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偽善者と精霊踊る育成イベント 十四月目
偽善者と育成イベント終盤戦 その07
しおりを挟む「『精霊魔王』……この二つ名を与えるということが、どういった意味を持つのか。大衆は分かっているのだろうか」
『んー?』
「世界が、俺を真なる魔王と認めたのだ。この世界に居るかもしれぬ本当の精霊魔王、その力の一部が俺に宿った。もともと不可能に近いのだ、堕ちれば妖精となる精霊に魔王を生みだすことなど……」
ステータスに刻まれた『精霊魔王』なる二つ名──そう、本当に手に入ったのだ。
入念な準備もしていたし、『(笑)』が最後に付くことも覚悟していた。
そうならなかったのはきっと、ナースの力がそれほどまでに恐ろしかったからだろう。
「ナース、俺は魔王で貴様の契約者だ。だがしかし、精霊魔王には今なった……つまりは貴様を騙していたことになる」
『うーん』
「謝る気はない。だが、少しは悪いと思っている。これから俺の傍に居て、償いを見ていてはくれないか? 退屈にはしない」
『お、お~~~!』
物凄く超高速で微振動を始めたが、何か問題でもあったのだろうか?
幸いにして、すでに場所は二人っきりな控え室の中。
何があろうと、誰にもバレない。
「ナースよ」
『ん、んー?』
「進化はまだせぬのか? 次の闘いは、相当に厳しいものとなるはず」
『──むりー!』
あっさりと断られてしまった。
いやまあ、別にいいんだけどさ。
俺の優柔不断な思考能力は、もうこのままでも充分に強いナースを現状維持でもいいかと思い始めている。
なぜなら、目的の<虚空魔法>スキルを習得したからだ。
そこまでしたのに、わざわざ聖霊として昇華させる? おまけでしかないだろう。
あとで妖精化や別種への変質だけは起きないようにするが……あとは別に構わない。
「いつか、貴様のペースで成ればよい。いつまでも待とう、そのときとやらを」
『けいやくしゃー!』
「お、おい、止さぬか。貴様とは俺は……そう、契約を結んだ間柄だ。俺が魔王として世界に干渉するのであれば、貴様が居るのも当然のことだ。だが、それ以外の場合にはどうだろうな」
『むー!』
借りた権能を振るうだけでいいのならば、他にも【不死魔王】やら【魔獣王】やらあるのだが……まあ、それはいいか。
魔王という名が、魔物たちの王と言う意味以外を持つことも知っている。
魔法の王だったり魔武具の王だったり……そこに強いイメージさえあれば、そしてそれが恐怖や畏敬であれば悪の魔王となるのだ。
「言ったであろう、俺には眷属が居る。俺の契約精霊は貴様しかいない。だが、契約を交わした聖霊であればすでに存在する」
『…………』
「貴様のレベルはすでにカンストを超えている。それは俺の力であり、『精霊魔王』の持つ力でもある。故に貴様は、まだ精霊で有り続けている……選択を誤るな」
まあ、じゃあ正しい選択を教えろと言われても分からないんだけどさ。
少なくとも導士の干渉によって、ナースが選ばなければならない道は無くなった。
無限に広がる道の中で、これと思うものを選べばいいのだ。
「さて、次がいよいよ決勝だ。これに勝てば俺も、貴様を認めようではないか」
『んー?』
「何がおかしい? たしかな結果を見せてきたのだから、俺がそれ相応に報いるのは当然ではないか。魔王であろうと、誰も付いてこぬような真似はせぬ。大切なのは……いや、なんでもない」
『えー!』
人化も王化も聖霊化もしないナースには、言わないでおいたほうがいいだろう。
口調から分かる知能レベルもあれだし、一度教育から始めないとダメそうだしな。
「なんだ、俺の話に不満でもあるのか? ならばさっさと進化するのだな」
『ひどいー!』
「ふんっ、俺は貴様の進化した姿を見たいというのに……それを出し渋る奴に、俺はそう甘い顔はせぬ」
『……みたいー?』
俺の言葉にそう尋ねたナースの声は、なんだか心配そうな様子で……。
一度精神状態を平常にして、ゆっくりと考え──解答を述べる。
「好きにするがよい。俺がそれを求めた理由は、すでに失われた。貴様は俺の命を受けるのではなく、自らの意志でその選択を選んだのだ。ならば俺に訊くのではなく、貴様自身で選べ……何になりたいのかを」
『んー』
「時間など関係ない。最終的な結果が、貴様の望むべきものであれば構わない。これはすでに、告げてあったではないか」
もちろん、俺の言うことを聞いていたいという奇特な奴が居れば…………そんな想像できないんだが、居れば居るですぐに突き放すだろうな。
右からやってきたものを左へ受け流すように、眷属へ権限を譲り渡して自分は楽になろうと励むはず……面倒だからな。
「決勝の相手は間違いなく、最強の者であろう。だが貴様も同様に強き者、これまでに並み居る敵たちを屠ってきた俺の自慢の契約精霊だ。誇れ、そして勝利しろ」
『おー!』
なんとなく魔王らしくない、ということで敵情視察をしていなかった。
その気になれば精霊に頼み、いくらでもできたんだが……精霊魔王としての第一歩だ、これぐらいはやってみたかったんだよ。
はたして、この選択は正しかったのか? その答えは──舞台の上にある。
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