上 下
1,001 / 2,518
偽善者と三つの旅路 十五月目

偽善者と赤色の旅行 その05

しおりを挟む


 結論から言えば、魔王っぽい奴を発見することに成功した。
 それは比較的簡単なことで、見るだけで見つけられることに今さら気づいたのだ。


「──城を探せば、よかったんだな」

「ええ、さすがはメルス様です。まさかこの大陸の城すべてを、一度に探知なさるとは」

「それが今の俺にできることなんだから、やるだけやってみただけだよ」


 現在の縛り、それは──眼。
 縛りと関係ない基本パックを除けば、俺は現在瞳術しか使えないのだ。
 空を飛ぶにも転移眼を繰り返したり、そうでなくとも足場を固める必要があった。


「望遠眼と魔視眼で探ってみたら、思いのほか簡単だったな。ただ、鑑定眼が解放されていないのが残念だ」

「あれをお使いになられては、ほぼすべてのことができてしまうではありませんか」

「いや、そうなんだけどさ。人間やっぱり、楽が一番だって思う生き物だしさ」


 まあ、神眼全部が解放されては、全能を自粛している意味がないだろう。
 神の眼、と書いて神眼……そこに万能の一端が眠っているはずが無いではないか。

 そのため、相手を支配する眼や万物を具現化させる眼などは絶賛封印中だ。
 あくまで世間一般の瞳術使い、ぐらいに似せておきたい。


「とまあ、それは置いておいて……今はあの城の主についての話をしよう」

「はい。どのような方なのですか?」

「典型的な暴君のパターンだな。切り替えて視た死霊眼に、禍々しいまでに怨霊たちがその魔王を恨む姿が映った」

「まあ、なんとおそろしい」


 さすがに俺が視ているタイミングで、ピッタリそうした悪行をするということはさすがに無かった……主人公であれば、その悪逆ぶりをアピールするために、ちょうど女性キャラの処刑とかをやってそうだけどな。

 代わりと言ってはなんだが、その怨霊には女性の霊らしきものも加わっていたぞ。
 数は男と同じぐらいあったので、別にヤるたびに殺すヤるというわけではないのだろう。


「あとで除霊、というか成仏させてやろうとは思うが……先に作戦を考えないと。見た目は典型的な脳筋、近くに巨大な槌が置かれていたからほぼ間違いない。ガー、何か訊いた話に思い当たるのはあるか?」

「おそらく、『破槌のブドゥソーダ』と呼ばれる魔王ですね」

「ぶどうソーダ? ずいぶんと難儀な名前をしているんだな……」


 喉も乾いてきたし、ちょうどいいや。
 ガーにもぶどうソーダを渡して、その話の続きを促す。


「……美味しいです。なんでもその魔王は、自身が一番槍として突貫し、敵対する国の城塞を破壊。手下に街を襲わせ、悪逆非道の限りを尽くしているそうです」

「対処はできないのか?」

「一部の国が抵抗を試みたようですが、返り討ちにされたとのことで」

「見た目の割に、主人公に即殺されるようなキャラじゃ無かったってことか。いや、むしろそっちの方が悪役っぽいか。主人公が他と違うところを見せるため、誰にも倒せなかった相手を倒すパターンだな」


 前振りでは物凄く強そうな描写をしているのに、主人公が相手になるとすぐに負けるような奴っているだろ?
 たぶん、ソイツもそういうパターンだ。


「あとは……そうですね、近々また国を襲うことを近隣に声高々に宣言しているそうで」

「へぇ、いったいどこに行こうってのか?」

「海の上に突然できたとされる、謎の都市国家とやらに……つまりは、メルス様の国のようです」

「うん、ソイツは無視でいいか」


 何もしなくても死ぬのが確定しているし。
 わざわざ守護者と聖女の候補者(+騎士)が居る場所へ行くなんて……少し感動する。
 この出会いが引き金トリガーとなって、真の意味で覚醒するための助力となればいいんだが。


  ◆   □   ◆   □   ◆


「と、いうわけで別のお城に来てみました」

「メルス様、特徴は分かっておりますか?」

「そうだな……今度は老人タイプだな。杖を隣に立てている。魔王って、空間魔法を持ってない奴ばっかりなのか?」

「それはおそらく、『破杖のコゥカコーラ』でしょう」


 いや、だからどうして飲み物系なんだ。
 クソ熱い場所でそうした冷たい飲み物の名前を聞くと、とても喉が渇いてくる。


「ガー、こっちも飲むか?」

「あっ、はい……炭酸が沁みますね」

「このコーラもいろいろな味があるよな。そのうち、レモンさんとかバニラさんとかも出てくるのか?」

「どうでしょう。ウィーなどは何かに関連する名前ではございませんし」


 ……うん、思ってはいけないことを思ってしまった。
 もしかして、俺と同じようにモブキャラだからそんな名前なんじゃないかって。


「本当に、すみませんでした」

「どうされたのですか!?」

「いや、少しばかりやっちゃダメなことをしちゃってな。まあ、気にしないでくれ」


 そもそも、地球とAFOの世界だと名前の感性が異なるんだろう。
 これは創作物においても、結構存在するネタだよな。


「まあ、俺が名前を『へのへのもへじ』とかにしても、お前たちがくれた力に変化はないからなー。そういう意味じゃ、舐められるような名前にした方がいいのか」

「……そうなると、呼び方に少し困りますので勘弁してもらいたいですね」

「ん? ああ、偽名だけにしておくよ」


 そうだ、お気に入りの偽名──『ノゾム』以外にも名前を用意しておくか。
 生産用の名前とか、そういうのを用意する方がイイかもしれないしさ。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?

破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。 そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。 無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた… 表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと イラストのurlになります 作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)

虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件

こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。 だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。 好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。 これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。 ※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

処理中です...