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偽善者と三つの旅路 十五月目
偽善者と赤色の旅行 その09
しおりを挟む「まあ、そう簡単には見つからないか」
「あれから数日、メルス様とともに居られるのはとても嬉しいのですが……」
「仕方ないな。こればかりは、地道にやっていくしかないんだ」
ガーの言う通り、捜索からすでに何日か経過している。
強大な魔力を持つ者たちに接触を続けているのだが、『魔王』の候補者はまだ一人も見つけられていない。
「メルス様の素晴らしさを、魔人族の皆さまに伝えることしかできませんでしたね」
「うーん、そんなことあったっけ?」
「はい。実はこっそり紅蓮都市のことを教えてみたのですが……とても喜んでいました」
「へぇ、それって大丈夫なのか?」
この世界でいちおう、普人族と魔人族の間で軋轢が存在する。
偽邪神問題で少し薄れてはいるものの、その昔と語られるような過去の時代では戦争をしていたこともあるそうだ。
今は条約を締結しているわけではないが、互いに攻撃ができないぐらいには偽邪神の眷属たちによって戦力を減らされているのだ。
わざわざ干渉する必要がないからしていないだけで、その関係性はまだ悪いらしい。
俺とガーは魔人族に化けられるのであっさりと潜入に成功し、彼らと交流を築いた。
凝り固まった思想はどうにもならないが、新たな世代になればそういう考えは減る……たしかに魔人族もスカウトできたらな、と感じたんだけどさ。
「はい。この世界は最終的に、メルス様が王として君臨なさるのです。多少ばかり計画が早く進もうとも、受け入れる準備はしておこうかと」
「……いや、しないぞ」
「そうなのですか? ウィーが望む世界を、メルス様が好まないとは思わないのですが」
「うぐっ」
それに、カグとカカの居心地がよい世界を作り上げたいという思いもある。
だがそれも、一度扉を開いてからという考えでいたんだ……どうしてガーは、早く進めたがるんだろう?
「理由は……秘密です。いずれメルス様が、自ずと気づくことになるでしょう」
「……少し寂しいが、まあいいや。直接秘密だって言ってくれるだけ、秘匿が大好きな解析班よりマシだしな」
「ふふふっ、みんなメルス様が喜ぶようにサプライズをしているだけですよ。ご安心を、誰もメルス様を裏切ったりはしません」
「そっちの心配は……してないんだが」
裏切りには死を以って償え……なんてことは言わないし、殺る気も無い。
俺も覚悟はしている、眷属を惹きつける魅力なんて俺にはないからな。
だから、これだけは言っておいてある──裏切るなら、先に一言言ってくれと。
そうしてくれれば、俺も何も言わないし追いかけない……来る者拒まず去る者追わずを理想にはしているからな。
「さて、今日も今日とて探すわけだが……もう普通の場所は探し終えたな」
「はい。ですので、次はどちらに向かうのかと……いったいどこへ?」
「たぶん、ミシェルみたいなパターンなんだと思ってな。というか、まだ生まれていないというのはさすがに困る」
「それは……さすがにないでしょう」
うん、必ず居るとは思うんだ。
世界としても、必ず一人はストックしておかないといけないようになっているだろう。
理を遵守すること、システムに遵うことでしか世界は正常に動いていかないしな。
「まっ、そろそろ行くとしよう。どうせ俺は嫌われるし、ファーストコンタクトはガーに任せておくよ」
「はい!」
できるなら、偽善者らしく振る舞ってコンタクトを取りたいが……嫌悪を超えるインパクトを最初から与えるのは、なかなかに難しいことだからな。
◆ □ ◆ □ ◆
少年は走る、仲間を救うために。
時折嫌な予感はしていたが、まさか奴らがあんな手を使ってくるなんて……怒りに満ちた表情を浮かべ、道を駆け抜ける。
「アイツら……よくもみんなを!」
少し目を離した一瞬のことである。
どこかで雇ったのであろう魔法使いが、少年の仲間たちを攫っていった。
いつもは彼らを守っていた少年だが、さすがにその手はどこまでも届きはしない。
「出てこい! おい、ここに居るのは分かっているんだ!」
「──おいおい、馬鹿な奴だな。これが誘き寄せるための罠だってことを、ガキには理解できねぇようだ!」
辿り着いた廃屋の中、少年を迎えるように入り口に男が一人立っていた。
腰には短剣をぶら提げ、いつでも引き抜けるように姿勢を取る……少年がただ弱いだけでないことを知っているからだ。
「知ってるさ。だが、お前らが攫った仲間を返してもらわなきゃいけないんだよ!」
「……チッ。つまんねぇ奴だよ、お前。まあ別にいい、人質はこっちのもんだ」
おい! と男が叫ぶと、廃屋の中から幼い子供たちを縛り上げた大人たちが現れる。
子供たちはみんなグッタリとしており、その姿を見た少年は激高する。
「お前らぁああぁぁぁあぁ!」
「くははははっ! おいおい、大人しくしてねぇと首が斬れちまうよ。もちろん、こいつらのだけどな」
「ぐっ……」
「おいおい、なんだよその態度は? つい腹が立って、こいつらをイジメたくなっちまうじゃねぇか!」
そういうと、子供の一人の頭を叩く。
叩かれた子供は声を出す気力もなく、そのまま項垂れている。
「反抗的な態度を取るな。両手を上に、そのまま何もすんじゃねぇよ」
「分かった、分かったから何もするな」
「……はぁ、モノの道理が分かんねぇ奴だよな。するな、なんて腹が立つだろ!」
「や、やめろ……やめて、ください」
少年は再び叩かれる子供を見て、どうにか敬語を使い停止を促す。
その様子に溜飲を下げた男たちは、ニヤリと笑って──子供を叩き始める。
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