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偽善者と精霊踊る育成イベント 十四月目
偽善者と育成イベント完結篇 その10
しおりを挟む四十個が限界だそうだ。
前に称号で手に入れたどの種類か嵌めるモノを限定された枠が、今の時代では課金で獲得できるらしい。
課金、と言ってもリアルマネーでなくともAFO世界で膨大な金を稼げば問題ないらしく、金銭に余裕のあるプレイヤーは神殿に向かい購入しているんだとか。
そうして枠を増やして、理論上は四十になるという結果に至ったんだと。
「俺はたしか……三十個ぐらいだったか? こうなる前は」
「それでもかなり多いと思うが……まあ、あの頃は拡張系のアイテムが大量に配布されていたからな」
「──それに統合スキルを足さなきゃならないから……五十は余裕で超えてわ」
「……俺たちをからかってるのか? いや、言っていることは本当だと分かるんだが。今すぐにでも殴ってやりたい衝動に駆られる」
本気で言っているのか、拳がプルプルと衝動を抑えるように震えている。
だって、{感情}と(○○◯の可能性)スキルがかなりスキルを内包していたわけだし。
「けどさ、自由民だって数は無限だろ?」
「いや、たしかにそうなんだが……」
「この世界はあらゆることが可能なんだ。そのうち、自由民と同じように活動するプレイヤーが現れるかもしれない」
「規格の変更か」
ゲームのモード切り替えだったり、二週目以降に遊べるサイドストーリーだったり……まあ、思いつこうと思えば結構ある。
ちなみに自由民のスキル枠は、実際には無限ではない。
彼らの器が入る分までならば、どれだけ押し込んでも耐えられるというだけのこと。
本人自身がどれぐらいスキルを同時に行使できるか、それが理解できるため限界以上に並列起動することはほとんどない。
「まあ、自分から好き好んでマゾモードに来るやつはそう多くないだろ。いくらそういった人種だからと言ってもさ」
「どうだろうな? お前と同じペナルティがあるならともかく、最低限自由が確保されるのであれば……と思う奴も居ると思うぞ」
「マジかよ……」
「ああ、マジだ」
痛覚マックス、筋肉痛有り、身力値減少による体調の悪化……デメリットは多い。
まあそれは、自由民全員が背負っていることでもあるし──何よりその一部は、現実でも起きているものだ。
「なれるかどうかなんて、まだ可能性があるかも分からないけどさ。もしナックル、お前がそのチャンスに恵まれたらどうする?」
「俺は……そうだな、時と場合によるな。そこに家族が居るなら、それを受け入れ」
「──チッ、このリア充が!」
「急にどうした!? お前だって、ハーレムを創ってただろ!」
おっと、そうだったそうだった。
ハーレムというより家族という形に落ち着いてきたが、リア充を恨まなければならない理由は消滅し……てないな、うん。
「俺がハーレム持ちなのと、リア充を撲滅するのとは別問題だろ?」
「な、なんて理不尽な奴だ。絶対自分の方がいい思いをしているくせに」
「……なな、なんのことかな? そ、それよりもだ、リア充たるナックルよ。その家族はAFOをやっているのか?」
「いや、今はゲームができる状況じゃなくてだな。医者に止められているんだ」
へー、医者が止めるような状態だと。
まあ、これ以上は訊かないでおこう。
「そうか。なら、早くゲームができるような状態になるといいな」
「いや、俺としてはできるだけ安静にしてほしいんだが……」
「ん? まあ、来たら紹介してくれよ。後発のプレイヤーでも、すぐにナックルぐらいなら倒せる実力を渡すからさ」
「実力は渡すものじゃないし、この時期の世代が第一期の奴らに勝つんだったら元も子もないだろ……」
クラーレもたしか、何期だのと言っていた気がするな。
今、いくつまであるんだろうか?
知っても知らずともこの世界は謳歌できるし、どれだけAFOのパッケージが売れたかが分かるだけなんだがな。
「うーん、とりあえずナックルが女性に近づいたら分かるアイテムを渡しておこ」
「──止めろぉ! というか、なんで女性関係限定!?」
「あっ……、ごめんね。ナックル君は、そっちの気があったんだね。でも、ぼくは……その、そっちじゃないんだ」
「おい、止めろ……じゃない。止めてください、メルス様」
この様子を撮影しておけば、もしかしたら使いようがあるかもしれないな。
まあ、別にナックルの弱みぐらいとっくに把握しているから必要ないんだけれど。
「女性関係なのはアレだ──関係者が男だろうが女だろうが、ナックルの女に現を抜かすシーンは面白くないだろ? ……あっ、逆に面白いのか」
「…………もういい。メルス、イベントはそろそろ終わるぞ。話を変えようじゃないか」
「ふーん、つまらないなー。けど、時間切れなのか。じゃあ、今は諦めておくよ」
「いや、もう二度とごめんだ」
本当にこの話を完結させたかったのなら、思考速度を加速させた状態で思考同士を接続させればよかったのだ。
時間稼ぎ、というのはさすがに悪い気がするのだが……必要かどうかと聞かれれば、あまり無かったよ。
「けど、そこまで大切な話なんて残してないぞ? せいぜいそうだな、終わりギリギリの今しか話せないモノがあるくらいだ」
ふと、周りを見渡す。
イベントをギリギリまで楽しもうと、あちこちで最後の大技を放つ者たち。
〆の一発、というやつだが……さまざまなプレイヤーたちのアクションによって、現実でも見られない幻想的なものになっている。
「まあ、気楽に聞いてくれ。実はな──」
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