上 下
1,008 / 2,518
偽善者と三つの旅路 十五月目

偽善者と赤色の旅行 その12

しおりを挟む


「ガー、癒せますか?」

「はい。畏まりました」


 俺の問いに応え、ガーは現界すると子供たちへ回復魔法を施していく。


「うわっ! ど、どこから現れて……」

「いいですか、時には気にしてはいけないこともあるのです。君はお友達を救いたい、私たちは善いことをしたい……今必要なのはこれだけです」

「! そ、そうだった」

「改めて自己紹介といきましょう。私の名はノゾム。連れの者であるこちらのガーと、西へ東へ旅を行っております」


 よければ、君の名前もと問うと、少年はボソリと教えてくれた。


「……シヤン」

「シヤンですね。分かりました、これから少しの間ですがお世話になります」

「ハッ!? 何言ってんだよ、兄ちゃん?」

「簡単な話ですよ、シヤン。私たちは君たちが困っている所を助けました。そして今、私たちには泊まる場所がありません……」


 うん、この近くには無いし、探す手間も面倒に感じてきた。
 少年たちならば、この恩を売りつけるだけで雨風を防げる場所を教えてくれるだろう。


「お礼はそうですね……これでどうです? 旅ということもあって、食べ物だけならばたくさん用意しています」

「……毒があるかもしれねぇ」

「それを心配されると、もう私たちにはどういった説得もできませんね。実際に食べてみせる、というのは?」

「そっちだけが耐えられる毒かもしれねぇ」


 うんうん、用心深いのはいいことだ。
 すべてを信じ切ってます、という少し眩しすぎるガーといるからか、疑念というものが存在することにありがたみを感じてしまう。


「ノゾム様、子供たちが回復しました」

「シヤン、君がこのポーションを子供たちに飲ませてあげるといい。毒入りかどうか疑いたいなら、私やガーが飲んであげてもいいのですが……」

「いや、大丈夫。まだ信じ切れねぇけど、たぶん大丈夫だ」

「……そうですか。では、少し多めに渡しておきますね。まずは君が飲んでから、お願いします。それが安全性の証明となります」


 シヤンはガーの近くで意識を覚ました子供たちに近づき、一人一人無事を確認してからポーションを飲ませていった。
 遠巻きに様子を窺う俺を見て変な顔をする子供たちだが、やはり信頼できる兄貴分が居ると自然に落ち着いていく。

 こういったとき、直感を信じるという選択は馬鹿にできないものだ。
 理論詰めで人を信頼する、なんてことはそうそうできないことだ。
 だからこそ、人は己が信じた者を信じる。


「ほら、ゆっくりと飲むんだ」

「う、うん……」

「アイツらは大丈夫だ。何かあったら、俺がどうにかしてやるからさ」

「うん……」


 アイツら、というよりは俺独りを警戒していた子供である。
 ガーは彼らを癒しているので、子供たちもその恩義を無意識に感じているのだろう。
 ……【慈愛ベネボレンス】の効果もあるしな。

 一方の俺は、ここに来てからただ暴力を振るっていただけだ。
 鼓膜に入った大人たちの声も、しっかりと遮断しておけばよかったと後悔しているよ。


「さて、今のうちにやっておきますか」


 片っ端から鑑定と解析を用いて、誰か面白いスキルを持っていないかを調べて視る。
 大人たちには……無いな、魔人族らしいスキル構成でしかない。

 そして子供たち……まだ若いということもあり、未来眼を使えない今の俺ではその可能性も分からないな。

 ──だが一人だけ、俺の口角を上げさせてくれる人物がいた。
 子供たちには解析が使えなかったので完全ではないが、それでも不鮮明な情報があったのでほぼ間違いない。


「(ガー、ここに居た)」

《それは……! おめでとうございます》

「(まあ、このままだと死んでしまうかもしれないからな。ガー、全員纏めてやる形で癒しておいてくれ)」

《承りました。メルス様の命、全力でやらせていただきます》


 ちょうどポーションを全員に飲ませていたのだが、ガーが何かを説明して広範囲の回復魔法を発動させた。
 回復魔法は体を活性化させてポカポカする感覚を与えるので、子供たちも治ったという実感を得られるだろう。

 目的の人物もしっかりと生命の危機を免れており、俺も一安心できた。


「皆さん、お腹は空いていませんか?」

『…………』


 警戒する子供たち。
 そりゃあ当然だ、<畏怖嫌厭>の補正もあるが怪しいヤツが話しかけてくるんだから。
 全員シヤンの元に集まり、ギュッと抱きしめ合って不安を取り除こうとしている。

 だが、子供というのは正直なモノだ。
 誰か一人がお腹をキューと鳴らすと、連鎖反応を起こして全員がお腹を鳴らす。


「どうやら全員、何か食べたいようですね。そこの君、何が食べたいのかな?」

「え? え、えっと……甘いもの?」

「分かりました。少し待っていてください」


 どこかから取りだしても、それでは不安が残ってしまう……ので、ここで調理を行うことにした。

 ガーに用意してもらった調理器具一式を並べ、砂糖と水を同量で混ぜ合わせ、子供たちに見えるように耐熱性の紙の上に並べ──魔眼で温めていく。


「これを黄金色になるまで待って……完成です。一つ、いかがですか?」

「うん…………美味しい!」

「他の方々も、よければお一つ」


 その声に集まる子供たち。
 アツアツなので少し慌てる子供もいたが、一人も嫌がる者はいなかった。

 こうして俺は、お菓子のお兄ちゃんという定位置を獲得したのだ。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?

破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。 そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。 無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた… 表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと イラストのurlになります 作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)

虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件

こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。 だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。 好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。 これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。 ※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

処理中です...