上 下
979 / 2,519
偽善者と精霊踊る育成イベント 十四月目

偽善者と育成イベント終盤戦 その17

しおりを挟む


「ここが……中枢なのか」


 屋根があるはずなのに光が降り注ぐ、まるで神に祝福されているとでも言いたげなその場所でボソリと呟く。
 まあ、こんな感じの演出を起こせる魔法陣があるのでおそらくそれだろうけど。


「──“魔法破壊マジックブレイク”」


 無精霊に注いだ膨大な魔力を以って、強引に見つけだしたその術式を破壊する。
 すると光はフッと消え、周囲は少し暗くなる……そして、神殿の柱に取り付けられた鉱石のような物に明かりが点く。


「方舟と言うのであれば、操者の一人や二人居るのではと推測していたのだが……読みが外れたか?」

「──そうでもないよ、そこの君」


 俺の声に出していた疑問に答えてくれたのは、ちょうど光源が再度点灯した俺たちの反対側となる場所に現れた者だ。

 白いトーガっぽい長い布を身に纏った、この世界の聖人のように真っ白な髪を持つ男。
 武器の類いは持っておらず、膨大な魔力を内に秘めていた。


「私の名前は──」

「やれ、コルナ!」

『わ、わかったわ!』


 自己紹介をしている相手に向けて、コルナは全属性フル全魔力バースト全開放出アタック
 魔法の雨霰が降り注ぎ、やがて男の周囲は立ち込める煙で視界を確保できないほどに荒れ果ててしまう。


「隠れてないで出てこい、まだ終わっていないのだからな」

「……始まってもいない、の間違いではないかな? 今を生きる君たちは、こうもせっかちになっているんだ……嘆かわしいよ」

「ふんっ、貴様は知らないようだな。時間とは、誰にでも等しく与えられるもの──などではない。故に人とは生き急ぎ、足掻こうとするのだ」

「それが今の定義なのか。なるほど、よく覚えておくよ」


 パンパンと埃を払うように服を叩いているが、魔力の膜で自分を守っているんだから何も付いていないだろうに。
 隣でコルナがショックを受けているが……まあ、ノーダメージなんだからお察しする。


「改めて自己紹介だ。私の名は──」

「行け、ナース!」

「君は学習というモノを知らな……っ!?」


 調子に乗っているのは、間違いなく俺なんだろう……だが、それでも勝たせてもらう。
 コルナと同等の威力と誤認していたナースの“虚無イネイン”によって、奴は強烈な一撃と共に開戦することになる。





 フルバーストしたコルナ、同じく溜めが面倒な一撃を放ったナース。
 二人を後方に下がらせると、縛り中でも使える水晶が嵌め込まれた長杖を握り締めて前に進み出た。

 男がようやく、視界に映ったからだ。


「ほぉ、服が汚れているではないか。今度は叩かなくてもよいのだな?」

「不意打ちとはいえ、まさかこれほどまでの力を持つ一撃で圧倒するなんて……いったい何者なんだい?」

「ふっ、ならば答えてやろう」


 意味もなく外套をはためかせ、精霊たちに演出を手伝ってもらいながら──騙る。


「俺こそは精霊魔王! 精霊王を超えし者、また聖霊すらも配下に並べし王の中の王! 俺の名において、貴様を滅ぼしに来た!」

「魔王? 君たちの世では、そのような存在が蔓延っているのか……なるほど、つまりは厄災の一つなんだね?」

「否、断じて否だ! 貴様こそが厄災、今の世に神より逃げ去る必要などない! 何をするでもなく、ただ役目を終えた古の舟は廃材とでもなれ!」

「……いつだって人は愚かだ。だけど、私はそれすらも愛そう。それこそが、私に与えられた使命であり祝福さ!」


 男が気持ち悪い……とまではいかないが、人類愛を謳ってクネクネとする動作は若干引いてしまう。
 後ろの二人からも、言葉には出さないが不快感が漏れ出ている。

 それを口にしないのは、男がそれなりの魔力量を誇る強者だからだ。
 鑑定眼が無いので詳細は分からないが、曲がりなりにも優秀な存在なんだろう。


「では、始めようか──この舟の解体を!」

「そうはさせないさ……現れよ!」


 精霊たちが放った無数の魔法。
 男が何かをすると、魔法を飛ばした先を守るように魔物たちが現れては肉壁となってそのすべてを受けきる。


「船客を使うとは……船長としては不適合な輩であったな」

「もちろん、私は船長ではないからね。載せることは約束したけど、乗せるかどうかはあくまで私次第さ」

「本当に廃材ではないか」


 じゃじゃ馬の舟版、ただし落とされると確実に死ぬという嫌がらせでしかない存在だ。
 上手く乗りこなすかあるいは潰すか……どちらにしても、肉壁召喚をどうにかしないと実行は難しいな。


「──“精霊変質チェンジエレメント”」


 集めた精霊の属性を変え、すべてを火属性にしてから。


「──“合精霊創造クリエイトエレメンタル火炎蜥蜴フレイムサラマンダー”」

「上級精霊……いや、下級精霊たちが上級精霊を模しているのかな?」

「行け、吐きだせ」


 俺から集めた魔力を火力に変換して、灼熱の息吹を吐きだす火炎蜥蜴。
 当然のように肉壁で防ぐのだが……コイツは馬鹿らしく、また防御を突破された。


「んなっ!?」

「俺は精霊魔王と言ったではないか。王たる者、配下の力を高めることなど児戯にも等しい……過去の遺物など燃え尽きてしまえ」

「貴様ぁああああああああああぁっ!」


 俺の煽りがウザいのか、それともコイツの煽り耐性が低いのか……後者だな。
 まあ、そんなわけで第二ラウンドの始まり始まりー。


しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

シスコンリーマン、魔王の娘になる

石田 ゆうき
ファンタジー
 平凡なサラリーマン白井海は、ある日、異世界の女の子と体が入れ替わってしまう。その女の子とは、魔王の娘であるお姫様だったのだ。しかし魔王の死後、領地のほとんどを失い、二ヶ月には戦争がおこるというギリギリの状況だった。海は愛する妹が待つ日本に戻ろうと奮闘することになる。 本作品は、小説家になろうにも投稿しています

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

劣等生のハイランカー

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す! 無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。 カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。 唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。 学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。 クラスメイトは全員ライバル! 卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである! そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。 それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。 難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。 かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。 「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」 学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。 「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」 時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。 制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。 そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。 (各20話編成) 1章:ダンジョン学園【完結】 2章:ダンジョンチルドレン【完結】 3章:大罪の権能【完結】 4章:暴食の力【完結】 5章:暗躍する嫉妬【完結】 6章:奇妙な共闘【完結】 7章:最弱種族の下剋上【完結】

異世界転生? いいえ、チートスキルだけ貰ってVRMMOをやります!

リュース
ファンタジー
主人公の青年、藤堂飛鳥(とうどう・あすか)。 彼は、新発売のVRMMOを購入して帰る途中、事故に合ってしまう。 だがそれは神様のミスで、本来アスカは事故に遭うはずでは無かった。 神様は謝罪に、チートスキルを持っての異世界転生を進めて来たのだが・・・。 アスカはそんなことお構いなしに、VRMMO! これは、神様に貰ったチートスキルを活用して、VRMMO世界を楽しむ物語。 異世界云々が出てくるのは、殆ど最初だけです。 そちらがお望みの方には、満足していただけないかもしれません。

ヒトナードラゴンじゃありません!~人間が好きって言ったら変竜扱いされたのでドラゴン辞めて人間のフリして生きていこうと思います~

Mikura
ファンタジー
冒険者「スイラ」の正体は竜(ドラゴン)である。 彼女は前世で人間の記憶を持つ、転生者だ。前世の人間の価値観を持っているために同族の竜と価値観が合わず、ヒトの世界へやってきた。 「ヒトとならきっと仲良くなれるはず!」 そう思っていたスイラだがヒトの世界での竜の評判は最悪。コンビを組むことになったエルフの青年リュカも竜を心底嫌っている様子だ。 「どうしよう……絶対に正体が知られないようにしなきゃ」 正体を隠しきると決意するも、竜である彼女の力は規格外過ぎて、ヒトの域を軽く超えていた。バレないよねと内心ヒヤヒヤの竜は、有名な冒険者となっていく。 いつか本当の姿のまま、受け入れてくれる誰かを、居場所を探して。竜呼んで「ヒトナードラゴン」の彼女は今日も人間の冒険者として働くのであった。

拝啓、お父様お母様 勇者パーティをクビになりました。

ちくわ feat. 亜鳳
ファンタジー
弱い、使えないと勇者パーティをクビになった 16歳の少年【カン】 しかし彼は転生者であり、勇者パーティに配属される前は【無冠の帝王】とまで謳われた最強の武・剣道者だ これで魔導まで極めているのだが 王国より勇者の尊厳とレベルが上がるまではその実力を隠せと言われ 渋々それに付き合っていた… だが、勘違いした勇者にパーティを追い出されてしまう この物語はそんな最強の少年【カン】が「もう知るか!王命何かくそ食らえ!!」と実力解放して好き勝手に過ごすだけのストーリーである ※タイトルは思い付かなかったので適当です ※5話【ギルド長との対談】を持って前書きを廃止致しました 以降はあとがきに変更になります ※現在執筆に集中させて頂くべく 必要最低限の感想しか返信できません、ご理解のほどよろしくお願いいたします ※現在書き溜め中、もうしばらくお待ちください

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

処理中です...