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偽善者と精霊踊る育成イベント 十四月目
偽善者と育成イベント終盤戦 その05
しおりを挟む≪準決勝第一試合──ナース選手VSルビ選手! はたして勝利し、決勝への切符を勝ち取るのはどちらのなるのか!?≫
準決勝ともなれば、強敵が出ると予想はしていたが……まさかここで、コイツが出てくるとは。
「ふっ、よく来たわね。来るとは思っていたけど、まさか本当にその子だったなんて」
「ほぉ……それはどういうことだ?」
「だってその子、まだ丸いままじゃない。知らなかったの? 形が変わればその形状固有のスキルが使えるって」
「……当然知っている」
だから勧めたかったんだが、ナースが頑ななのでこちらが諦めた。
空を飛ぶ姿なら飛行系スキル、水を泳ぐ姿なら水生系スキル、地を走る姿なら脚力系スキルが手に入るなどの事例はあるのだ。
「だからこそ、面白いのではないか。このままの姿で圧勝し、優勝する。それこそが真の最強の証明となるのだ!」
「ふーん、その口調止めないのね」
「とと、当然だ! それよりも貴様、辞世の句でも考えておくのだな。敗北のみしか、貴様たちの未来は残っていないのだから」
「それはこっちの台詞よ。うちのルビも、だいぶ強くなったんだから」
幼竜を進化させるって、かなりの時間を費やすはずなんだけどね。
いくらプレイヤーとはいえ、配下のレベルアップ速度まではどうにもできない……召喚士や調教士などの育成職は、それでもどうにかしようと足掻いてきた。
これはその成果、抜け穴なんてない道をただひたすらに前進してきた証だ。
「──来なさい、ルビ!」
グォォォォォォォォン!
「こいつはまた、なんとも大きく成長していたな。サイズを隠していたのか」
「ええ、(縮小化)というスキルね」
現れたのは3mほどの西洋ドラゴン。
幼竜の頃からそうだったのだが、全身を包む紅玉の輝きがより眩しくなっている。
「こちらも負けん──行け、ナースよ!」
『おーーー!!』
特にカッコイイ召喚の演出があるわけでもなく、ただふわふわと舞台まで漂い向かっていくナース。
溜め込んだ魔力を一部解放しているからなのか、一回り大きく見える。
≪両者ともに、準備はできたみたいですね。それでは準決勝第一試合──開始です!!≫
グワーンと銅鑼がどこかで鳴り響き、俺たちの(育成した者たちによる)闘いが始まったことを告げた。
ワーッ! と盛り上がる観客たちの歓声を耳にしながら、ナースへ指示を告げる。
「ナース、必要な時は俺が命じよう。貴様はそれまで、思う存分力を振るうがよい!」
◆ □ ◆ □ ◆
行動の自由を約束されたナースは、目の前の相手を仰ぎ見る。
『おおきー』
グオォォォォォン!
『それでもーまけないー!』
魔力を解き放って行うのは、有り余る魔力による強制具現技術──“具纏”。
巨大な腕がナースの後ろから生えると、その二本の腕を操りルビへ向かわせる。
「ルビ、躱しなさい!」
イアの指示を受け、ルビは翼をはためかせて空へ飛翔した。
腕はそのまま周囲に展開された結界にぶつかるが、その直後に腕をゴキリと鳴らして直角に進路を変更する。
『にがさなーい!』
凄まじい勢いで飛ぶドラゴン、それを追いかける魔力の塊。
あまりに濃密すぎる魔力は可視化され、見る者すべてを唖然とさせていた。
「ちょっと、アレはなんなのよ!」
「お前が言ったアルカ以上の魔力を、強引に魔法発動状態で押さえたモノだ。魔法は現実に干渉する、つまり物理的な性質を併せ持っている……まあ、パクリだけどな」
「パクリって……原作が分かっても、真似できるわけないじゃない」
主同士がそんな会話をしているが、互いの攻め合いに変化はない。
ルビはスルスルと追いかけてくる腕たちを回避し、ナースはその腕を動かしてどうにか捕まえようとする。
ナースの極めて高い魔力操作技術を用いても、体外に伸ばした魔力を完璧に操ることはまだできていない。
メルスやその眷属と違って基となる情報が無いだけでなく、まだ生まれて一週間程しか経っていない幼い精霊。
──何より自身に腕が生えていないナースには、自らが操る腕の感覚をまだ掌握しきれずにいるのだった。
『むー、とりゃー!』
グォロォォン!?
だから技術ではなく、量で押し切ることを選択する。
二本しか無かった腕が無数に伸び、ルビを捕獲しようと空を埋め尽くしていく。
「ルビ、息吹で破壊しなさい!」
グォォォォン!
大きく息を吸い、中で魔力と練り上げる。
そうして生みだされた凄まじい魔力の奔流が、周囲に散らばる腕を一蹴する。
一つ一つの質が落ちていたため、ルビの充填されきっていない息吹でも破壊された。
そのことをしっかりと理解しているナースは、再び腕の数を増やしつつ籠める魔力を調整し始める。
「ナース、一つのことを一つずつこなすのもよい。だが、時にはそれ以上のことを要されることもある……それが今だ。己の限界を超えろ、そこにしか勝利はない!」
『おー!』
自身の契約者の言葉を受け、ナースはさらに活力を入れて腕を伸ばしていく。
そして、ルビもまた全身を強化しながら飛行していった。
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