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偽善者と精霊踊る育成イベント 十四月目
偽善者と育成イベント完結篇 その03
しおりを挟むとは言っても、やることは変わらない。
精霊魔王として可能な行動など、一つしかないのだから。
「行け、すべてを蹴散らせ!」
「魔物たちよ、彼の魔王を滅ぼせ!」
精霊VS魔物、その組み合わせで戦っている様子であってもなかなか見られない。
使役された精霊であれば別だが、基本的に精霊は争いを好まないからだ。
上級精霊のように支配領域があれば別なのだが、そうでなければわざわざ一つの場所に固執する理由も無い。
魔物だって、物理攻撃無効な精霊をいちいちどうにかしようとは思えないだろう。
だが、俺と方舟の男によってそんな常識は覆されていた。
膨大な数の精霊と魔物たちが、互いに力をぶつけあっているのだから。
「──“虚無”!」
「現れよ、方舟の搭乗者!」
男の元に飛ばした“虚無”だが、その間に一匹の魔物が現れる。
それは──とても巨大な亀だった。
「攻撃反射か……厄介なことを」
「君のその技は見させてもらったからね、当然対策をさせてもらった」
「──だがしかし、貴様の想定など現実をはるか下回るものだ」
「どういうことだ……なんだと!」
すでにナースが突破した、あの亀なんだ。
似たようなことを俺も再現すれば、それだけで反射など無効化できる。
攻撃を微粒子単位にまで小さくし、特別な力を持つ甲羅に超高速でぶつけていった。
するとあのときを再現したかのように、反射の限界を超えた虚空の力が少しずつ亀を侵蝕していき──やがて悲鳴が上がる。
「“虚無”、“虚無”、“虚無”……」
「なっ、ななっ!?」
「どうした、俺の力に怖気づいたか? 頼りの亀がいなくなれば、貴様の自信とやらもすぐに折れてしまったか」
「……そんなはず、ないだろう。現れよ、方舟の搭乗者!」
召喚のキーとなる言葉を唱え、再び男はこの場に魔物を用意する。
巨大な亀……また同じかよ、と思ったのだがそうではないらしい。
「魔王の権能よ、彼の魔物を喰らい私の糧としろ!」
すると、悶え苦しむように再び吼えはじめた亀──次の瞬間、亀の足元から巨大な闇色の牙が現れ、亀を貪り尽くしていく。
ボリボリと甲羅を噛み砕く音が、なんともシュールで引いてしまう。
「ふっ、貴様は乗客を喰らうのか。さすが古き遺物、とんだオンボロ舟だな」
「なんとでも言うが良い。君もまた、最後にはこうなる運命なんだからね」
嫌な予感はしていた……が、まさかここまで厄介になるとはな。
亀がいなくなると、周囲の魔物と男に変化が生じた。
一瞬彼らの体が薄く光ったかと思えば、精霊たちの魔法が跳ね返されるようになった。
まあ、自分の魔法なのであっさりと無効化するか吸収しているのだが……どちらにしても、魔法が反射されたのだ。
「なるほど、喰らった対象の能力を他の者にも使えるようにするのか。犠牲を予め想定した、貴様の創造主と同じものか」
「安い挑発だね……それで、何が同じだというのかな?」
「俺の予想が正しければ、貴様の創造主はすべてを救ったわけではないだろう。生きられる者を選別し、それ以外のモノをすべて水の底へ沈めた。悪いことではない、それが矮小な人族の限界なのだからな」
「創造主は、自分にできることを精一杯やっていたさ。怒りはしない……だけどね、今の私には認めさせるという意志が有る」
精霊たちにある指示を送りながら、男との会話を続けていく。
先ほど生みだした“虚無”は使い道が無くなってしまったので、俺の体をクルクルと回りながら未だに維持されている。
「ほぅ、ならばどうするというのだ? 今は亡き主に代わり、世界に仇をなす魔王が」
「そんな小難しいことはあとで考えればいいさ。今は単純明快、目の前に居る敵を倒すことに集中すれば良い」
魔力が増幅していく。
魔物たちもその力を浴びているからか、何やら狂暴になっている気がする。
だがまあ、俺も負けるわけにはいかない。
ナースとコルナの頼み事というのもあるんだが、何より気になったことが多くてな。
「古き遺物よ、貴様の居るべき時代はすでに終わっているのだ。遺物は遺物らしく、どこかでひっそりと飾られているがよい」
「今の私は現役だよ──さぁ、抵抗できない精霊たちを滅ぼせ!」
進軍、魔法の効かない魔物たちがいっせいに前に出ていく。
対する精霊は魔法特化、魔力を用いることでしか戦うことができない。
「──それが常識、というものだな」
「なに?」
「ふっふっふ、ふははははっ、ふわーっはっは! 俺は精霊魔王、あらゆる精霊の理を覆す者なり! 貴様が知りうる古の知識など、俺の前では意味を成さない!!」
「それはどういう……なんだって!?」
そりゃあ驚くだろう。
精霊たちが少し強く輝いたと思えば、さまざまな魔物を模した人形が至る所に現れたのだから。
同じように武器やその他アイテムなども散らばるように展開し、魔物型の人形に張り付いていく。
「さぁ、踊れ俺の配下ども! 器は与えた、好きに暴れるがよい!」
答えは簡単、中に精霊が入っていて外身を動かしている。
……“精霊遊具”の応用版だ。
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