966 / 2,519
偽善者と精霊踊る育成イベント 十四月目
偽善者と育成イベント終盤戦 その04
しおりを挟む≪試合終了! 勝者──ナース選手!≫
歓声と共にブーイングが上げられる。
だがその片方は、ナースに向けられているものではない。
次々とアイテムが俺の下へ飛来する。
そのすべてを風精霊に弾いてもらい、ナースが来るのを待つ。
『けいやくしゃー!』
「ああ、よくやったな」
『うんー!』
「これで残るは準決勝と決勝だ。だが、相手は強者揃い……本気を見せるときだな」
おー! という勇ましい返事を聴く。
ここまでナースは快進撃を繰り広げ、ちょうど二回戦を勝利したところだ。
球体の精霊ということもあって、一回戦は油断されて……二回戦は魔力にのみ対策が施された。
しかし、上級精霊であるナースにそんな付け焼刃の策が通じるわけもなく。
どちらの試合も勝利し、見事準決勝へ進出することが確定した。
『だいじょうぶー?』
「なんのことだ?」
『それー』
「…………」
今も降り注ぐアイテムの数々。
誰かが用意しているのかと疑問を思うほどに、ずっと落とされているのだ。
理由はとっくに理解していた。
ならば、俺は俺らしくあろうじゃないか。
語彙力だけでなくポージングに関する情報もあまりない俺なので、いつものように大袈裟に両手を広げると──
「ふははははっ! 精霊も倒せぬ雑魚が、ずいぶんと驕ったものだ! 所詮は祈念者、信念も覚悟も持たぬ低俗な人形……神の奴隷ごときが俺の道を阻むなど烏滸がましいわ!!」
清々しいほどのブーイング。
ナースに向けられていた歓声は、今や俺を罵る熱いラブコールになっている。
具体例を挙げるなら、ナースを解放しろ系の発言とかがあるな。
『だいじょうぶー?』
「気にするでない。貴様の契約者だぞ?」
『うんー……』
俺たちの会話が盗聴や読唇される心配は、予め防いであるので問題ない。
厨二病乙、といった発言も減ってきた。
この調子で勝ち進んでいけば、そのうち新しい二つ名を得ることもできるだろう。
「ナースよ、休息に向かおうか」
『うんー!』
投擲スキルで投げてくる奴も居るな。
結界が受けるダメージからそんなことを考えながら、俺たちは控え室に向かっていく。
◆ □ ◆ □ ◆
「まだ進化はせぬか」
『…………』
「構わぬ。結果がどうあれ、貴様は確実に強者との戦闘経験を積んでいる。あとは理想の形を定めるのみ……今のままでも充分に強いが、聖霊は確実に別の形が必要だ」
『うぅー』
ユラルは生まれた時からあの姿だったらしいし、ドゥルは人形に組み込んだので実際はどうか分からない。
だが精霊って、少なくとも上位の精霊って丸い球体のままじゃないだろう?
精霊王とかがただの球体です、と言われて大衆はそれを崇めたくなるか? いや、そうはならないだろう。
今の時代、スライムだって人化している。
そんな中、すでに人型などの特殊な姿を確立している精霊が今さら球体?
いちおうでも俺は【色欲】にして【傲慢】なる者──否が応でも変化はしてもらおう。
「どうなりたい、といった姿はないのか?」
『……たいよー』
「今と同じままでも成れる。もっと他に、理想の姿などだ」
『うーん……』
待てど待てども、ナースから明確な返答は聞こえてこなかった。
すでにナースは俺の契約者、そのことに苛立ちを感じることはない。
だがしかし、少しだけ寂しくなる。
「貴様には望むべき姿がないのか」
『…………うんー』
絞り出すような声が伝わってきた。
何がそうさせるのか、それは分からない。
だが思いだせば、その理由もどこかで教えてくれていたかもしれないと思う。
「貴様は何も思わない下級精霊だった。そんな貴様を拾ったのだが……今なお貴様には、当時の自分が照らし合うわけか」
『うんー』
「やはりか。さまざまなものを見せてきたつもりだったが、それでは貴様を変えるには足らなかったのだな」
太陽、というより日の出には満足してくれていたようだが。
あれと他の共通点を探した方がいいか?
『──ナース選手! 準備の方をよろしくお願いします!』
だが、それも一旦中止のようだ。
扉越しに聞こえるスタッフの声が、間もなく準決勝のスタンバイを要求してきた。
「ナース、今はまだいい。俺も焦りすぎたのかもしれない」
『けいやくしゃー?』
「貴様はまだ子供だ。契約者として、そして親としても俺が面倒を見よう。だがその対価は、貴様自身の努力で支払ってもらおう。俺にはできぬことを、行うことでな」
『うぅー』
そういえば最近は、分からないと言うことが無くなってきたな。
できるだけ自分で俺の言葉を解釈しようと励み、それでも理解できなかった場合のみ小さく唸り声を上げる。
これもまた、成長なのだろうか。
ずっとナースを見てきたお父さんポジとしては、喜ばしい限りである。
「さぁ、次は誰が相手であろうな。どのような敵であれ、俺が居る限り貴様に敗北など決してありえぬ!」
『おー!』
「行くぞ! 貴様の優勝という未来を、その手に掴むため! 俺の望むべきものを、奪い取るために!」
『おーーー!!』
そんな感じでテンションを高めながら、俺たちは控え室を出て待機場所へ向かった。
0
お気に入りに追加
516
あなたにおすすめの小説
虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。
荒井竜馬
ファンタジー
『第16回ファンタジー小説大賞』奨励賞受賞作品
あらすじ
勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。
しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。
道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。
そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。
追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。
成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。
ヒロインは6話から登場します。
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
おっさんの神器はハズレではない
兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ヒトナードラゴンじゃありません!~人間が好きって言ったら変竜扱いされたのでドラゴン辞めて人間のフリして生きていこうと思います~
Mikura
ファンタジー
冒険者「スイラ」の正体は竜(ドラゴン)である。
彼女は前世で人間の記憶を持つ、転生者だ。前世の人間の価値観を持っているために同族の竜と価値観が合わず、ヒトの世界へやってきた。
「ヒトとならきっと仲良くなれるはず!」
そう思っていたスイラだがヒトの世界での竜の評判は最悪。コンビを組むことになったエルフの青年リュカも竜を心底嫌っている様子だ。
「どうしよう……絶対に正体が知られないようにしなきゃ」
正体を隠しきると決意するも、竜である彼女の力は規格外過ぎて、ヒトの域を軽く超えていた。バレないよねと内心ヒヤヒヤの竜は、有名な冒険者となっていく。
いつか本当の姿のまま、受け入れてくれる誰かを、居場所を探して。竜呼んで「ヒトナードラゴン」の彼女は今日も人間の冒険者として働くのであった。
お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……
karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる