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偽善者と三つの旅路 十五月目
偽善者と赤色の旅行 その05
しおりを挟む結論から言えば、魔王っぽい奴を発見することに成功した。
それは比較的簡単なことで、見るだけで見つけられることに今さら気づいたのだ。
「──城を探せば、よかったんだな」
「ええ、さすがはメルス様です。まさかこの大陸の城すべてを、一度に探知なさるとは」
「それが今の俺にできることなんだから、やるだけやってみただけだよ」
現在の縛り、それは──眼。
縛りと関係ない基本パックを除けば、俺は現在瞳術しか使えないのだ。
空を飛ぶにも転移眼を繰り返したり、そうでなくとも足場を固める必要があった。
「望遠眼と魔視眼で探ってみたら、思いのほか簡単だったな。ただ、鑑定眼が解放されていないのが残念だ」
「あれをお使いになられては、ほぼすべてのことができてしまうではありませんか」
「いや、そうなんだけどさ。人間やっぱり、楽が一番だって思う生き物だしさ」
まあ、神眼全部が解放されては、全能を自粛している意味がないだろう。
神の眼、と書いて神眼……そこに万能の一端が眠っているはずが無いではないか。
そのため、相手を支配する眼や万物を具現化させる眼などは絶賛封印中だ。
あくまで世間一般の瞳術使い、ぐらいに似せておきたい。
「とまあ、それは置いておいて……今はあの城の主についての話をしよう」
「はい。どのような方なのですか?」
「典型的な暴君のパターンだな。切り替えて視た死霊眼に、禍々しいまでに怨霊たちがその魔王を恨む姿が映った」
「まあ、なんとおそろしい」
さすがに俺が視ているタイミングで、ピッタリそうした悪行をするということはさすがに無かった……主人公であれば、その悪逆ぶりをアピールするために、ちょうど女性キャラの処刑とかをやってそうだけどな。
代わりと言ってはなんだが、その怨霊には女性の霊らしきものも加わっていたぞ。
数は男と同じぐらいあったので、別にヤるたびに殺すというわけではないのだろう。
「あとで除霊、というか成仏させてやろうとは思うが……先に作戦を考えないと。見た目は典型的な脳筋、近くに巨大な槌が置かれていたからほぼ間違いない。ガー、何か訊いた話に思い当たるのはあるか?」
「おそらく、『破槌のブドゥソーダ』と呼ばれる魔王ですね」
「ぶどうソーダ? ずいぶんと難儀な名前をしているんだな……」
喉も乾いてきたし、ちょうどいいや。
ガーにもぶどうソーダを渡して、その話の続きを促す。
「……美味しいです。なんでもその魔王は、自身が一番槍として突貫し、敵対する国の城塞を破壊。手下に街を襲わせ、悪逆非道の限りを尽くしているそうです」
「対処はできないのか?」
「一部の国が抵抗を試みたようですが、返り討ちにされたとのことで」
「見た目の割に、主人公に即殺されるようなキャラじゃ無かったってことか。いや、むしろそっちの方が悪役っぽいか。主人公が他と違うところを見せるため、誰にも倒せなかった相手を倒すパターンだな」
前振りでは物凄く強そうな描写をしているのに、主人公が相手になるとすぐに負けるような奴っているだろ?
たぶん、ソイツもそういうパターンだ。
「あとは……そうですね、近々また国を襲うことを近隣に声高々に宣言しているそうで」
「へぇ、いったいどこに行こうってのか?」
「海の上に突然できたとされる、謎の都市国家とやらに……つまりは、メルス様の国のようです」
「うん、ソイツは無視でいいか」
何もしなくても死ぬのが確定しているし。
わざわざ守護者と聖女の候補者(+騎士)が居る場所へ行くなんて……少し感動する。
この出会いが引き金となって、真の意味で覚醒するための助力となればいいんだが。
◆ □ ◆ □ ◆
「と、いうわけで別のお城に来てみました」
「メルス様、特徴は分かっておりますか?」
「そうだな……今度は老人タイプだな。杖を隣に立てている。魔王って、空間魔法を持ってない奴ばっかりなのか?」
「それはおそらく、『破杖のコゥカコーラ』でしょう」
いや、だからどうして飲み物系なんだ。
クソ熱い場所でそうした冷たい飲み物の名前を聞くと、とても喉が渇いてくる。
「ガー、こっちも飲むか?」
「あっ、はい……炭酸が沁みますね」
「このコーラもいろいろな味があるよな。そのうち、レモンさんとかバニラさんとかも出てくるのか?」
「どうでしょう。ウィーなどは何かに関連する名前ではございませんし」
……うん、思ってはいけないことを思ってしまった。
もしかして、俺と同じようにモブキャラだからそんな名前なんじゃないかって。
「本当に、すみませんでした」
「どうされたのですか!?」
「いや、少しばかりやっちゃダメなことをしちゃってな。まあ、気にしないでくれ」
そもそも、地球とAFOの世界だと名前の感性が異なるんだろう。
これは創作物においても、結構存在するネタだよな。
「まあ、俺が名前を『へのへのもへじ』とかにしても、お前たちがくれた力に変化はないからなー。そういう意味じゃ、舐められるような名前にした方がいいのか」
「……そうなると、呼び方に少し困りますので勘弁してもらいたいですね」
「ん? ああ、偽名だけにしておくよ」
そうだ、お気に入りの偽名──『ノゾム』以外にも名前を用意しておくか。
生産用の名前とか、そういうのを用意する方がイイかもしれないしさ。
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