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偽善者と精霊踊る育成イベント 十四月目

偽善者と育成イベント終盤戦 その04

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≪試合終了! 勝者──ナース選手!≫


 歓声と共にブーイングが上げられる。
 だがその片方は、ナースに向けられているものではない。

 次々とアイテムが俺の下へ飛来する。
 そのすべてを風精霊に弾いてもらい、ナースが来るのを待つ。


『けいやくしゃー!』

「ああ、よくやったな」

『うんー!』

「これで残るは準決勝と決勝だ。だが、相手は強者揃い……本気を見せるときだな」


 おー! という勇ましい返事を聴く。
 ここまでナースは快進撃を繰り広げ、ちょうど二回戦を勝利したところだ。
 球体の精霊ということもあって、一回戦は油断されて……二回戦は魔力にのみ対策が施された。

 しかし、上級精霊であるナースにそんな付け焼刃の策が通じるわけもなく。
 どちらの試合も勝利し、見事準決勝へ進出することが確定した。


『だいじょうぶー?』

「なんのことだ?」

『それー』

「…………」


 今も降り注ぐアイテムの数々。
 誰かが用意しているのかと疑問を思うほどに、ずっと落とされているのだ。

 理由はとっくに理解していた。
 ならば、俺は俺らしくあろうじゃないか。
 語彙力だけでなくポージングに関する情報もあまりない俺なので、いつものように大袈裟に両手を広げると──


「ふははははっ! 精霊も倒せぬ雑魚が、ずいぶんと驕ったものだ! 所詮は祈念者、信念も覚悟も持たぬ低俗な人形……神の奴隷ごときが俺の道を阻むなど烏滸がましいわ!!」


 清々しいほどのブーイング。
 ナースに向けられていた歓声は、今や俺を罵る熱いラブコールになっている。
 具体例を挙げるなら、ナースを解放しろ系の発言とかがあるな。


『だいじょうぶー?』

「気にするでない。貴様の契約者だぞ?」

『うんー……』


 俺たちの会話が盗聴や読唇される心配は、予め防いであるので問題ない。
 厨二病乙、といった発言も減ってきた。
 この調子で勝ち進んでいけば、そのうち新しい二つ名を得ることもできるだろう。


「ナースよ、休息に向かおうか」

『うんー!』


 投擲スキルで投げてくる奴も居るな。
 結界が受けるダメージからそんなことを考えながら、俺たちは控え室に向かっていく。


  ◆   □   ◆   □   ◆


「まだ進化はせぬか」

『…………』

「構わぬ。結果がどうあれ、貴様は確実に強者との戦闘経験を積んでいる。あとは理想の形を定めるのみ……今のままでも充分に強いが、聖霊は確実に別の形が必要だ」

『うぅー』


 ユラルは生まれた時からあの姿だったらしいし、ドゥルは人形に組み込んだので実際はどうか分からない。

 だが精霊って、少なくとも上位の精霊って丸い球体のままじゃないだろう?
 精霊王とかがただの球体です、と言われて大衆はそれを崇めたくなるか? いや、そうはならないだろう。

 今の時代、スライムだって人化している。
 そんな中、すでに人型などの特殊な姿を確立している精霊が今さら球体?

 いちおうでも俺は【色欲】にして【傲慢】なる者──否が応でも変化はしてもらおう。


「どうなりたい、といった姿はないのか?」

『……たいよー』

「今と同じままでも成れる。もっと他に、理想の姿などだ」

『うーん……』


 待てど待てども、ナースから明確な返答は聞こえてこなかった。
 すでにナースは俺の契約者、そのことに苛立ちを感じることはない。
 だがしかし、少しだけ寂しくなる。


「貴様には望むべき姿がないのか」

『…………うんー』


 絞り出すような声が伝わってきた。
 何がそうさせるのか、それは分からない。
 だが思いだせば、その理由もどこかで教えてくれていたかもしれないと思う。


「貴様は何も思わない下級精霊だった。そんな貴様を拾ったのだが……今なお貴様には、当時の自分が照らし合うわけか」

『うんー』

「やはりか。さまざまなものを見せてきたつもりだったが、それでは貴様を変えるには足らなかったのだな」


 太陽、というより日の出には満足してくれていたようだが。
 あれと他の共通点を探した方がいいか?


『──ナース選手! 準備の方をよろしくお願いします!』


 だが、それも一旦中止のようだ。
 扉越しに聞こえるスタッフの声が、間もなく準決勝のスタンバイを要求してきた。


「ナース、今はまだいい。俺も焦りすぎたのかもしれない」

『けいやくしゃー?』

「貴様はまだ子供だ。契約者として、そして親としても俺が面倒を見よう。だがその対価は、貴様自身の努力で支払ってもらおう。俺にはできぬことを、行うことでな」

『うぅー』


 そういえば最近は、分からないと言うことが無くなってきたな。
 できるだけ自分で俺の言葉を解釈しようと励み、それでも理解できなかった場合のみ小さく唸り声を上げる。

 これもまた、成長なのだろうか。
 ずっとナースを見てきたお父さんポジとしては、喜ばしい限りである。


「さぁ、次は誰が相手であろうな。どのような敵であれ、俺が居る限り貴様に敗北など決してありえぬ!」

『おー!』

「行くぞ! 貴様の優勝という未来を、その手に掴むため! 俺の望むべきものを、奪い取るために!」

『おーーー!!』


 そんな感じでテンションを高めながら、俺たちは控え室を出て待機場所へ向かった。


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