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偽善者と三つの旅路 十五月目

偽善者と赤色の旅行 その07

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 男のロマン閃光眼。
 片目だけから飛ばした光の線は、ジュッと老人の座る玉座を貫いていった。

 焼き焦げる玉座の臭いに老人はビックリしている様子……まあ、何重にも構築した結界が全部貫通されたんだしな。


「これこそが、俺の持つ二つの魔眼の力だ。降参するなら、今の内にしておけ」

「くっ、だが光属性だと分かっていれば……対策はどのようにでもなる」

「おいおい、本当にそれだけでいいのか? ご自慢の防御の色を変えただけか、なんとも悲しい防御なんだか」

「一人で抜かしているがいい」


 結界の多重展開、まあ技術としては立派なものだろう。
 一枚の結界に魔力を注ぎ込み、誰かと力を合わせて複数の結界を構築……なんて考え方も、嫌いではないんだが。

 やはり一人で複数構築を可能にしていないと、いずれ戦いに耐えられなくなる。
 自分の得意とする結界の攻撃しか受けられないんじゃ、当然壊されて死ぬからな。

 老人の展開した結界は──対光属性の物を多く構築した上で、対魔法のものはもちろんのこと、物理攻撃にもしっかりと対応できるように設定されていた。


「そうか……なら、抜かせてもらおう──その結界を」


 この台詞を言うと同時に、再び意味もなく髪をかきあげる仕草を取って閃光眼を放つ。
 しかし真っ直ぐ飛んでいくはずの光線は、結界の表層で停まってしまう。


「ふっ、その程度の威力でこの結界を突破できるなどと思わぬ」

「──なら、もう少し上げてーっと」

「なっ!?」


 ジジジッと音を鳴らし、少しずつゆっくりと結界の奥へと進行していく。
 閃光眼は途中から威力調整が可能なので、このようにして油断させることができる。

 案の定騙されていた老人は、貫かれる自身の結界をありえないと停止してしまった。
 まあ、最初から進路は老人を狙っていないので、そのままでも平気なんだが。

 光は老人の首筋のすぐ隣を貫き、玉座を焦がして消えていく。
 彼からしてみれば、首の後ろは熱いのに体は冷え切る……みたいな感覚になっているかもしれないな。


「さすがの武器破壊の使い手も、眼から飛びだす攻撃には対応できないか」

「な、何者なんだ、貴様は」

「だから、ファンだって。しいて情報を追加するなら、魔眼使いのファンだな」


 神眼というと揉めそうなので、その下位互換である魔眼使いということで纏める。
 もしかしたら、今の職業リストであれば本当にあるかもしれないな。


「そうか……」

「おっ、ようやく立つのか」

「貴様と戦闘になるのであれば、立たずにいては敗北を免れないだろう」

「あらら、そこまで重く見てもらえるとは嬉しいもんだな。けど、俺の魔眼は立ったところでどうしようもないだろ」


 閃光眼を何度も発動させ、モールス信号のように点滅させてみる。
 最初はビクビクとそれに反応していた老人だが、やがて俺が挑発をしているだけだと気づき顔に怒りの炎が灯り始めた。


「貴様の力はその二つの瞳。だが、そうしてたかをくくれば貴様は何かをしてくる。油断はしない、初めから全力で行くぞ」


 杖を握り締めて強い意志を向ける老人。
 そこに嵌められた黒い珠は妖しく輝き、ただの宝珠でないことを示しだす。

 本当、ここで鑑定眼を使えていればすべてが明らかになっていたんだけどな。
 未来眼も転移眼も、おまけに反射眼も戦闘では使えないし、本当に苦労するよ。


「魔眼の使い手──ファン」

「破杖の魔王──コゥカコーラ」


 互いに名乗りを上げる。
 特に意味は無かったが、やはりこういうときは気分で言うべきだろう。
 怒っていた老人も、このタイミングだけは理解者を見るように少しだけニコリとした。


『いざ、尋常に!』


 そして、同時に地面を蹴って動きだす。
 老人の杖は魔法の影響を受けてよりいっそう輝き、今にも何かを放とうとしている。
 俺もまた、瞳をチカチカとさせてすぐに閃光が放てるように準備を行った。


「輝け──閃光眼!」

「彼の者を滅ぼせ──“崩壊の光ブレイクレイ”」


 解き放たれた二種類の光が周囲一帯を埋め尽くす。
 光が視界を奪い去り、誰も何もできないような状態になる。


「うぐっ」


 そんな中、どこからか漏れ出た声。
 いったい何が起きたのか、それは光が収まるまで誰にも分からない。


  ◆   □   ◆   □   ◆


「お疲れ様──ガー」

「いえ、すべてはメルス様のご指示の通りですから」


 俺たちが見下ろすのは、ガーに気絶させられ倒れた老人。
 まさか老人も光による攻撃だったとは、さすがに俺も予想できなかった。


「その原因は……この宝珠、だよな。結界で包んであるから、すぐに解析班の方に回しておいてくれ」

「畏まりました」


 便利なタブレットを操作すれば、転送もすぐに完了する。
 タブレットの画面に宝珠を突っ込んだガーは、すぐにそれを仕舞い俺の方を向く。


「メルス様……結局この魔王は、本物だったのでしょうか? それとも、偽物だったのでしょうか?」

「ちょっと待っててくれ、そろそろ解析結果が出るはずだ」


 何度も言うが、鑑定眼があれば一瞬でできたはずなのにな。
 直に超級鑑定と超解析をかけ、調べなければならない現状に小さくため息を吐く。


「よし、分かった。この老人は──」


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