1,018 / 2,519
偽善者と三つの旅路 十五月目
偽善者と捜索交渉 前篇
しおりを挟む始まりの町
「──そろそろ何か見つかったか?」
「いや、待て……もう少し時間をくれ」
「その台詞を何度も聞いてなければ、俺もそれで了承したんだがな。残念なことに、そこまで優しくいられないんだよ」
やることがなくなったので、今日は催促をしにナックルの下を訪れていた。
余裕をぶっこいて飲み物を飲んでいたが、俺が入ってくると飛沫を飛ばしてきやがったが……そこはまあ、許してやったよ。
その代わりとして、ずっと前から挙げていた取引の品を受け取りを要求したが……どうやらまだ見つかってないらしい。
「そもそも、オープンソースとして開示されている方がおかしいんだ! こっちは一から探しているんだぞ、時間が足りない!」
「そりゃあ、俺と違ってナックルたちは忙しいってことぐらい理解しているさ。だが、それはうちで遊んでいないならの話だ」
「うぐっ……」
「フリーパスを渡したら、思う存分遊んで景品交換までしていく奴らに、俺がどうやって慈悲を施せばいいんだ? 俺の造った迷宮で遊ぶ暇があるなら、それこそ未踏破の迷宮でも潜ってこいよ!」
まあ、そのお蔭でうちの売り上げがいいらしく、民に人気なのは内緒だ。
ラントスにとって外からのお客さんは貴重な存在なので、ナックルたちの存在は彼らの士気向上にも使えているんだよな。
「けどまあ、俺は掲示板も使えないからそういうのがよく分からないんだ。迷宮で潜っているお前たちさえ見てなければ、どれだけ難易度が高いことを言っているのかも分からない……八つ当たりして、悪かったな」
「おい、止めろ。その大人な対応。俺たちの方が全面的に悪いのに、引き下がらせているみたいで後味が悪いんだが」
「そうだよな、現実じゃいろいろとあってそれを忘れるために来ている奴もいるか。それなのに、俺は命令ばかりして……旅館の方も使えるようにしてやるよ、そこでゆっくりと羽を伸ばして来いよ」
「それは行く、行くんだが……その罪悪感をしこりとして残すような言い方は止めろ」
旅館もまた、迷宮核を一つ使って生みだしたラントスの癒しスポットである。
俺の趣味全開で創り上げた、迷宮だからできるスペシャルな一時を送らせる夢のような場所……なのだが、入場条件のかなり厳しくしたため、あまり客は来ない。
「ちょっと待て。今、別の奴を呼ぶ。お前にそもそも一人で対応しようとした、俺の方が迂闊だった」
「それで話し合いが上手くいくなら、別に人が増えても構わないが……呼ぶ奴に関してはしっかりと弁えとけよ」
「知ってる奴だけにするさ」
立ち上がると、[メニュー]画面を携帯を使うような感覚で操作をしながらこの部屋から去る。
ウィスパー機能で誰かを呼ぶつもりなんだろうが、それってここでもよくないか?
一息吐いて、もう一息吐く。
そしてナックルの出ていった扉──ハウスの入り口とは別の場所の扉に向け、声をかけておく。
「ユウ、居るのは分かってるぞ」
「ふっふっふ……さすが師匠だね」
「ん? いや、別に索敵とかはしてなかったし、気づいてなかったぞ。なんとなく、お前が居る気がしたから言ってみただけだ」
「気にすることはないよ。僕と師匠の間に結ばれた絆が、それを成しただけなんだから」
会うごとに馬鹿さ加減が上がっている気がするユウは、部屋に入ってくると先ほどまでナックルが居たソファにスッと座る。
「師匠はまた、アレの催促?」
「できるだけ早く見つけたいからな。そのためには、一番優秀なギルドの力を行使した方が早いだろ」
「うーん……一度体験している側からしてみると、師匠の気がしれないけどね」
「クリアしたんだから別にいいだろう。それより、ティンスとかと最近いっしょに活動しているんだろ? あっちの方で見つかったりとかはしないのか?」
眷属にしたプレイヤーたちの能力値は、すでに普通の者よりも少しだけ上ぐらいの補正しか掛からないようになっている。
それでも[スキル共有]というチートスキルがあるため、彼女たちはかなり強い。
ナックルはそのうち、ギルドメンバーでもある二人──ユウとアルカに団体行動を強要しなかった。
そもそも何か崇高な目的があって造られたギルドではなく、当時固有な能力に目覚めていた者たちが集まってできただけだ。
そのため、ナックルは彼女たちを同じような存在と活動するように指示する。
まあ、要するに好きにしろってことだ……そういう気概のリーダーだからこそ、祭り上げられ慕われるんだけどな。
「師匠の眷属って、みんなバラバラなことが多いよ。時々集まるけど……イアちゃんは召喚職だからソロだし、シャインは自分のギルドもあるから。ペルちゃんも独りで居ることが多いね」
「オブリとティンス、ユウとアルカの組み合わせだけなのか。固定されているのは」
「そうそう、たまに師匠の迷宮を攻略する時は集まるし、イベントの時なんかも集まりはするけど……基本的には、掲示板でやりとりだけでどうにかなっているよ」
前回の育成イベントのときも、たしかそうだったらしいな……使いとして送ったアイツがシャインとコンタクトを取り、結構情報を回してもらっていたらしいし。
「それで、手がかりは見つけられたか?」
「少なくとも、僕とアルカは見つけられてないよ。もう、誰かが独占してクリアしてるんじゃないかな?」
それをやったのが主人公みたいな奴なら、別に構わないんだが……さて、ナックルが連れてくる奴との交渉で、少しは上手くいけばいいんだが。
0
お気に入りに追加
516
あなたにおすすめの小説
パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。
荒井竜馬
ファンタジー
『第16回ファンタジー小説大賞』奨励賞受賞作品
あらすじ
勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。
しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。
道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。
そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。
追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。
成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。
ヒロインは6話から登場します。
World of Fantasia
神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。
世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。
圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。
そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。
現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。
2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。
世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる