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偽善者と精霊踊る育成イベント 十四月目

偽善者と育成イベント終盤戦 その12

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 ギリギリの闘いであった。
 最後の一撃が聖属性に特化させたようなものだったのなら、無効化もできずにそのままやられていただろう。

 無属性に特化した精霊。
 それは裏返せば、無属性にしか対処できない精霊だということになるのだから。

 それでも足掻き続け、ナースは勝利した。
 俺の与えたすべてを使い、自身がかけれるすべてを用いて……辛勝だ。


『けいやくしゃー!』


 そんなナースに、俺は何をして応えればいいのだろうか。
 自分一人では何もできない、モブである俺にはよく分からない。

 演じた仮面を剥せばいいのだろうか。
 それとも、ナースの望む仮面を使い続ければいいのだろうか。
 ……実際に訊いてみれば、それも丸っと解決するよな。


「──よくやったぞ、ナース。俺の契約精霊としての使命を果たしてくれて何よりだ」

『うんー!』

「ああ、俺は貴様に誓ったな。何でも願いを聴いてやると、それは叶えよう。だが、もう少し待つが良い」

『えーーー!?』


 玩具を買う時間を伸ばされた子供みたく、拗ねるナースを見てホッとする。
 本当に嫌だと思っていたのは、ナースがこの言葉をあっさりと肯定することだ。

 無関心ほど、心にクるモノは無いからな。


「これから表彰式だ。貴様も栄誉を称えられた後の方が、俺からの褒美も嬉しかろう」

『うんー!』

「そうか……では、貴様を先ほどから気にしているあの狐の元へ向かうのがイイだろう。許す、行ってやれ」

『コルナー!』


 遠くでナース! と叫ぶ幼女の下へ、ナースはピュンッと一飛びで向かった。
 その様子を見ながら、彼らを育成した者同士で話を行う。


「カナよ、貴様の狐もなかなかに強敵であったのだろう。だが、俺の契約精霊にはまだ敵わなかったようだな」

「そ、そうでしたね、はい。ま、魔王さんたちには負けました」

「……貴様は、今後何が起きるのかを知っているか?」

「な、何かあるということは、し、知っています……け、けど、それが何かまでは分かっていません」


 まあ、聖獣の幼子を見つけるぐらいだし、それなりにイベントに巻き込まれているのかもしれないな。
 偵察用に精霊を憑けようとも思ったが、本当に必要になるかもしれない。


「──敗者よ、もし何かあったのなら俺と共に動かぬか?」

「えっ? そ、それは……」

「パーティーを組めと言うことではない、あくまで近くに居ろということだ。貴様の狐も俺の精霊も、しばらくはあのままにしておいた方がよいだろうしな」

「あっ、はい。そ、そうですよね」


 少し思っていた反応と違うが、とりあえずフレンド登録をパパッと済ませる。
 ──そして、当然ながら首を傾げられた。


「あ、あの……文字が黒く塗り潰され」

「──仕様だ」

「えっ? で、でもぉ」

「──仕様だ。連絡することは可能だ、一度試してみるがいい」


 魔王などという名を騙ったからには、それなりに隠しておく必要があった。
 偽装で名前を文字化けし、こんな風になったわけだ。

 やってみるとちゃんとウィスパーが繋がることを確認し、話を元の流れに戻す。


「間もなくアナウンスが始まり、表彰式を支度が整えられるだろう。そして功績者たちが舞台に上がったとき……それが始まりだ」

「は、はい!」

「俺たちにできることは支援だけだ。あくまで最初は、アイツらが主役となる」


 視線を向けた先には、キャピキャピと何か話している二人(?)の契約者たちが。
 俺は契約精霊だし、カナは聖獣を従えたわけで……簡単に従魔とは言えないな。


「あとは三位となったイアのドラゴンか。サポートとはいえ、いちおうは俺たちにもやるべきことがある……準備をしておけ」

「わ、分かりました!」


 カナがあわあわと何かしだす中、アナウンスが数十分後に表彰式を行う旨を発表する。
 俺はその待ち時間、イアに連絡を取った。


「(おーい、イア?)」

《あら、優勝おめでとう。あの魔王様プレイはやらなくていいのかしら?》

「(ああもう、いいからそういうの! それより、これから何が起きる?)」

《表彰式がトリガーとなって、イベントが起きる……ここまではいいわね?》


 アルカが言っていたし、リヴェルにも確認させた情報なので間違いない。
 その間を肯定と認識したのか、そのまま説明を続ける。


《これからここで起きることだけを纏めてしまえば、より強い力を持つ者……つまり上位三体の従魔だけが結界に囲われ、現れた敵と闘うことになるの》

「(へー、争わせたアイツらに今度は共闘をさせるのか。なんだか無理がないか?)」

《知らないわよ。けど、そういう展開ってよくあるヤツじゃない?》


 まあ、たしかにそうなんだけどさ。
 物凄く熱い系の創作物であれば、友情・努力・勝利が基本だし。


《まあでも、勝利はほぼ確定ね。メルスの従魔に私のルビ、それにあのカナの従魔が居るのだから間違いなんておきない》

「(……もしかしなくても、カナって実は有名人?)」

《当たり前じゃない。調教系の職業に就く人なら憧れる、最強の調教師らしいわ》

「(マジかよ……)」


 なんだか今日、一番驚いた気がした。
 全然見た目と合ってねー。

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