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偽善者と三つの旅路 十五月目
偽善者と赤色の旅行 その04
しおりを挟む魔族の領地はまた別の大陸らしい。
と、いうよりもマグマオーシャンの比率が高い赤色の世界は、大陸と呼べる規模の場所が三つしかないらしい……地の無い土地だからこそ、より強い願望があるのだろう。
「まあ、別にどうでもいいんだけどさ。それより当てが外れたか……どうしよう」
「すべてはメルス様の赴くままに」
「──だもんな。とりあえず、情報をもう一度整理しておこう」
魔王はおそらく別大陸、勇者は行方不明、賢者は異空間にある塔型迷宮の奥。
この情報から見れば賢者に会うのが一番簡単そうだが、迷宮という危険な場所に居るのであれば行くのは難しい。
ならば魔王か勇者を、というのも大変だ。
魔王は自称も含めてたくさん居り、その中で一人だけいる世界が認めた本物の魔王を見つけださなければならない。
勇者もまた、大勢いる人族の中から探し出さなければならない……しかも未覚醒なら、何かのトリガーを用意しなければ捜査網に探知されないだろう。
「ガーを吹いて世界を終わらせれば、たしかにそれも簡単だ。けど、すでに縁があるこの世界でそれをやるのは忍びない」
「では、どうされるので?」
「うーん……それでも、一人は探さなきゃ来た意味がないからな。仕方ない、これも全部ガーとの旅行だと思えばどうとでもなる」
「まあ! それは楽しみです」
実際に旅行としての体を、はたして守り続けることができるのか……微妙だな。
「ではメルス様、まずはどちらへ?」
「そうだな……まずはここへ行こう」
ガーの肩を優しく抱き、一瞬辺りに強い閃光を生みだす。
光が収まった頃、俺たちの姿はそこから無くなっていた。
◆ □ ◆ □ ◆
魔族の大陸(仮)
大陸の名前は、世界同様適当に。
超高度から観測した座標へ転移し、大陸の端──崖っぷちに俺たちはやって来た。
「まあ、それなりに環境は悪いんだが……」
「炎の海と比べると、あまりおそろしく感じられませんね」
「毒とかいろいろありそうだけど、なんでも燃やす炎と比べるとなー」
眼を飛ばして調べてはいるが、危険区域と呼べるようなエリアが見受けられる。
妖しい紫色の炎が広がる湿地帯や、涼しそうな青色で燃える大地など……結局炎だらけのフィールドだ。
だが、一番ヤバいのは海である。
さすがになんでも燃える炎はカグの居た場所だけだが、それでも魔力が多く存在した海の中は強大な魔物だらけだ。
まあ、それはAFOの世界も同じか。
強力な魔物は海に多く存在し、陸から出ない代わりに野放しにされている。
数が多いというだけで、陸にも空にも強い奴は居るんだけどな。
「魔族の反応は……それなりにある。ああ、やっぱりここが魔族の大陸か」
「魔王かどうか、判別はつくのですか?」
「んー? いや、それは難しそうだ。竜系の種族もいるみたいだし、ただ魔力量だけで測定しても分かりづらいんだよな」
まあ、俺のやり方だとそうなるということだけれど。
俺は生命力と魔力と気力を用いて索敵しているのだが、それ以外の方法が存在する。
ただ、理解ができなかったため俺にはそれができなかった。
スキルがあれば、勘とか超広範囲での空間把握とかもできるんだけどな。
「魔王っぽい反応って、そもそもどんなものなんだろうな。魔力が多いだけでいいなら、それなりにいるんだが……」
「魔王が世界の悪意を統制する役目を務めるのであれば、より強大な悪意すらも捻じ伏せる必要があるのですよね? では、それさえできればどのような方でもなれるのかもしれませんね」
「種族としての魔王に、魔力が無い種族が該当するならそれもあるか。まあ、そうなるとゴーレムの魔王とかになるんだろうけど」
ありそうだが、おそらく違うだろう。
というかゴーレムも自分が使えないだけであって、素材によっては膨大な魔力を含んでいる場合があるし。
マシューもそうしたゴーレムであり、魔改造を繰り返した結果──魔王なんて軽く超越した存在になったんだが……今はいいか。
「縛りプレーの最中だから、あんまり強いスキルを用意してもらうのもな……魔王限定の探知スキルなんてあれば、よかったかもしれないな」
「メルス様、【勇者】の専売特許を取ってはダメですよ」
「そういう問題か? いやまあ、スキルじゃなくて能力の方に入っちゃうかそれは」
スキルにはそれぞれ要領というか、そのスキルごとにリソースが決まっている。
しかし、魔王を探すようなスキルともなれば膨大なリソースが必要となるだろう。
階級が一段階上がれば、使うことができるリソースの量も変わるらしい……前にスキル創造をしたときに予め調べてみたが、能力が強ければ強いほどリソースを使うらしい。
ただ、職業固有の能力として使うのであればその例外、つまりリソース以上の能力が使用可能となる場合がある。
単純に普通のスキルよりも職業固有のスキルのリソース枠が大きいのもあるし、普通のスキルよりも自由性があるんだよな。
「一般スキルとしては無理だな。けど、固有スキルとしてこういうスキルがあれば、便利になると思うんだ…………」
「……面白いですね。メルス様、これは私からではなくご自身でお伝えになった方が宜しいかと」
「まあ、言葉にしてる時点で少し解釈が変化しているだろうしな。そうだな、今度提案だけしておこう」
今回も連絡は遮断しているので、この会話が眷属たちに漏れることは無い。
報連相は、ちゃんと自分でやらないとな。
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