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偽善者と精霊踊る育成イベント 十四月目

偽善者と育成イベント終盤戦 その06

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『むー、そりゃー!』

 数十にも及ぶ魔の手が、ルビを捕縛しようとその大きな掌を伸ばす。
 アクロバティックな飛行を見せつつ、その一つ一つを回避していくルビ。

 グォォォォォォン!

 やがて腕が絡まり動きが遅くなる……かと思いきや、操縦者であるナースが一部分から物理干渉能力を外すことで、すぐに絡まった腕はルビの下へ向かう。

 素が魔力である無数の手は、ナースの意思によって自在に形を変える。
 そもそもが、詠唱などによってあらゆる超常現象を引き起こす魔法の源、特別な現象ではなくただ現実に干渉するといった意味では最初からその可能性を秘めていた。

「そうだ、貴様は優位に立っている。慌てず騒がず、ゆっくりと解していけ」

『お、おー』

「ずいぶんと余裕ね、うちのルビがその程度で捕まるとでも?」

「ふっ、当然だ。俺の契約精霊だぞ、並大抵の者が相手になると思うな」

 育成者同士おやバカたちが目で火花をぶつけ合って話す中、それぞれが予め受けた作戦通りに事を進めていく。
 互いに魔力を練り上げ、一部分に溜め込むと──隙を見てそれを解放する。

『まりょくほー!』

 グロォォォォォォォォォン!

 二本の太いレーザーが生みだされ、会場に激しい閃光を発生する。
 それぞれがもう一方を破壊するため、使える力を振り絞って放った一撃。

 凄まじい威力の衝突は均衡を保つ。
 互いに宙で向けた魔力は、ちょうど二人の真ん中で鬩ぎ合っている。
 ……そう、不自然なくらいにずっと。

「! ルビ、すぐに避けなさい!」

「チッ、気づかれた。ナース、すぐに始めるがよい!」

 グォォォ……ロォォンン!?

『おー!』

 いつの間にかルビの周りには、無数の手が絡まっていた。
 気づくことはできない、つい先ほどまでその手はすべて見えていなかったのだから。

 ナースの魔力遮断・同化スキルによって、魔力でできた手は姿を消していた。
 人工的に魔力の濃薄を操作し、こっそりとルビの元へ手を向かわせたナース。

 あえて魔力の威力を調節し、ルビにそれを気づかせずにミッションを成功する。

「に、逃げなさい!」

「甘い……捕まった時点で、貴様たちの敗北は決定している」

「くっ、この大根役者め……」

「…………ゴホン。さぁ、ナースよ! 封印せしその力、今こそ解放せよ!」

 発言に少し精神的ダメージを受けながら、ナースへ向けて指示が送られた。
 その内容を聴き、ついにこの瞬間が来たのかと歓喜する。

『おーーー!!』

 そのとき、魔力による探知や感知系のスキルを持っている者たちがいっせいに震える。
 禍々しい、その一言では纏められない暴力的な存在力が小さな球体の中で生みだされたからだ。

「なに……あの力……」

「見たか、貴様らよ! これこそが! この俺『精霊魔王』が配下、ナースの真なる力であるぞ!」

「精霊魔王? ずいぶんと恥ずかしい名前を付けるじゃない」

「大切なのは羞恥心ではなく、その名が世に広がるかどうかである。知っているだろう、何が起きるかを」

 一笑に付すことはできなかった。
 魔力を感じることができない近接職の者ですら、その純粋な力の圧に別の感覚が働き恐ろしさを理解する。

 ──死。

 生きとし生きる命すべてに訪れ、逃れることのできない究極の祝福にして呪縛。
 舞台の上で漂う小さな球体、だがその姿が何倍にも膨れ上がるようなイメージが場に居るすべての者たちに過ぎる。

 そして、本当に魔王なのでは? 大衆の中でそのような思いが渦巻いていく。
 ──人々の想念は力となり、一種の概念を新たに生みだす。

 それを知る者は……口角を上げた。

「さぁ、真価を魅せよ!」

『うんー!』

 特定の者にしか聞こえない、無邪気で明るい元気な声……だからこそ感じてしまう、その力を振るう無垢への恐怖。

 観衆の瞳は、ただ一点を見つめていた。
 それは理屈ではない、本能だ。
 視線を逸らせば死ぬ、決して瞬きをしてはいけない……そんな生物が原初に宿した生存本能が彼らに警鐘を鳴らしている。

『こくーまほー!』

 そして、視線はゆっくりと動いていく。
 緩慢な速度、それは死刑にかけられる者へ残された最期の時間を示すように……死の気配のみをチラつかせる。

「大衆よ、貴様らは運がいい! 精霊魔王であるこの俺が魅せる、最高の舞台を目撃するのだからな!!」

「……何をする気なの? 私たちの計画について、アルカに聞いたはずだけど」

「ふっ。精霊魔王たる俺が、わざわざ自ら干渉するとでも? 笑わせるな。この世界あまねく精霊すべてを使役する俺に、そのような面倒事は必要ない」

 ルビは最後の抵抗を、魔力を解放してどうにか弾丸を破壊しようとする。
 しかし弾丸は巨大なレーザーを呑み込み、ほんの少しだけ勢いを上げた。

「貴様の役目とやらがなんだったのか、俺には分からぬ。ただ、魔王の前に立ちはだかったことこそが間違いだった。最強の座、決して誰にも明け渡さぬものと思え」

「……それならそれでいいわ。三位に入賞できればよかったわけだし」

「そうか……終われ」


『どかーん!』


 閃光が会場すべてを覆い尽くす。
 破滅の輝きは誰にも証を示すことなく……しかし、確かな形を知らしめる。

 何もない虚無こそが、虚空が齎す真の力なのだから。

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