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偽善者と精霊踊る育成イベント 十四月目
偽善者と育成イベント終盤戦 その20
しおりを挟む偽りの魔王たちが争いを続けている。
多種多様な魔物と精霊を使役し、支配下に置くことで相手を圧倒しようとしていた。
「さぁ、どんどん生まれてくるよ!」
「ふっ、それはこちらとて同じことだ」
方舟は魔力を消費することで、その魔力に応じたレベルの魔物を生産する。
対して精霊は世界のあらゆる所に存在し、そこに自身と適合する魔力があればどこからでも呼びだすことができる。
互いに無限の兵を創りだすことができた。
これまでは精霊魔王たるメルスには、精霊の強化能力があったため優位にこの場を進めてこれた……が、方舟魔王と自身を定義した男もまた、魔物を強化する能力をこの土壇場で習得してしまう。
「──現れよ、『魔子鬼王』!」
「っ……!」
男の叫びに呼応し、巨大な魔法陣から一体の魔物が出現する。
緑色の皮膚を持った、爛々とした瞳を向ける巨大な魔子鬼。
「『豚鬼王』、『狗頭鬼王』……!」
「王の召喚……貴様とて、さぞ魔力を使うのではないか?」
「──『魔粘体王』! ……けど、君を倒せるのであればそれで充分さ」
「なるほど、それが貴様の限界か」
王種、と呼ばれる各種族の王たちを男は魔力を消費するだけでこの場に呼びだす。
召喚であり、創造であり……選ばれし生命体を運ぶ約束の方舟は、魔なる者たちを厄災より逃す者たちだと選んだ。
メルスや配下の精霊たちに攻撃が向かう。
王種の力によって自動的に配下が生みだされ、物量は方舟魔王が有利となっていく。
「いくら雑魚を集めようと、真なる魔王の軍勢に勝てるはずがなかろう。さぁ、この場に馳せ参じよ──“精霊召喚”!」
精霊魔王であるメルスの召喚は、もちろん創造ではない。
この世にどこかに居る精霊に呼びかけ、魔力の線を通じて場に呼びだすことで数を増やしていく。
「……はっ?」
「貴様が千の軍勢を率いるのであれば、俺は四程度で充分であろう。始祖たる四源の精霊たちよ、並み居る敵を屠り続けよ!」
『ハッ!』
メルスがこれまでに“合精霊創造”と呼ばれる魔法で生みだした、擬似上級精霊。
仮初の自我を与えられた彼らは、主であるメルスの指示に従い各属性ごとに魔物たちへ挑んでいく。
「そして、貴様自身は俺直々に終わりを告げてやろう──ナース、来い!」
『うんー!』
「何を……する気だ?」
「観ていれば分かるさ。貴様の傲り、そしてその罪深さを悔いるがよい。魔王を自称したこと、万死に値する!」
ナースはメルスが何をしようとしているのか分からなかったが、すぐに念話でやるべきことを伝えられて『おー』と応える。
自分とコルナが頼んだことでもあるので、やるべきことに否定する理由もなかった。
『「──“精霊合身”!」』
◆ □ ◆ □ ◆
ナースを呼びつけ、使える精霊魔法の中でも俺オリジナルの魔法を使ってみた。
本来の魔法“精霊憑依”のように纏うように精霊を用いるのではなく、自身と同一化することで、より強大な力を得る。
「ナース……貴様、ここまで強大な力を得ていたのか」
《えへへー》
「なるほど、貴様を選んだ俺の選択はやはり正しかったようだ。この力であれば……奴に頭を垂れさせることもできよう」
魔力特化の能力値を持つナースと合体状態になってみれば、全開時とは言わずともそれなりの魔力を得ることができた。
この状態で、まだ聖霊となっていないのだから……どれだけの可能性を秘めているのかわくわくが止まらない。
「下がれ、配下たちよ」
『ハッ!』
「……何をする気d──」
「終われ──“虚無”」
野郎の話を気にしてもアレだし、さっさと二人の願いを叶えることにしよう。
飛ばした“虚無”は散弾銃のようにすべての魔物に触れ──その命を奪い去る。
蹂躙とはこのことを呼ぶのだろう。
どれだけ強いか弱いかなんて関係なく、触れただけで相手を即死させる。
──そう、抵抗する力があればギリギリ踏み止まることはできるが、それができる者は極少数だ。
「バカな……これほどとは!」
「古き遺物よ。魔王とは理不尽の象徴──勇者とは異なり、種族を背負う希望となる必要もない。だが、強くならねばならぬ。自らが定めしナニカを貫く……魔王に必要とされるのは、それだけだ」
「くっ、ま、まだ──」
「終わりさ──“虚無”」
生みだされた召喚陣を破壊してしまえば、これ以上増やすこともできないだろう。
男は見た、俺の周囲を漂う無数の絶望を生みだす球体の数々を。
「あっ、ああ……あぁあああああっ!」
「壊れるな──“精神強化”」
「うがぁああああぁっ!」
「チッ、抵抗力が上がっているな。魔王を称したことで変化を及ぼしたか……」
この方舟、なぜか転職水晶があることを精霊が教えてくれたし……体内に組み込んでいることで、即座の転職か進化ができたのかもしれないな。
《どうするのー?》
「仕方なかろう──貴様らの願いはすでに聞き受けている。貴様が居るのであれば、一つだけ使える手段もある」
《ほんとー?》
「コルナ、カナを連れてすぐにこの場を離れろ! 時間も無い、速くしろ!」
そう告げれば、コルナはすぐにカナの元へ駆け出していく。
なぜ、などと問うている暇は無かった。
すでに魔王としての力が馴染みだしているのか、男の強さは凄まじいものとなっていたのだから。
「……ふむ、ようやくか」
《けいやくしゃー?》
「仮初の隔離だ。そして何より、次に会えばどうなっているか分からぬ……それでも貴様たちは、救いを求めるか?」
《うんー!》
ならば偽善者として、その願いに応えようではないか。
借り受けた膨大な魔力をすべて使い、一時の平穏を得よう。
「魔導解放──!」
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