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偽善者と三つの旅路 十五月目

偽善者と帝国散策 その01

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 ヴァナキシュ帝国 首都カンカラ


 クラーレたちと別れ、単独行動をする。
 理由はいくつかあるが、やはりキナ臭いというのが一番の理由だろう。


「それ即ち、偽善者の独壇場なり!」

「……何言ってんだ、お前」

「ああ、お気になさらず。それより、もう少し情報をお願いします」

「……前金は貰ってんだ、その分はしっかりと教えてやるよ」


 情報屋の男に帝国について教わっているのだが、なんともハイリスクな街だということが改めて理解できた。

 今から三年前、放蕩の限りを尽くしてきた一人の王子が革命を行ったらしい。
 無能と呼ばれ、それ相応の力しか持たないはずだった彼は、一騎当千のスキルと優れた従者たちを連れて城を侵略、立ち塞がる者すべてを滅ぼして今の座に就いたんだとか。


「突然なんですね」

「ああ、当時の皇帝もそれなりに強かった。だがそれ以上に、今の皇帝は強いんだ」

「何か原因でもあるのでしょうか?」

「そうだな、あるかもしれないな」


 持っているが言いたくない、そんな情報を吐かせるにはお金が足りなかったようだ。
 白金の硬貨100000を投げると、一瞬呆けてからニヤリと笑って情報をペラペラと話す。

 中でも気になったのは、この話題だ。


「なんでも、現皇帝は熱心な宗教家でもあるらしい。自由と気儘の神『レティス』、それにご執着なんだとか」

「……何か理由でも?」

「さぁな、だが元はそんなこともなかったらしい。だが、そいつだけでなく他の神も崇めさせるようにお触れを出した。その事実だけはたしかに今も残っている──もしかしたらだが、神に選ばれたのかもしれねぇな」


 残念なことに、ほぼ間違いなかった。
 リオン曰く、レティスとは風属性担当の運営神──敵対する存在だ。
 こういった流れは、シュリュの場合と似ているかもしれない。

 突然得た能力──与えられたものだろう。
 突然得た従者──導かれた者なのだろう。

 何より、神を信じることこそがこの世界において、もっとも分かりやすい理由だ。
 宗教国家並みに強要しているわけではないようだが、少なくとも運営神の誰かを崇めるようにしろと言っているようだし。


「まあ、俺が知ってんのはこれが全部だ。別料金で調査も受け付けるぜ」

「調査は要りませんが──こちらを」

「……ああ、たしかに。さてさて、いつまで贔屓にしてくれるのか……ほらほら、帰った帰った」

「何かあったら、また来ます」


 口止め料をしっかりと渡して、情報屋の元から去る。
 絶対の保証は無いだろうが。少なくともすぐにバレる可能性はこれで無くなった。

 本来なら情報網であるPK君とリヴェルには、別のことを頼んでいるため帝国に関しては俺だけで調査しなければならない。
 シルフェフでも使った認識改変スキルを使えば、そういう仕事はお手の物だからな。


「にしてもまあ、色んな意味で賑やかだな」


 帝国では、信仰が促される一方であくどいことも行われている。
 その最たるモノが──非合法な商売だ。
 これが公認され、他の市場では売られてはいけない物が売られているぞ。


「錬金術にオススメ、一殺蜂アサシンビーの毒針は要らないか!」「高品質の麻酔ポーション、一ダース単位で販売中です!」「さぁ、コイツは有名な祈念者プレイヤーが落としてった装備一式。ファンなら買って当然だろ!」「こちらの奴隷は強靭な肉体で、アナタの盾となるでしょう。これがたったの金貨20枚!」


 凶悪な毒、筋弛緩剤、誰かの元所有物、そして奴隷……一つとっても別の国では捕まる品々が、所狭しと売り捌かれている。
 黒そうな商人が売っているならともかく、若い青年商人ですら眩しい瞳で普通に非合法の品を売っている……世も末だな。

 俺はそんな店の一つに向かい、そこの商人に話しかける。


「店主、少し話をしないか?」

「……はい! では、こちらへ」


 少し訝しんだものの、チラリと水晶でできた硬貨を入れた袋を見せただけでウェルカム状態となった。
 テントの中に入れられ、そこでさっそく商談をする。


「細かい話は好かない。この晶貸で、ここの奴隷は全部買えるか?」

「そ、それは……難しいですね」

「首輪の用意も契約術式も必要ない。衣服もこちらで整えたとしても、まだ無理か」

「……ええ、せめてこれだけあれば、できたかもしれません」


 指を三本立てて、商人はニコリと笑う。
 少し悪役チックな奴でも、イケメンに感じてしまうのが嫌な世界だと思う点である。

 そして彼は、テントの中に居た従業員らしき男に何かを伝え、奥に走らせた。


「とびっきりの商品が、こちらには居りますので……そちらを含めなければ、二枚で足りたかもしれませんよ」

「ほぉ、王族でも捕らえたのか?」

「……申し訳ありませんが、そういった方がお好みであれば別の所を当たってください」

「そうか? では、あとで紹介状だけ頂けないだろうか。自分で当たらせてもらう。が、今はここの奴隷の話だ」


 ちょうどさっきの従業員が、誰かを連れてこちらに戻ってきたところだ。
 商人は今の言動を怪しみながらも、大金を持つ俺への対応を考えている。

 次に何をするのか、少し楽しみだな。


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