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偽善者と精霊踊る育成イベント 十四月目
偽善者と育成イベント終盤戦 その08
しおりを挟む正直、決勝の相手はイアなんじゃないかと最初は思っていた。
彼女はレベリングに不利な竜人族の召喚士でありながら、さまざまな努力を経て今の地位に至った実力者だ。
だからこそ準決勝で当たったとき、次の相手は勝手にそれ以下だと思っていた。
たしかにそれは事実なのだろう、使役職に就く者の中でイアは最強である。
──だがそれは、プレイヤー本体の戦闘力がというだけで、育成した存在は含まれていなかった。
故に俺は違った。
凶運云々など関係なく、ただただ単純に思考の幅を狭めていたのだ。
布石は整っていた。
答え合わせは済んでいた──目の前の光景がその真実を語る。
□ ◆ □ ◆ □
それは舞台の上の者を見ての驚き……ではなかった。
≪決勝戦を闘うのは──丸くて可愛い精霊のナースちゃんと! 艶々な尻尾が愛らしい狐のコルナちゃんです!≫
ナースとは反対側の入場口から上がってきたその狐は、基本的に白い狐だった。
だがその尾だけは異なり、虹色の艶を誇るという不思議な色合いを見せる。
しかしまあ、何度も言うがそこには別に驚いてはいない。
白い動物っぽい魔物ならクエラムがうちにはいるし、虹色というのも属性を表すという意味であれば強ちおかしくもなかった。
「そうか……貴様があの狐の使役者か」
「は、はい! あ、あのときの方も可愛い精霊ちゃんを育てていたんですね。な、なんだか不思議です」
──黒髪の少女が、反対側の入場口から現れ俺の元へ小走りでやってくる。
室内ではなく、光の射すこの場で装備を改めて見てみれば……なるほどたしかに、装備はただ暗ぼったいのではなく、そう見えるようにしてあるだけなのが理解できた。
「ほぉ、いったい何が不思議だと言うのか」
「あっ……す、すいません! そ、その、あまりイメージが合わないなって」
まあ、説明していなかった俺の格好は──いかにも魔王らしいものへ変えてある。
武闘会中ずっとそうだったのだが、追加オプションとして発注した魔王のオーラ的なものも、俺の禍々しさを高める要因の一つに上げられるのかな?
「け、けど納得です。闘いの映像を見ましたけど、あの精霊ちゃんは育ててくれた人のために本当に頑張っていると思いました。そして……その、魔王さんも……あのとき話していて悪い人ではないな、って思ってました」
「俺が……悪人ではないと」
「た、たとえ魔王を名乗っていても、あの精霊ちゃんへの優しさは変わりません。だからきっと、あの精霊ちゃんも魔王さんのために頑張っているんでしょうね」
「…………」
契約のためだ、と言いきろうとしたのだがなぜかできない。
不思議とおどおどとしているわりに、言葉には確固たる芯があるように思えたからだ。
俺が何を言っても、彼女は自分の考えを変えることはないだろう。
彼女にとっての俺とナースは、熱い信頼関係で結ばれたベストパートナー……みたいな感じになっているのだから。
だから結局、俺にはこう答えることしかできなかった──
「ふっ、好きにしろ。たとえ貴様が俺についてどう思おうが、それが勝敗に関わるわけではない。俺たち自身は、ただこうして見ているだけなのだからな」
「は、はい。そうですね、わたしもコルナを応援しかできません」
本当にしょんぼりとした空気になるので、なんだか慰めなければならないという気持ちになってくる。
魔王らしく、この状況を盛り上げるための台詞は……。
「まったく、何も干渉できないというのもつまらん時間だ。おい貴様、最後にヤツが闘う者を育てた者として、俺の記憶に留めておいてやろう……名をなんと言う」
「か、『カナ』です! そ、その、この名前にした理由は、本名──」
「一々言わんでよい。情報を漏らすのは、貴様にとっても好くはなかろう」
というか、現実に関する情報を聴いてもどうしようもないしな。
本名から使った? なら、そういう名前の少女なのかもしれない……まあ、『カナ』が名前に入るシリーズはいっぱいあるから特定はできないだろう。
「ごご、ごめんなさい!」
「構わぬ。そうか、カナというのか。ならば名乗ろう、俺の名は……メルスだ。あまりこの名は広めないでくれ、俺は『精霊魔王』を自負する男だからな」
少しの間の隙に、風精霊の遮音結界を発動させてもらった。
読唇術はできないよう、予め魔王のオーラ的なものを口の辺りにも漂わせているのでこれは彼女にしか伝わらない。
光精霊を向かわせ、俺たちの口元が分からないように光量を調節させておくのも忘れずにしておく。
俺一人なら先の一個で済むが、彼女が口を開けば遮音は意味ないしな。
「は、はい! 魔王プレイ、というやつですよね? 分かりました……ま、魔王さんともう少し呼ばせてもらいます!」
「ぐふっ……そ、そうか。好きにしろ」
なんだろう、ついに誰かから魔王プレイと言われたわけだが……妙に心に突き刺さるこの感覚は。
物凄く心が痛いし、何より若干の羞恥心が生まれてきた気がする。
だが、俺たちのそんな会話など関係なく、大会は滞りなく進行していく──そう、つまりは闘いのときだ。
≪それでは決勝戦──ナースちゃん対コルナちゃんを始めましょう。試合……開始!!≫
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