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偽善者と精霊踊る育成イベント 十四月目
偽善者と育成イベント終盤戦 その09
しおりを挟む『ぜったいにまけないんだから』
『ナースもー!』
試合が始まる直前、ナースとコルナはそのように言葉を交わしたという。
互いに言語を持ち、他者と言葉を交わすだけの知性を有する。
すべては育ててくれた者のため、ここまで来たからには優勝しか目指していないのだ。
≪それでは決勝戦──ナースちゃん対コルナちゃんを始めましょう。試合……開始!!≫
そして、試合開始が告げられた。
互いに距離を取ると、開始前から用意していた強力な一撃を叩きこむ。
『くらいなさい──まほうのあめを!』
『むー、こうだー!』
『うそっ!?』
尻尾の尾から放たれた無数の魔法を、ナースは虚空魔法“虚無”ですべて呑み込む。
小さな球体に自身の魔法を無効化される、そんな様子を直接見てしまったため、コルナは一時的に呆然としてしまう。
『おかえしー!』
『さっ、“さいくろん”!』
ナースは“虚無”の形状を歪め、散弾銃のように虚空の力を外へバラ撒いた。
コルナはそれに危険を感じ、風魔法によって自身を宙に運ぶことでそれを回避する。
また、種族スキルである空歩で足場を中に用意し、空からの攻撃を行う。
『いくわよ──“せぶんずおーぶ”!』
コルナの周りに七つの宝珠が生まれる。
赤、青、緑、黄、白、黒、透明……七大属性と同じ色に輝くその珠を操り、攻撃を仕掛けていく。
『そのまほうも、ぜんほういからかこめばこわくないわ!』
『むー!』
『ふふんっ! どうやらずぼしみたいね、ならくらいなさい!』
珠はそれぞれ半自動的に魔法を放つ。
ナースを取り囲むようにそれぞれ別の角度から、鋭い槍の形をした属性魔力の射出。
『“こくーまそー”!』
しかし、ナースにはまだ策があった。
属性魔力と自身を限りなく同化させることで、その属性が持つ本来の性質を最大限に発揮する──魔力化というスキル。
虚空属性で行えばかなり危険ではあるが、それをナースは完璧に制御する。
『かうんたー!』
『んなっ!』
かつて自身がやられたように、それぞれの宝珠に最適量の虚空エネルギーをぶつけて破壊していった。
そしてほんの少しだけ優った分、魔力がコルナに向けて飛んでいく。
『そのていどでつうようするとでもおもっているの? ──“らいとうぉーる”!』
巨大な光の壁が、ナースの放った魔力弾を遮るようにそびえ立つ。
白い毛並みを持つコルナは聖獣、光属性に絶大な適性を持つ。
その聖獣が生みだした強固な壁──それが一瞬にして融けていった。
『くらえー!』
眩い閃光が会場を包む。
光の壁が突然崩れ、その魔力が形を失い放出されたのだ。
一瞬の隙とは、こうした瞬間に生まれる。
視界を光に奪われてしまえば、人は認識の大半をできなくなってしまうからだ。
『“ほーりーらんす”!』
ナースの死角を突くように現れたコルナの尾には、聖なる波動を放つ槍があった。
精霊に通用する聖槍を構え、勢いよくナースへ突きつける。
『──“いねいーん”!』
『えっ?』
だが先の話、そもそも人間ではない精霊には関係の無いこと。
たしかに魔力を帯びた光の影響で、一時的に辺りを探る感覚が失われたのは事実だ。
しかし虚空の魔力と化していた今のナースにとって、それを無効化することもまた容易く可能なことだった。
そして自身と同一化している魔力を用い、“虚無”をすぐ傍で発動する──これこそがカウンターである。
◆ □ ◆ □ ◆
うちの契約精霊、なんだかおかしい方向に強くなっているな。
俺以上に虚空魔法を使いこなしているのはまだいいんだが、俺だって魔力化はできていないんだぞ。
相手の狐も頑張ってはいるが、そもそも破壊特化の虚空属性を使い手であるナースに魔法戦とは無茶の極みである。
「うむ。カナよ、一つ訊きたいのだが」
「な、なんですか?」
「貴様の狐は、俺の契約精霊と同じくらい舌足らずなのだな」
「こ、言葉が分かるんですか? あの子の言葉、聖獣語ですよ?」
ん? ああ、そうだったのか。
言語チートである:言之葉:を使っている俺にとって、言葉の壁などあってないようなものなのだ。
あっ、ちなみに“翻訳”という魔法があるので、それを使えば他の者でもだいたいの言語は分かる。
使い手は、そう多くはないだろうが。
「俺にも聖獣の配下が居るのでな……それより、質問に答えてもらおうか」
「は、はい! え、えっと、コルナは今回のイベントで拾った仔なんです。理由は分かりませんが、どうやら親と離れてしまったみたいで……」
「なるほど、それを保護した貴様が自身の戦力として加えたわけか」
「そ、そういうことではないんですけど……ま、魔王さんはどうなんですか?」
俺がナースと契約した理由……まあ、単純だし隠すことでもないんだけどさ。
この俺としての理由も、いちおうは必要なのかもしれない。
「ふっ、決まっていよう。俺自ら精霊の生まれる地へ赴き、新たな配下を手に入れただけだ。貴様の狐同様、あらゆる生命は俺の契約精霊であるナースに屈する……そして、俺の名は魔王として永遠に語り継がれる」
「え、えっと……まだ、終わってませんからね。う、うちのコルナも凄いんですから」
「ほぉ、では賭けでもするか? 貴様の狐が俺の契約精霊に勝ったなら……そうだな、精霊を一体くれてやろう。貴様の性格からして強引なものは嫌がりそうだから、あくまで面接という体裁を取るが」
「そ、それなら嬉しいですけど……ま、負けないですからね!」
ずいぶんとまあ、自信があるようだが……俺もまた、ナースを信じているんだよな。
さて、そろそろフィナーレかな?
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