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偽善者と三つの旅路 十五月目
偽善者と赤色の旅行 その13
しおりを挟む「……どうやら満足していただけたようで、私も嬉しいですよ」
「たしか、砂糖って…………そ、それって物凄く高いんじゃ!」
「ああ、お気になさらず。私の居た国では、すでに安く売られていますよ。もちろん、そうでなくともお譲りはしていましたが」
「……本当かよ」
おっと、少し余計な発言をしたせいかまた信頼を失った気がする。
ガーの方はとっくに子供たちに馴染んでいるんだが、俺はお菓子を配らないと一時の人気も得られないんだよ。
「まあ、その件についてはおいおい話し合うとしてです。君たちの住む場所は、どこにあるのですか?」
「ここから東に行った街の孤児院だ。けど、どうしてそんなことを!」
「まあまあ、落ち着いてください。えっと、そこには銀髪のシスターが居ますか?」
「おい、なんで知ってる!」
シヤンが詰め寄って、俺の服を掴もうとするが……瞳を一瞬輝かせると、俺の居る場所は少し離れた位置となる。
突然俺がいなくなったので、勢いが止められなかったシヤンは、そのまま不思議そうな顔をして地に手を着く。
「なぜって、視たからですよ。そしてこれもまた、視た結果です」
「はぁ? 何を言って」
「──さぁ、孤児院に帰りましょう! 銀髪シスターがみんなを待っています! 帰りたい人は、手を挙げてください」
俺を疑っているが、それでも帰りたい気持ちは先の出来事で高まっていたのだろう。
シヤンを除く全員が手を挙げ、それを声に出して猛アピールしていた。
「ちょ、ちょっと待て!」
「はい……どうかしましたか?」
「助けてくれたことには……その、か、感謝している。だが、それとこれとは別だ! 信じられねぇ、どうやって帰るんだよ!」
「それはもちろん、転移ですが?」
それが悪いんだよ、と言わんばかりに指で俺をビシリと指し示すシヤン。
子供たちの方で一瞬、魔力が溢れた気がするが……振り返ってもそこには、綺麗なスマイルを浮かべたガーしかいなかった。
「転移なんて伝説級の力、使えるわけねぇだろ! 百歩譲って使えたとして、本当に俺たちを帰してくれるか分からねぇ!」
「なるほど……たしかに、君の意見はもっともなものです。しかし、それでも私は信じてもらいたいですね。今も銀髪のシスターは、皆さんの名前を呼んで泣いていますよ」
仕方ないので閃光眼を応用し、その様子をできるだけ再現して投影してみた。
すると効果は覿面、子供たちがシヤンに早く帰りたいと宣言し始める。
まあ、帰るべき場所と被保護者を見たのだから当然の反応なんだが……。
「みんなー、家に帰りたいですかー?」
『うん!』
「そのためなら、少しだけ何が起こるか分からなくてもいいですかー?」
『うん!』
なんだかクイズ大会みたいなノリになっているが、そこは気にせずにいてもらいたい。
物凄く不満そうなシヤンが俺を睨み付けるが、そちらは無視して伝えておく。
「分かりました。それじゃあ、私……では怖いと思いますので、私と手を繋いだガーにシヤン君が手を繋いでください。それからみんなでシヤン君かガーと手を繋ぎ、繋いだ子とまた別の子が手を繋いでください。そうすることで、いっしょに転移できますから」
「では、シヤンさん……手を」
「あ、ああ……」
ガーの天使の笑みを受けたシヤンは、抵抗力を失いそのまま言われるがままに手を繋ぐことを選んだ。
子供たちは二人の元にいっせいに集まり、仲良く手を重ねていく。
もちろん、俺の所には誰も来なかった……良いんだ、実は一人ぐらい来てくれるかなと期待なんかしてないんだもん。
「……飛びますよ。皆さん、帰りたい場所を強くイメージしてください。眼を開いた時、そこが皆さんの居場所となります」
ギュッと瞳を閉じ、何かを念じるように唸り始める子供たち。
その様子を俺とガー、シヤンで確認してから──俺も作業を始める。
「では、帰りましょう──お家へ!」
座標は先ほど確認した。
対象は全員俺と間接的に接触している……条件は満たした、転移を行おう。
◆ □ ◆ □ ◆
「みんな!」
子供たちが期待した声だった。
俺たちの目の前には、さっき投影した銀髪シスターが存在する。
一瞬状況が掴めなかったようだが、すぐに理解して走りだす。
『シスター!』
「ええ、そうよ。本当に良かった……探しに行ったシヤンも帰ってこないし、一時はどうなることかと思っていたのよ!」
感動の再開を邪魔するわけにはいかないので、俺たちはそっとここから離れ……ようとしたのだが、手を握られて動きが停止する。
「どうしましたか、シヤン君?」
「……あ、ありがとう。アイツらを連れて歩いていたら、どんだけ時間がかかったか分からねぇ。その……疑って、ごめんなさい」
「君は子供たちの代表者です。どれだけ人を疑おうと、自分の弟と妹たちを守ろうとする方が大切ですよ。君はみんなのことを、大切に思っているのでしょう?」
「あ、当たり前だ!」
その当たり前が無い地球だからこそ、俺のモブ思考は偽善を求めたのかもしれないな。
「君がいつまでも、そうしてみんなを守れるような子であってほしいです」
「あっ……」
「よしよし、よく頑張りました。君は本当に勇敢だった。私が保証します、立派に子供たちを守れていたと」
「うぅ、うっ……うぅ…………」
顔を埋めるシヤンを、俺は何も言わずに左手で背中を摩り続けた。
このとき右手で頭を撫でていたのだが、これはリーンの子供たちへの対処法を思いだしてしまったのが原因だな。
嫌がる子もいるだろうし、こういったとき以外はできるだけ控えておかなければ。
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