上 下
982 / 2,519
偽善者と精霊踊る育成イベント 十四月目

偽善者と育成イベント終盤戦 その20

しおりを挟む


 偽りの魔王たちが争いを続けている。
 多種多様な魔物と精霊を使役し、支配下に置くことで相手を圧倒しようとしていた。

「さぁ、どんどん生まれてくるよ!」

「ふっ、それはこちらとて同じことだ」

 方舟は魔力を消費することで、その魔力に応じたレベルの魔物を生産する。
 対して精霊は世界のあらゆる所に存在し、そこに自身と適合する魔力があればどこからでも呼びだすことができる。

 互いに無限の兵を創りだすことができた。
 これまでは精霊魔王たるメルスには、精霊の強化能力があったため優位にこの場を進めてこれた……が、方舟魔王と自身を定義した男もまた、魔物を強化する能力をこの土壇場で習得してしまう。

「──現れよ、『魔子鬼王デミゴブリンキング』!」

「っ……!」

 男の叫びに呼応し、巨大な魔法陣から一体の魔物が出現する。
 緑色の皮膚を持った、爛々とした瞳を向ける巨大な魔子鬼。

「『豚鬼王オークキング』、『狗頭鬼王コボルトキング』……!」

「王の召喚……貴様とて、さぞ魔力を使うのではないか?」

「──『魔粘体王スライムキング』! ……けど、君を倒せるのであればそれで充分さ」

「なるほど、それが貴様の限界か」

 王種、と呼ばれる各種族の王たちを男は魔力を消費するだけでこの場に呼びだす。
 召喚であり、創造であり……選ばれし生命体を運ぶ約束の方舟は、魔なる者たちを厄災より逃す者たちだと選んだ。

 メルスや配下の精霊たちに攻撃が向かう。
 王種の力によって自動的に配下が生みだされ、物量は方舟魔王が有利となっていく。

「いくら雑魚を集めようと、真なる魔王の軍勢に勝てるはずがなかろう。さぁ、この場に馳せ参じよ──“精霊召喚サモンエレメンタル”!」

 精霊魔王であるメルスの召喚は、もちろん創造ではない。
 この世にどこかに居る精霊に呼びかけ、魔力の線を通じて場に呼びだすことで数を増やしていく。

「……はっ?」

「貴様が千の軍勢を率いるのであれば、俺は四程度で充分であろう。始祖たる四源の精霊たちよ、並み居る敵を屠り続けよ!」

『ハッ!』

 メルスがこれまでに“合精霊創造クリエイトエレメンタル”と呼ばれる魔法で生みだした、擬似上級精霊。
 仮初の自我を与えられた彼らは、主であるメルスの指示に従い各属性ごとに魔物たちへ挑んでいく。

「そして、貴様自身は俺直々に終わりを告げてやろう──ナース、来い!」

『うんー!』

「何を……する気だ?」

「観ていれば分かるさ。貴様の傲り、そしてその罪深さを悔いるがよい。魔王を自称したこと、万死に値する!」

 ナースはメルスが何をしようとしているのか分からなかったが、すぐに念話でやるべきことを伝えられて『おー』と応える。
 自分とコルナが頼んだことでもあるので、やるべきことに否定する理由もなかった。


『「──“精霊合身ふゅーずえれめんたるー”!」』


  ◆   □   ◆   □   ◆


 ナースを呼びつけ、使える精霊魔法の中でも俺オリジナルの魔法を使ってみた。
 本来の魔法“精霊憑依ポセッションエレメンタル”のように纏うように精霊を用いるのではなく、自身と同一化することで、より強大な力を得る。


「ナース……貴様、ここまで強大な力を得ていたのか」

《えへへー》

「なるほど、貴様を選んだ俺の選択はやはり正しかったようだ。この力であれば……奴に頭を垂れさせることもできよう」


 魔力特化の能力値を持つナースと合体状態になってみれば、全開時とは言わずともそれなりの魔力を得ることができた。
 この状態で、まだ聖霊となっていないのだから……どれだけの可能性を秘めているのかわくわくが止まらない。


「下がれ、配下たちよ」

『ハッ!』

「……何をする気d──」

「終われ──“虚無イネイン”」


 野郎の話を気にしてもアレだし、さっさと二人の願いを叶えることにしよう。
 飛ばした“虚無”は散弾銃のようにすべての魔物に触れ──その命を奪い去る。

 蹂躙とはこのことを呼ぶのだろう。
 どれだけ強いか弱いかなんて関係なく、触れただけで相手を即死させる。

 ──そう、抵抗する力があればギリギリ踏み止まることはできるが、それができる者は極少数だ。


「バカな……これほどとは!」

「古き遺物よ。魔王とは理不尽の象徴──勇者とは異なり、種族を背負う希望となる必要もない。だが、強くならねばならぬ。自らが定めしナニカを貫く……魔王に必要とされるのは、それだけだ」

「くっ、ま、まだ──」

「終わりさ──“虚無”」


 生みだされた召喚陣を破壊してしまえば、これ以上増やすこともできないだろう。
 男は見た、俺の周囲を漂う無数の絶望を生みだす球体の数々を。


「あっ、ああ……あぁあああああっ!」

「壊れるな──“精神強化マインドブースト”」

「うがぁああああぁっ!」

「チッ、抵抗力が上がっているな。魔王を称したことで変化を及ぼしたか……」


 この方舟、なぜか転職水晶があることを精霊が教えてくれたし……体内に組み込んでいることで、即座の転職か進化ができたのかもしれないな。


《どうするのー?》

「仕方なかろう──貴様らの願いはすでに聞き受けている。貴様が居るのであれば、一つだけ使える手段もある」

《ほんとー?》

「コルナ、カナを連れてすぐにこの場を離れろ! 時間も無い、速くしろ!」


 そう告げれば、コルナはすぐにカナの元へ駆け出していく。
 なぜ、などと問うている暇は無かった。
 すでに魔王としての力が馴染みだしているのか、男の強さは凄まじいものとなっていたのだから。


「……ふむ、ようやくか」

《けいやくしゃー?》

「仮初の隔離だ。そして何より、次に会えばどうなっているか分からぬ……それでも貴様たちは、救いを求めるか?」

《うんー!》


 ならば偽善者として、その願いに応えようではないか。
 借り受けた膨大な魔力をすべて使い、一時の平穏を得よう。


「魔導解放──!」


しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

World of Fantasia

神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。 世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。 圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。 そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。 現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。 2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。 世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。

パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。

荒井竜馬
ファンタジー
『第16回ファンタジー小説大賞』奨励賞受賞作品 あらすじ  勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。  しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。  道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。  そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。  追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。  成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。  ヒロインは6話から登場します。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

処理中です...