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偽善者と精霊踊る育成イベント 十四月目
偽善者と育成イベント終盤戦 その18
しおりを挟む「炎とは文明の象徴だ。よかったではないか過去の遺物よ、素晴らしき炎様によって貴様は終焉を迎えるのだからな」
「クソックソッ──なんで消えないっ!?」
「もう忘れたか、遺物よ? 俺は精霊魔王を冠すべき者、その配下となる精霊たちは一味も二味も優れた存在だ。たとえ貴様程度が抗おうと、それは無意味なことだと知れ!」
男は合精霊を少し馬鹿にしていたが、下級精霊だからこそできることもあるのだ。
そう──意思がある精霊が、わざわざ俺の言うことを聞くはずがないのだから。
「クックック。早く消さねば舟は燃え尽きてしまうぞ、さぁ抗え舟の守り人よ!」
「あぁあああああああああああああぁっ!」
「叫ぶことしかできぬ……ふむ、少しはやれるようだな」
魔力が男の感情に合わせて増幅し、炎を強引に鎮火しようと消費されていく。
魔力がある限り延々と燃えるように設定していたので、それ以上の魔力で干渉されてしまえばすぐに消えてしまう。
「ナース、コルナ。アレを相手取る必要はない、そのまま神殿を破壊せよ」
『いいのー?』
「構わぬ。それに、俺の力があればどうとでもなる」
『……おにね、ナースのけいやくしゃ』
まあ、鬼人たちの王だしな。
コルナもブツブツ言いつつも、ナースと仲良く同じことをするのが嬉しいのか、かなり魔力を消費して神殿を攻撃していく。
「────ッ!」
「やれやれ、言葉にならない想いとはどのようなものなのか……」
「────、────────ッ!」
風精霊による防音結界。
男が唾を飛ばして叫ぶことなど、偽善者たる俺が聞くとでも思っているのだろうか?
可愛い二次元の少女ならまだしも、男にそういう需要は無いしな。
「方舟も誓いを終えれば無残なモノよ。乗せるべき者を失い、ただ意思無き物どもを載せて運ぶだけの……幽霊船ではないか」
『どういうことかしら?』
「そうだな……過去の栄光に溺れているとでも言おうか。アヤツは自身が与えられた使命とやらに酔い、それを忘れられずにいる。すでに忘れられ、過去の遺物になったというのにだ。──死んでいるのだ、この舟は」
『そう、なんだ……』
いえ、適当に言っているだけです。
知らんがな、そんな複雑な事情なんて。
過去眼でもあれば分かるだろうが、あいにく縛りプレイ真っ最中の俺には分からない。
『ね、ねぇ、あれをどうにかできないの?』
「……何をしたい」
『あんなのかわいそうじゃない! わ、わたしにできることがあればやるわ! だから、その……たすけてあげられない?』
「ほぉ、魔王に人助け……いや、舟助けをしろというのか」
偽善者としてはそれがベストだろうが、今の俺は魔王をやっているわけで──
『けいやくしゃー』
「うっ」
『けいやくしゃー』
「…………」
そんな俺の思考を知ってか知らずか、ナースが俺の方をジッと見てくる(気がした)。
純粋な瞳をミントやカグに向けられた際と同じように、なんだか俺の中で物凄く罪悪感が込み上げてくるのはなぜだろう。
「ああもう! 貴様ら、それなりの対価をあとで頂くからな!」
『けいやくしゃー!』
『さすがナースのけいやくしゃね!』
『うんー!』
重い、物凄く気が重い。
どうにもできないから燃やして終わらせようと思ったのだが……どうして俺は、わざわざやろうとしてしまうのか。
──嗚呼、偽善者だからだな。
風精霊に結界を解除させると、再び発狂している男の声が耳に入ってくる。
代わりにナースたちの方に結界を展開し、せめてそんな声が聞こえないように施す。
「静かにしてもらおう──“精神強化”」
「き、君……なんのつもり……だ……」
「見ての通り、炎を消してやっているんだろう? 気が変わった──古き遺物よ、俺に従属するがよい」
「ふざけるな! 誰が君のような輩に、この舟を明け渡すものか! 果たされるべき使命のため、私はここを決して通さない!」
壊れかけていた精神を補強したら、どうにか俺に反論できるぐらいには整えられた。
明け渡す、と言われても……このままにしておくわけにはいかないんだよな。
「魔物を引き連れ、操る輩がどう言おうとそれは裁くべき悪だ。貴様の創造主も、今の貴様を否定するだろうな」
「そ、そんなはずは……」
「当然のように魔物を生みだす貴様の、いったいどこに善性があるのだ。貴様はしょせんこの俺と同じ、悪しき者なのだ」
「ち、違う……違うんだ……」
突然弱々しくなるのだが──“精神強化”の強弱を調整して、わざとやっているんだけどこれは秘密だぞ。
相手に精神を任せているからこうなるし、嫌ならさっさと戻ればいいだけなんだし。
「使命とはなんだ。貴様は何のために現世を彷徨う」
「……救いたかった。創造主のように、私も生きとし生きるものを。魔物を救ったのだってそうだ、居場所を失った魔物たちを救おうとして何が悪い!」
「誰が悪いと言った。たしかに貴様の行いは悪行であり、神はそれを否定する」
「そ、そうだ……けど、それでも私は……」
後ろの二人が期待の眼差しを向けているんだが……いつの間にか、風精霊の結界を解除してやがった。
まったく、いつから聞いているんだか。
そう思いながらも、俺は男に語りかける。
「──だが、貴様はそれを正しいと信じ続けたのだろう? 俺が、貴様の所業を肯定してやろう」
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