上 下
985 / 2,518
偽善者と精霊踊る育成イベント 十四月目

偽善者と育成イベント完結篇 その03

しおりを挟む


 とは言っても、やることは変わらない。
 精霊魔王として可能な行動など、一つしかないのだから。


「行け、すべてを蹴散らせ!」

「魔物たちよ、彼の魔王を滅ぼせ!」


 精霊VS魔物、その組み合わせで戦っている様子であってもなかなか見られない。
 使役された精霊であれば別だが、基本的に精霊は争いを好まないからだ。

 上級精霊のように支配領域があれば別なのだが、そうでなければわざわざ一つの場所に固執する理由も無い。
 魔物だって、物理攻撃無効な精霊をいちいちどうにかしようとは思えないだろう。

 だが、俺と方舟の男によってそんな常識は覆されていた。
 膨大な数の精霊と魔物たちが、互いに力をぶつけあっているのだから。


「──“虚無イネイン”!」

「現れよ、方舟の搭乗者!」


 男の元に飛ばした“虚無”だが、その間に一匹の魔物が現れる。
 それは──とても巨大な亀だった。


「攻撃反射か……厄介なことを」

「君のその技は見させてもらったからね、当然対策をさせてもらった」

「──だがしかし、貴様の想定など現実をはるか下回るものだ」

「どういうことだ……なんだと!」


 すでにナースが突破した、あの亀なんだ。
 似たようなことを俺も再現すれば、それだけで反射など無効化できる。

 攻撃を微粒子単位にまで小さくし、特別な力を持つ甲羅に超高速でぶつけていった。
 するとあのときを再現したかのように、反射の限界を超えた虚空の力が少しずつ亀を侵蝕していき──やがて悲鳴が上がる。


「“虚無”、“虚無”、“虚無”……」

「なっ、ななっ!?」

「どうした、俺の力に怖気づいたか? 頼りの亀がいなくなれば、貴様の自信とやらもすぐに折れてしまったか」

「……そんなはず、ないだろう。現れよ、方舟の搭乗者!」


 召喚のキーとなる言葉を唱え、再び男はこの場に魔物を用意する。
 巨大な亀……また同じかよ、と思ったのだがそうではないらしい。


「魔王の権能よ、彼の魔物を喰らい私の糧としろ!」


 すると、悶え苦しむように再び吼えはじめた亀──次の瞬間、亀の足元から巨大な闇色の牙が現れ、亀を貪り尽くしていく。
 ボリボリと甲羅を噛み砕く音が、なんともシュールで引いてしまう。


「ふっ、貴様は乗客を喰らうのか。さすが古き遺物、とんだオンボロ舟だな」

「なんとでも言うが良い。君もまた、最後にはこうなる運命なんだからね」


 嫌な予感はしていた……が、まさかここまで厄介になるとはな。
 亀がいなくなると、周囲の魔物と男に変化が生じた。

 一瞬彼らの体が薄く光ったかと思えば、精霊たちの魔法が跳ね返されるようになった。
 まあ、自分の魔法なのであっさりと無効化するか吸収しているのだが……どちらにしても、魔法が反射されたのだ。


「なるほど、喰らった対象の能力を他の者にも使えるようにするのか。犠牲を予め想定した、貴様の創造主と同じものか」

「安い挑発だね……それで、何が同じだというのかな?」

「俺の予想が正しければ、貴様の創造主はすべてを救ったわけではないだろう。生きられる者を選別し、それ以外のモノをすべて水の底へ沈めた。悪いことではない、それが矮小な人族の限界なのだからな」

「創造主は、自分にできることを精一杯やっていたさ。怒りはしない……だけどね、今の私には認めさせるという意志が有る」


 精霊たちにある指示を送りながら、男との会話を続けていく。
 先ほど生みだした“虚無”は使い道が無くなってしまったので、俺の体をクルクルと回りながら未だに維持されている。


「ほぅ、ならばどうするというのだ? 今は亡き主に代わり、世界に仇をなす魔王が」

「そんな小難しいことはあとで考えればいいさ。今は単純明快、目の前に居る敵を倒すことに集中すれば良い」


 魔力が増幅していく。
 魔物たちもその力を浴びているからか、何やら狂暴になっている気がする。

 だがまあ、俺も負けるわけにはいかない。
 ナースとコルナの頼み事というのもあるんだが、何より気になったことが多くてな。


「古き遺物よ、貴様の居るべき時代はすでに終わっているのだ。遺物は遺物らしく、どこかでひっそりと飾られているがよい」

「今の私は現役だよ──さぁ、抵抗できない精霊たちを滅ぼせ!」


 進軍、魔法の効かない魔物たちがいっせいに前に出ていく。
 対する精霊は魔法特化、魔力を用いることでしか戦うことができない。


「──それが常識、というものだな」

「なに?」

「ふっふっふ、ふははははっ、ふわーっはっは! 俺は精霊魔王、あらゆる精霊の理を覆す者なり! 貴様が知りうる古の知識など、俺の前では意味を成さない!!」

「それはどういう……なんだって!?」


 そりゃあ驚くだろう。
 精霊たちが少し強く輝いたと思えば、さまざまな魔物を模した人形が至る所に現れたのだから。

 同じように武器やその他アイテムなども散らばるように展開し、魔物型の人形に張り付いていく。


「さぁ、踊れ俺の配下ども! 器は与えた、好きに暴れるがよい!」


 答えは簡単、中に精霊が入っていて外身を動かしている。
 ……“精霊遊具エレメンタルグッズ”の応用版だ。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?

破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。 そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。 無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた… 表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと イラストのurlになります 作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)

虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

俺と異世界とチャットアプリ

山田 武
ファンタジー
異世界召喚された主人公──朝政は与えられるチートとして異世界でのチャットアプリの使用許可を得た。 右も左も分からない異世界を、友人たち(異世界経験者)の助言を元に乗り越えていく。 頼れるモノはチートなスマホ(チャットアプリ限定)、そして友人から習った技術や知恵のみ。 レベルアップ不可、通常方法でのスキル習得・成長不可、異世界語翻訳スキル剥奪などなど……襲い掛かるはデメリットの数々(ほとんど無自覚)。 絶対不変な業を背負う少年が送る、それ故に異常な異世界ライフの始まりです。

モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件

こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。 だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。 好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。 これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。 ※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

処理中です...