 改めて確認した少女の目は、日本人と同じような黒い瞳をしていたのだ。


「ほぉ、森人からは発現しない色だな。番の種族は?」

「普人です。だからこそ、こちらでも理由が分からずにいます。……あの奴隷は回されてきたのですが、その理由が奴隷商や買い手に悪影響が及んだからというものでして」

「貴様もあの奴隷商も、あの女をさっさと売り払いたいと。だがあの奴隷商は、コイツは高いと言っていたぞ?」

「ええ、まあ……その、ここだけの話、あの方が酒の勢いで手続きをしてしまい、大損を取り除こうとしているのです」


 ああ、そりゃあなんとも可哀想なことで。
 例としては失礼だが、不良品を大量に掴まされてしまったものの、赤字にはしたくないとどうにか粘っているようなものだな。


「だが、貴様らは幸運だ。あの奴隷、いつからここに?」

「つい先日、あの状態で。精霊とも契約しておりますし、もちろん処女でございます」

「……そうか、やはり幸運だったな」


 精霊と契約しているのであれば、森人としての力が薄いというわけでもないだろう。
 処女であるかどうかは別としても、なんだか俺はあの奴隷が欲しくなっていた。

 ──まるで、彼女の持つ黒い瞳に吸い込まれるように。


「先に、他の奴隷をすべて見ておこう。それが終わったら、アイツと話す。犯罪者だろうが、魔物だろうが構わない。売れる奴隷は、すべて見せるんだ」

「は、はい」

「……いや、売れずとも奴隷であれば提供しろ。無下にはしない、すべて有効的に活用してやろう」


 この台詞セリフを聞いて、普通の人たちはどのような感想を抱くのだろうか。
 例の第一印象最悪スキルによって、俺は疑われることが多いのにな……本当、止められない止まらないだよ。


「じゃあ、一人ずつ個室にでも。動けず体調が優れない者は、そのままで構わない」

「……分かりました」


 まあ、それから奴隷たちと面談を行った。
 扱う数が少なかったので、数十人程度でそれは終了していく。

 俺が訊いたのは、この後奴隷たちがどうしたいかである。
 帝国にどう捕らえられたのか、また解放されてやることがあるのか……犯罪奴隷にはそれを確認した。

 犯罪奴隷にはいちおう、その罪が本当なのかどうかを尋ねる……もし俺的にアウトな犯罪だった場合は、ラントスにて迷宮で労働を科す予定である。


「──それで、貴様の父と母は?」

「……分かりません。貴方さまと同様に、不思議なお言葉をお使いになられる方もおりましたが、心当たりがありません」

「そうか。すまないな、貴様は貴様であってそれ以外では無い。だというのに、そうでないモノを求めていた」

「…………」


 最後の一人である例の少女に、両親について尋ねてみたのだが……どうやら父親の血筋に関係がありそうだった。
 母は純粋な森人で死ぬ間際までいっしょにいたそうだが、父はその母から聞いた情報しか知らないそうで。

 孤独になって、なんやかんやの末に奴隷に堕ちた少女だが、一度謎の言葉で話しかけられたことがあったらしい。

 ──テンプレだが、日本人関係者かどうか確かめるアレだったようだ。


「貴方さまは、私の体を治してくれました。これまで優れた回復魔法の使い手が挑んできましたが、何も変わらなかったというのに」

「……貴様の衰弱していた理由は、魔法では治らなかっただけだ。俺と同じことができる者は、世界にごまんといるだろう」

「いいえ、私のご主人様。この薄汚れた身であれば、貴方にすべてを捧げます。それが私にとって最良の選択だと、私自身がどこかで認識しています」

「正気か? 会ったばかりの、それも顔を見て拒絶した男に忠誠を誓うなど……」


 順を追って説明するのであれば──

 ・面談を終えて少女の元へ向かう。
 ・顔を見た途端、呪いで嫌悪感。
 ・嫌がるのを無視して、気功で治す。
 ・質問を経て、現在に至る。

 こちらとしても意味が分からないんだが、少女はある程度嫌悪感に耐えて、俺に対応をしていた。
 ただ、眷属と違ってその言葉は純粋なものではない……というか、それが普通だ。


「ご主人様、私はどうすれ──むぐっ!」

「ポーションだ。質問のために一時的に体を活性化させたが、流した分しか活性化は続かない。それに……そろそろ限界だろう、身を休ませておくんだな」

「わ、分かり……まし、た……」


 即効性の高いポーションを飲ませたので、少女はすぐに瞳を閉じてスーッと寝息を立て始める。
 奴隷商にはすでに話を通してあるので、少しの間だけ店を開けてもらっていた。


「こういうときのために、用意しておいて正解だったな」


 少女を抱きかかえ、奴隷たちを纏めて置いている部屋に移動する。
 入ってきた俺に注目するのだが、気にせずアイテムを取りだしてその場で使用した。

 すると、世界が暗転し──。


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