984 / 2,519
偽善者と精霊踊る育成イベント 十四月目
偽善者と育成イベント完結篇 その02
しおりを挟む『魔導解放──“果てなき虚構の無幻郷”』
その言葉を聞いた瞬間、男は世界から姿を消した。
気づけばそこは、何もない白の世界。
無限の地平線が広がり、どこまでも続いていく途方もない空間。
「ここは……いったい……」
自分はたしか、誰かと闘っていた。
世界の変化に一瞬忘れていたそのことを思いだすと、すぐに状況を確認する。
「そうだ……魔王、精霊魔王は!」
探してはみるが、あるのは自分自身とも呼べる巨大な木造船のみ。
自身と相対した少年は存在せず、ただただ何もない場所を知覚する。
「……彼の能力? いや、魔導だったね。まさかこの舟ごとどこかへ飛ばす力があるなんて……さすが魔導だよ」
魔導──あらゆる理を超越した力。
自身の魔力を代償に、世界を望むままに塗り替える究極の魔の術にして法。
魔力を導くということで魔導とされたその至高の力によって、自身がこの世界に飛ばされたことを理解した男。
いったい何の目的でそれを行ったのか……それは分からない。
「けど、そんなことはどうでもいいさ。私は決めたんだ、たとえ魔王になろうともこの在り方を曲げないと」
世界が否定したのであれば、誰よりも自分自身がその行動を肯定しよう。
すべてを救おうと、魔物すら救おうとした選択は誤っていないと。
「っ……!」
肯定しようと、そういった少年をふと思いだし苦い表情を浮かべる。
今振り返れば、彼の言葉に偽りは感じられたなかった。
ひたすら自分に思いを伝えようと、止めようと叫び続けてくれたのだろう。
「だからこそ、誰もいないこの場所に送ったのかもしれないね……彼だけがここを知っているというのであれば、いつか現れるかもしれない」
理屈ではない……だが、そうなるであろうと思えた。
一度戦ったからこそ分かる、繋がりというものを彼との間に感じられる。
「なら、私の選択は唯一つ。決着をつけようじゃないか、精霊の魔王。私の全力を以って君を──殺そうじゃないか」
数日前、男の決意は定まっていた。
方舟の甲板には、その言葉と共に膨大な数の魔物が生まれ始める。
◆ □ ◆ □ ◆
誰も居ない浮島で、空を仰ぎ見る。
前にも一度見たように、現実では見れないほどに美しい星々の輝きが存在した。
「やれやれ、こういう展開が一番だって望んだのは俺自身なんだがな」
あのままにしていては、きっとリンチのような倒し方をされていただろう。
だが俺はそれを拒み、誰もいない世界に方舟とあの男を追放した。
「お蔭で魔力は枯渇したが……さすがはナース、もう回復してるいるのだな」
《えへへー》
俺たちは再び“精霊合身”を使い、一つとなっていた。
膨大な魔力が俺の中を流れ、今なお尽きない感覚が仮初の全能感を俺に齎す。
ドラゴンたちとは別の意味で、人を酔わせる無限の魔力な気がする。
まあそれでも、{感情}がある限り身を委ねることはないから問題なしだ。
「やれることは全部やった……とは言い難いが、それでもまあ用意した方だ。ナース、コルナは連れていけんぞ」
『うんー』
「分かっているならいい……さぁ、俺にその魔力を委ねろ」
『おー!』
魔導の制御はナースには不可能だ。
生みだしたイメージは俺だけのもので、他の者に使うことは……まあ、ギーという例外はあるけど普通はできない。
集中し、魔力を解放する。
イメージはできた、すでに奴もまた俺をそこで待っているだろう。
さぁ、始めよう。
偽りの魔王たちの闘い──二回戦だ。
「魔導解放──“果てなき虚構の夢幻郷”」
◆ □ ◆ □ ◆
この魔導は、いつか起きるかもしれない強敵との闘いへ備えて用意した物だ。
ソウとの闘いでも分かったが、異常な力同士がぶつかれば甚大な被害が周囲に及ぶ。
ならばどうするか──そうならない場所へ相手を引き摺りこめばいい。
その上でそこで相手に対処すれば、外部に影響などいっさい起きないのだから。
「……ずいぶんとまあ、魔王らしくなったものだな──古の遺物よ」
「君こそ、たくさんの精霊を連れているようだね──精霊の魔王君」
「ここは俺が生みだした世界、貴様がどれだけ遊ぼうと現実には何も影響を出さない」
「魔導を使えるとは、君は卓越した魔導士でもあるようだ。けど、魔導使いにはそれなりの対処法があるさ」
魔導の存在を知っている?
ノアの方舟は紀元前の話だし……こっちの方舟も神代の遺物なのかもしれないな。
まあ、訊くことが増えただけだ。
「改めて問おう──貴様は俺に肯定されることを拒むのか?」
「ああ、必要ないさ。私自身で、世界に創造主と私のことを肯定させよう」
「……そのような魔物たちを連れてか」
「話し合いで済むのであれば、それでも構わないさ。あくまで保険だよ」
どうやったのか、舟に乗るのはそのすべてが王や帝を冠する魔物たち。
そうでなくとも、種族としてもともと凄まじい強さを持つ魔物ばかりだ。
「仕方あるまい。貴様を捻じ伏せ、俺に従属させてでも止めてやろう。貴様を救おうと俺と、俺と契約した者たちのためにな」
「従属? 余計なお世話だよ。君の精霊を従える権能を奪い、より強大な魔王になってみせよう!」
話し合いは失敗した。
ここからは対話(物理)の時間だ。
0
お気に入りに追加
516
あなたにおすすめの小説
パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。
荒井竜馬
ファンタジー
『第16回ファンタジー小説大賞』奨励賞受賞作品
あらすじ
勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。
しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。
道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。
そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。
追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。
成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。
ヒロインは6話から登場します。
World of Fantasia
神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。
世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。
圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。
そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。
現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。
2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。
世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる