1,019 / 2,518
偽善者と三つの旅路 十五月目
偽善者と捜索交渉 中篇
しおりを挟む「ん? ノロジーじゃないのか」
「師匠、ノロジーは勉強で忙しくなるって前に言ってたよ」
「アイツって、勉強しなくてもテストでいい成績が取れる奴だと思ってたんだが?」
「うーん、そうらしいけど。だけど、そこまで詳しいことが聞けるわけじゃないからね」
秀才で、飽くなき探求心が固有スキルを生みだした少女。
ついからかいたくて、たまに危険な化学物質をプレゼントしていたが……それとは関係ないはずだよな。
「それで、そちらさんは新人か?」
「あの……マスター、この人は……」
「紹介が遅れたな。二人共初対面だから、俺から紹介をしておこう」
ナックルが連れてきたのは、中学生ぐらいの背丈をした少女。
顔も童顔で、子供っぽい……んだが、見た目通りの年齢じゃない気がする。
「こいつは『アヤメ』……ああ、リアルの名前じゃないらしいぞ。まあ、なんやかんやでうちのギルドに所属することになった」
「どうも、アヤメです。ギルドリーダーに救われ、その恩返しとして所属を決めました」
「それで、コイツが…………なあ、お前ってどういう風に紹介すればいいんだ?」
「いや、それを俺に訊くか? 簡単にこっちで言うから別にいいよ」
態度がアレだからか、アヤメ……さんの態度も疑うような感じだ。
そんな視線に若干の興奮を……おっと、まだ眷属にも開いていない扉が開いてしまう。
「それじゃあ、適当に言うぞ。俺はメルス。見ての通り『ユニーク』所属の下っ端なんだが、特殊な職業に就いているから。リーダーとある取引をしている」
「貴方が……あの噂の?」
「おい、ちょっと待──」
「訊いているなら早いな。このギルドの中でも初期メンバーしか行けない例の場所、そこに関する担当者だ」
ナックルは俺が【迷宮主】であったことを誰にも言っていない。
また、同じくそれを知る初期メンバーたちも閉口令が出ているらしくそれを言わない。
「ギルドリーダー、その話は……」
「事実だ。コイツはこのギルドの誰よりも強く、常識に捕らわれない変人。だが、全員がそれを認めているからな」
「……そこにいるユウちゃんよりですか?」
「師匠は僕の師匠ですから。今の僕がいるのも、師匠のお蔭ですよ」
そう言ってニコリと笑うユウに、唖然とするアヤメさん。
その後、さらに険しい視線を俺に向けてくる……やだっ、本当に目覚めちゃいそう。
「信じられません。それこそ、全員がお認めになられるほどの実力があるとは……」
「あはははっ、師匠の実力は見た目からじゃまったく分からないもんね」
「おい、それってどういう意味だよ」
「けど、アヤメさんが師匠と闘うってなると大変だろうし……そうだ、僕が師匠と闘っている姿を見ればいいんじゃないかな?」
わけの分からない発言に首を傾げたくなるが、この場の者たちはなぜかそれで納得してしまっているようだ。
「なあ、メルス……」
「やれって言いたいんだろう? これをやれば、例の話は上手く纏まるのか?」
「ああ、アヤメは俺の代わりに秘書のようなことをしている。コイツの信頼を得れば、ギルドの半分ぐらいは動かせると思え」
「……分かったよ。俺も楽がしたい、そのためなら少しぐらい道化になるか」
このギルドハウスには、地下に訓練場が設けられている。
まあ、そういう場所でもないと修練ができないと思って用意したんだよ。
アルカとは前に闘ったが、ユウとは本当に久しぶりな気がする。
こういう機会だし、縛り中でも勝っておきたいな。
◆ □ ◆ □ ◆
SIDE:アヤメ
ギルドリーダーであるナックル様に呼びだされ、重要な交渉の手伝いをするように指示されました。
そのような案件に関わらせていただけることは大変嬉しかったのですが、そのあとが自分でも不思議でした。
ソファーに座る、ユウさんと言葉を交わす一人の少年。
白と黒の髪を混じらせた、それ以外は特に特徴を持たない普通の人。
そのはずなのに、私はその子がとても気に入らなかった。
ユウさんと話しているのも……その、少しだけそう感じさせましたが、それなら他のギルドメンバーでも同じように感じたはず。
一目見た時から気に入らない、そんな風に思えてしまうナニカ。
自分の感性が歪められてしまっているようにも思えてしまう。
そのことについて、をギルドリーダーに相談すると──
「ああ、それはアイツの呪いだ。たしか、見た奴の第一印象が最悪になるってやつだな」
「……なんですか、そのピンポイントで嫌がらせにしかならない呪いって」
「さぁな。俺たちはアイツに呪いが罹る前から接していたから、その呪いを気にしなくてもよかった。だから、その印象については少し気になるな」
「第一印象ですか、おそろしい呪いです」
人は八割方見た目で他者を判断します。
内面がどうなんて関係なく、ただ見た目が悪いからと信頼されないことなんてよくあることでしょう。
以降の関係も、一度本人が決めてしまったその認識を覆すことは難しく、また誰からも信用されない可能性だってあります。
「まあ、それ以降はアイツの行い次第で好くも悪くも見られるらしい。だからお前が好くアイツを思えるよう、闘おうとしてるんだ」
「そう、ですか……」
「見ておけよ。アレが最強で、俺たちの本当のリーダーだ。カリスマなんてないが……それでも面白いと興味をそそるんだ」
ちょうど訓練場で、ユウさんと彼──メルスさんの闘いが始まります。
あのナックル様がどこまで言うなんて……いったい何者なんでしょうか?
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?
破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。
そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。
無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる
そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた…
表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと
イラストのurlになります
作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)
虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~
三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】
人間を洗脳し、意のままに操るスキル。
非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。
「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」
禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。
商人を操って富を得たり、
領主を操って権力を手にしたり、
貴族の女を操って、次々子を産ませたり。
リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』
王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。
邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる