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偽善者と精霊踊る育成イベント 十四月目
偽善者と育成イベント終盤戦 その10
しおりを挟む『ふっふっふ、あなたはわたしを本気にさせたわ……ほこるといいわ』
『やったー!』
『そ、そこまでちょくせつよろこばれると、わるいきはしないわね……けど、さいごにかつのはこのわたしよ!』
『ナースだもーん!』
聖槍の一撃を消し去った“虚無”を受けてもなお、コルナは無傷の姿を誇っている。
実際には日に数度しか使えない無効化スキルで凌いでいたのだが、そんな事情を知らないナースは内心驚いていた。
『これこそ、わたしのしんのちからよ──ひぎ、“じんか”のじゅつ!』
『ふぉぉ~!』
だが、次の瞬間それ以上に驚く。
目の前でコルナの体に魔力が渦巻き、ゆっくりとその姿を変貌させていったからだ。
四足歩行で立つ狐の姿はなくなり、そこには小さな幼女の姿があった。
名残は頭部と臀部に生えた狐の耳と尾。
まさに獣と人の特徴を持つ、獣人族のような姿を持った少女である。
「どうよ! これこそが、わたしのもつしんのすがたよ!」
『ふぉぉ~、すごーい!』
「そ、そうかしら……てれるわ」
『うんー、すごーい!』
彼女たちは知らないのだが、人化は極めて高度な技術を用いなければならない。
たとえスキルとして(人化)を所持していようと、明確なイメージが行えなければ完全に人へ化けることはできない。
そういった意味では、まだコルナの人化は不完全なものだ。
今もナースの純粋な感嘆に、ピコピコと耳や尾を動かしているのだから。
──彼女が行ったのは『獣』人化である。
「け、けどこれであなたはおしまいよ!」
『ナース!』
「えっ? あっ、ご、ごめんなさいね。ナース、これであなたもおしまいよ!」
つい謝ってしまったコルナだが、さすがに自分の攻撃をこれまですべて無効化してきた相手が怒りかけた際に謝ろうとしないほど、驕ってはいないようだ。
すぐに改め、同じ言葉を続けて伝える。
「いまのわたしはまほうだけじゃなくて、なぐったりけったりできるもの。さぁ、おとなしくこうさんしなさい!」
『やだー!』
「……ならいいわ」
ボッボッボッ、とコルナの周りに妖しい炎が燈っていく。
ユラユラと揺らめく火の玉は形を変え、やがて数十もの灯りとなって辺りを取り囲む。
「この“きつねび”に焼かれてはんせいしないさい! かつのはわたし、このコルナなんだから!」
『ナースがかつのー!』
ナースは彼女のように、一定数以上の虚空エネルギーを同時に展開できない。
制御の修業を経て十以下の数であれば操れるようになったが、それ以上の数になると不安定になってしまう。
しかし、“虚空魔装”を用いることであらゆる魔力現象に虚空属性を付与することに成功した……つまり、魔力を出せばそれがすべて“虚無”へ繋がる一撃となるのだ。
『おひさまー!』
「おひさま? たいようのこと……って、なにそのまりょく!」
『おーきくなーれ、おーきくなーれ……』
魔力を注ぎ込み、ゆっくりと小さく生みだした球体を膨らませていく。
自らはその中へ入り、中から外へ押すようにして膨張の補助を行う。
コルナは見た、もっともその球体の近くにあった狐火が一瞬にして消される光景を。
理屈など関係なく、触れたものすべてを消滅させる力が襲いかかっていると。
「ま、まけないもん……わ、わたしは、カナとやくそくしたんだから」
正攻法で挑んでも、すぐに消滅させられるだけだ──ならば、どんな手を使ってでも球体をどうにかしなければならない。
「ちゃんすはいちどきり……しっぱいなんかしないんだから!」
覚悟を決め、突き進む。
展開していた狐火を一直線に並べ、自身の行く場所に合わせて先に飛ばす。
「いっこじゃだめでもなんこもあてれば……やった!」
少しずつ、ほんの少しずつ虚空属性の魔力でできた膜が削れていく。
魔装による付与であったのと、大きく膨らませすぎたのが原因である。
「いっけー!」
次々と狐火はナースの下へ続く道を築き上げ、そこをコルナは猛ダッシュで走る。
形振りなど構っていられない、今も狐火が開けられなかった隙間に触れた体が音も無く消えようとしていた。
しかし、自身の勝利のためには今の姿を保つ必要がある。
そう思い、どうにか発動しているすべての現象を維持しながら狐火で開けた道を進む。
「はぁ、はぁ……ここは?」
『すごーい!』
コルナが辿り着いた中枢は、虚空の力などない広い空間。
すでにナースが生みだした“虚無”による擬似太陽は会場を埋め尽くしているため、それと同程度の広さを誇る。
不思議に感じることも多々あったが、すぐに状況を認識してナースに拳を構える。
「もういちどいうわ、こうさんしなさい! さもないと、いたいめにあわせるんだから」
『むー、やだー!』
「そう、ざんねんね。なら、これでおしまいなんだから!」
拳に籠めた聖気をベースとして、七大属性すべてを注ぎ込んだ究極の一撃。
精霊を一瞬で屠ることもできる膨大なエネルギーの塊を宿し、ナースの元へ向かう。
『とりゃぁー! ……あれー?』
虚空属性で創り上げた弾をぶつけるが、コルナの姿は陽炎のように消えてしまう。
この空間そのものが自身の魔力で生みだされているため、感知を行うことはできない。
「それはぶんしん、ほんものはこっちよ!」
上手くその現象を利用したコルナは、自身の種族スキルである妖術を使い実体を持つ分身でナースを翻弄した。
そしてそのまま隠れて近づき……宿した一撃を放つ。
「──これで、おわりよ!」
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