977 / 2,518
偽善者と精霊踊る育成イベント 十四月目
偽善者と育成イベント終盤戦 その15
しおりを挟む浮島に反射能力を持つ亀が居ただろう?
ではなぜ、そんな魔物がそこに居たのか?
──そんなもの、布石に決まっている。
「次は向こうだ。数分もすれば見える」
「い、急いで」
『承知した』
ハークが大空を翔けて俺たちを運ぶ。
精霊を使った探索法で浮島を見つけ、その場所を伝えるのが俺の役割だ。
そして、カナの役目は──
「み、みんな! お、お願い」
『了解!』
彼女が生みだした空間の歪みから、さまざまな存在が現れては浮島へ向かう。
魔物だけでなく聖獣や魔導人形のような者も含まれており、多種多様な軍勢を形成しているのだから実に面白い。
一体ずつ島に派遣されては、その浮島に居る魔物を倒す役割を果たしてもらう。
今の俺にもっとも欠けているモノ──物量に任せて強引に滅ぼしているのだ。
『客人、次はどこだ』
「ああ、おそらくはこれが最後になるだろうな……あそこだ」
『なるほど、不可視化まで施して隠すような場所であったか』
ハークに運搬されてすでに数十に近い浮島の魔物を滅ぼしたが、最後に感じ取った浮島は少しサイズが大きいように思えた。
これまでの浮島の五割増しサイズ、雄大なデカさが俺たちの視界に……入っていない。
周囲に結界が張られ、光を屈折させているのかそれとも単純に不可視にしているのか。
とにかく俺とカナの瞳では認識できないよう、何かしらの細工が施されていた。
まあ俺には精霊眼があるし、ハークも千の魔法の一つに看破系があるのだろう。
互いにそこにある存在が分かるので、何も支障は無いんだけど。
「貴様に突破する術はあるか?」
『可能だ。だが、魔力が尽きかけるな』
「あの島に降り立てば問題なかろう。それよりも、早く支度をしろ」
「は、はい!」
俺の命令なんて御免蒙るだろうが、主であるカナが俺に従っているのだから仕方なく結界を解除する準備を始めるハーク。
凄まじい魔力が一気に消費されると、俺の通常状態の眼にも地の全貌が映し出される。
「──船、ですか?」
「ノアの方舟、といったところか。神々の厄災から逃れた生命が積まれている……いささか大きさが異常だがな」
本来の方舟の大きさは、長さだけでも約十三メートルぐらいだったはず。
しかし目の前に存在するそれは明らかにそれを上回り、少なく見積もっても一キロはあるのではないかという広大さである。
『乗り込むぞ──カナ、客人』
「お、お願い!」
「ああ、早く行け」
舟の防衛システムでもあるのか、さまざまな魔物が現れてはハークに攻撃を仕掛ける。
同時に砲台のような物も用意され、射撃までされる始末。
俺たちは舟にある神殿っぽいアレの屋根部分に降ろされると、ハークは再び飛び立ち囮となって時間を稼ぐ。
その隙を突いて潜入を果たしたのは──俺とカナ、そしてナースとコルナだ。
「カナ、すでに仕組みは理解していると思うが確認だ。浮島の目的はなんだ?」
「う、海のイベントと同じですよね? た、倒さないと特別なバフが付いているという」
「そうだ。順当な流れで行けば、あの場で闘う者たち以外にも役割を与えるために浮島が用意されているのだろう……だが、そう長く持ちはすまい」
「は、はい」
残念なことに、プレイヤーの大半が大型レイドの方へ向かうだろう。
一部の者は俺たちの行っていることに気づくだろうが、自分たちが島へ向かう術が無ければ対処は難しい。
──最初に負けイベントとして用意されているのだから、ある意味必然だけど。
「あとで怒られるぞ、姉に……」
「?」
「なんでもない。それよりもカナ、まだ闘える者は残っているのか?」
「だ、大丈夫です!」
再び空間の歪みが生まれ、魔物が現れる。
さすがに特殊な存在はもう尽きたみたいだが、それでも数の暴力という意味ではうじゃうじゃと用意できるようだ。
そんな魔物たちが闘うのは、これまた舟の中に無限のごとく溢れた魔物たち。
種類は多様で、ノアの方舟を体現するようにさまざまな種族が居るのだろう。
神殿の屋根上でその争いを視ながら、今後の予定を話し合う。
「カナ、貴様はどうする。神殿の奥まで俺と共に来るか、それとも甲板で足止めをするかだ……好きな方を選べ」
「で、では足止めを。み、みんなとの連絡もしたいので」
「うむ、承知した。ナース、貴様は俺と共に最奥へ向かうぞ」
『おー!』
バサリと外套を靡かせ向かおうとするが、カナにそれを止められる。
「あ、あの! こ、コルナも連れていってあげてください。そ、その方がわたしも状況が把握できますので」
「……そう、だったな。コルナよ、貴様も俺と共に来い。ナース一人では荷が重いかもしれんからな」
『わ、わかったわ!』
「こ、コルナを……お願いします」
ペコリと頭を下げるカナ。
どういった反応をすればいいか少し悩んだのだが、ポンッと頭に手を乗せてそのままスライドさせていく──ナースが。
「な、ナースちゃん?」
『けいやくしゃはさいきょー! だからー、ぜったいぜーったいだいじょうぶー!!』
「そう、だな。カナよ、すべて俺に任せておくがよい。死に戻りなどさせぬ、ノーミスでクリアしてやろうではないか!」
どこかで観ているであろう者へ捧げる。
ゲーマーは、初見クリアが好きなのだ。
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?
破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。
そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。
無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる
そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた…
表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと
イラストのurlになります
作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)
虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~
三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】
人間を洗脳し、意のままに操るスキル。
非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。
「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」
禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。
商人を操って富を得たり、
領主を操って権力を手にしたり、
貴族の女を操って、次々子を産ませたり。
リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』
王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。
邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる