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偽善者と精霊踊る育成イベント 十四月目

偽善者と育成イベント終盤戦 その19

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「き、君に肯定されて何になるんだ!」


 怒りと共に生みだされたのは、夥しい数の魔物たちだ。
 なんだかイっちゃってる印象があるし、おそらく狂化状態バーサークになっていると思う。


「やれぇ!」

「何度でも言おう、俺は貴様を肯定する──精霊よ、邪魔者をすべて排除しろ」

「ぐっ……」


 大気に漂う精霊すべてが俺の味方となる。
 さまざまな属性の下級精霊たちが力を合わせ、巨人や龍などの大型の生命体すらあっさりと屠っていく。

 大気に撒いた魔力を用いて発動する魔法の数々、高い属性適性を持つ精霊だからこそできる強引な魔力の行使によって、抗う暇もなく現れた者すべてが死んでいった。


「俺は精霊魔王、精霊を従えし魔の王。あらゆる精霊を捻じ伏せ、その力を奪い取ることさえ可能だ……意味がないので、やる必要はまったくないがな」

「くそっ、何が言いたいんだ!」

「別に。貴様が心を開くよう、戯事の一つでも呟いているだけだ。貴様を肯定、といってもすべてではない。神などという概念の塊でしかないもの、在るだけでしかないものだ」

「神が……在る、だけ?」


 やがて男と俺だけが残る。
 こちらの世界では、神の存在が近すぎるが故の問題も多々あった。

 邪神を蘇らせると騒ぐ奴や、いっそのこと人を神にしてしまおうと画策する奴ら……そして人に神を蘇らせる手伝いをさせる傍ら、暇潰しの中継映像として使う輩などだ。


「神のほぼすべてが眠りに着く今、かつてのような時代は訪れない。古き遺物よ、貴様の使命は今の世には必要の無いこと。たとえ貴様がどれだけ崇高な意志の元に動こうとも、世界は決してそれを善行とは認めない」

「だが、それがなんだというのだ! 私は創造主の姿に憧れた、魅了された、目指そうと想えた! 他の誰でもない、あの方のようになろうと思えた! その何が悪い、何が悪行だというのだ!」

「──だから、肯定すると言っているのだろうが。古き遺物よ、善行を行おうとしていると思うな。貴様の所業は偽善である」


 魔物を救う、という行為は世間一般から好ましく思われるような行いではない。
 むしろその逆、国によっては即斬首とされるような大罪でもあった。

 古の時代であれば、それをせざるを得ないイベントがあったのかもしれない……男が目指す創造主がそれを実行しても、崇められるだけで済む世界だったのかもしれない。

 しかし、時間は残酷にも等しく流れる。
 物事の定義は目まぐるしく移り変わり、やがて本質を見失った概念が否定されていく。
 本人の意志など関係なく、大衆の定義こそが真実なのだと塗り替わってしまう。


「世界は否定する、貴様の所業を。人々は否定する、貴様の乗客を。何より、聖なる神は貴様を許さない。悪しき魔物を運ぶ古き遺物よ、貴様は世界の恐怖でしかない」

「私が……恐怖……」

「だがまあ、安心しろ。俺が貴様を──」

「そうか。そうだったのか……私は、私のやるべきことは……」


 どうやら発言を誤ったようだ。
 なんだか瞳が昏く澱んだ男は、俺だけでなく二人も取り囲むように魔物を生みだす。


「なんのつもりだ、貴様」

「そうだね、君という反面教師が居るのだから参考にするよ──精霊魔王君、君のお蔭で私の御心は定まった。そうだね、今この世界に私は必要ないんだろう。当然だよ、これまで私はずっと眠り続けていたのだから」

「……何をする気だ」

「私は──魔王となろう! あらゆる命を救い上げる、希望の舟! それが厄災を運ぶことになろうと、私は私の意志を曲げない……もう、二度とね」


 これまでは抑えていたのだろう。
 一気に魔力が溢れ出ると、周囲を圧迫する強烈な威圧感が放たれる。
 男にそれをしている自覚は無い──なぜなら、意志そのものがそれを遂行しようとするだけで威圧となるのだから。


「さしずめ『方舟魔王』と言ったところか。希望を運び、絶望をもたらすとはなんとも皮肉な選択であろうか」

「良い名前だね、貰っておくよ。礼は……君の命で構わないね?」

「……いいわけなかろう。貴様のような自称魔王と違い、俺は世界より認められた真なる魔王──比べることが烏滸がましい」


 えっ、テメェも自称だろ……だって?
 まあ、職業として就かなければキャストには入れないからそうなんだけどさ。

 今の男の状態は、まだ酔っているだけだ。
 自分が世界から否定されるのであれば、どうあってもいいと思えているだけ。


「その傲り、肯定者として否定してみせようではないか! 貴様の姿がそうあるべきだと世界が肯定している今、俺はそんな貴様をすべて否定する!」

「君の意見はもう充分に聞いたよ。そのうえで言おう、もう必要ない」


 覚悟にも似たナニカが定まり、魔力の質が向上している。
 この場に現れる魔物たちも、一体一体の強さが格段に高まっていた。


「さぁ、魔王同士の語らいだ! 君という本物の魔王を倒し、私が新たなる真の魔王として降臨しようじゃないか!」

「くだらぬ戯事を。ならば貴様が俺の頭を垂れた時、それが貴様の終わりだと思え──魔王というもの、俺が教えてやろう!」


 本質的に言えば二人の偽魔王がはしゃいでいるだけだが……まあ、始まりってことで。


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