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偽善者と三つの旅路 十五月目
偽善者と赤色の旅行 その03
しおりを挟むそもそも、勇者と魔王なんて立ち位置が違うだけで似たような存在だ。
どちらも強大な力を有し、どこかの種族に肩入れする……集団の象徴となって、彼らの希望を叶える。
勇ましき者と魔の王だからな、そりゃあ大衆も上に崇めたくもなるか。
「まっ、そんなわけでとりあえず──魔族の支配領域を虱潰しに探していこう。魔王は魔族の血を引いていれば、誰でも可能性があるから一番面倒だ。だが、その分見つけられればセットで勇者が釣れるしな」
「引き寄せあう能力があるのですね」
「そういうこと。勇者、聖女、賢者にはそれぞれ別の方法で魔王を探す方法があるんだ。ただ、聖女のやり方だと今は邪神の眷属が釣れちゃうから使えない。そうなると、賢者か勇者だ。けど、それなら逆探知をした方が早く思えてな」
賢者が塔に引き籠もりを決め込んでいるのならば、それを引っ張り出すのはひどく時間がかかると思う。
少なくとも俺が賢者なら、絶対そうする。
カナタ以上の迷宮が構築され、来る者をすべて拒むだろう。
「魔王にも善い奴と悪い奴がいるけど、この世界の本物はどんな奴なんだろう?」
「たとえどのような魔王であっても、メルス様のお力があれば従わせることも容易く行えるでしょう」
「……黒いな、そこだけ聞くと」
「先ほども申しましたように、私の【慈愛】はメルス様に関するものだけ。メルス様がそれを望むのであれば、私はその力を以って願いを叶えてみせましょう」
まあ、ガーも百パーセントの【慈愛】だけで誕生したわけではない。
むしろ、そんな純粋すぎる想いでは身を滅ぼしてしまう。
「なら、俺の願いは一つ──家族が望む限りずっといっしょにいることだ。あくまでも、強制はしたくない。けど、俺としてはずっと居たいものだな」
「では、叶えてみせましょう。メルス様の願いは私たちの願い。望むままに、望まれるがままに……」
「いやいや、そこまでしなくていい。絶対にそれ、命を賭すとかそういうパターンだろ」
「はい、それはもちろ……きゃっ!」
かわいい声が、俺の胸の中で聞こえる。
翼が驚いた拍子に飛び出してくるが、気にせず強く抱きしめておく。
ここで創作物みたいな表現をするなら──彼女がどこへも飛んでいかないように……。
「……さて、それじゃあ行こうか」
「え゛っ!? この状況について、説明していただけないのですか?」
「…………察してくれ」
少しばかりキョトンとしたガーだが、すぐにその表情を満面の笑みに変える。
その喜びは翼がピコピコと動き、証明されていた。
さて、百パーセントの願いの達成なんて難しい状況にある。
しかもそれは、どれだけ自分の身を捧げようと尽きない対価を要求されてしまう。
対象人数が多ければ多いほど、その難易度は膨れ上がり、最後には絶対不可能となる。
今の俺は……まあ、どうなんだろうな。
「けどまあ、探し人たちともなると平和を貫くことなんて難しいんだろうな。前にジークさんが言っていたな、王の責務とはあらゆる苦難困難を取り払わなければならないって」
「そうなのですか?」
「ああ、らしいな。俺は眷属が居てくれたから関係ないけど、基本王は責任が伴う仕事のはずだからな」
初期はリョクが、主に政治を取り仕切ってくれた。
武具っ娘たちが自我を示してくれるようになった頃は、レンやグーも行政などをやってくれるようになる。
そして、今ではほぼすべての眷属が大小問わず何かをやっている。
ミントやカグですら、それなりに働いているのだ……俺って、本当ダメ人間だな。
「仕事、かー。もともと学生だった俺には、あんまり馴染みの無い言葉だよ」
「そういえば……メルス様は、まだ働いておられませんでしたね」
「まあ、やる気のないモブなんてそんなものだろうけどな。この世界じゃ職業、というか役割が与えられている……思うんだが、それは幸せなのか?」
「どうでしょう。より意義を見出せる職業であれば、幸福なのかもしれません」
逆に言えば、それができない職業ともなると不幸だというわけか。
けど、それは価値観で決まるものだよな。
「無職な俺には、『偽善者』って役割が本当にピッタリなんだよな。空っぽな部分とか、クリソツだろ」
「メルス様は……!」
「いや、半分は冗談だから気にするな。それよりも、自分ができることを考えないとな」
モブな俺でもできること、まあアルバイトぐらいだろうが……AFOの世界における俺の立ち位置から考えると、全然思い浮かばないんだよな。
「何でも屋、ぐらいしか浮かばないな。これなら偽善者としても働けるからピッタリだ」
「で、あれば私はアシスタントですね。もちろん、他の眷属と交代交代ですけど」
「日替わりで代わるアシスタントってのも、なんだか斬新な気がするな……」
まあ、俺の運営する世界で……しかも俺の名を挙げて店をやれば強制的に満員御礼となるだろう。
さすがにそれは嫌だし、考えて働かないといけないな──というか、面倒臭そうだ。
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