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偽善者と精霊踊る育成イベント 十四月目

偽善者と育成イベント中盤戦 その20

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 努力は報われる、裏切らない──いったい誰がそんなことを言ったのだろうか。

 報われる? たしかにそれなりに変化を起こせるかもしれない。
 裏切らない? 自分がやったことなんだから、まあたしかにそういった意味ではそうなのかもしれない。

 だが、それが結果と結びつくのか? 努力すれば必ず欲しい未来に手が届くのか?



 否、断じて否だ。
 努力をするだけで望む未来を得ることは、たとえ神でもできない……というか、神は努力なんてしないだろう。

 とにかく、努力と成果は比例しない。
 現実は創作物ほど都合よく進まず、なんでも悲観的な結果になることが多いだろう。

 要するに──


『けいやくしゃー!』

「いい結果だった。貴様にとって、あの経験こそが」

『──にどめー!』


 ああ、たしかにこんなことを前に言った気もするな。
 せっかくなので{夢現記憶}を洗い直してみれば……うん、たしかに言ってたわ。


「四位か。半数を超えていたのだから、上々の結果ではないか?」

『ほんとー?』

「ああ。まあ、合格とは言わんが」

『うわーん!』


 アルカと話し、決断した。
 もう少し付き合ってもらおうと。
 ナースはいつでも無理に抑え込んだ羽を広げることができる、蛹のような状態だ。

 羽化寸前で溜め込ませ、羽ばたくための下準備を念入りにさせている……が、中でどのような変質をするかはまだ定まっていない。
 いちおうの目的は、『虚空聖霊』として暴力的な虚空魔法を操る聖霊となることだ。

 しかし、導かれ少しずつズレていく。
 もちろんそれが悪いこととは言わない。
 創作物においても、覚醒や変異は強力な存在となることを証明している。


「貴様の花火は万人に受けなかった。ただそれだけであろう。俺の世界、国であれば確実に貴様が一位だった……それは証明しよう」

『ほんとー!?』

「ああ、俺がすでにやっているからな。初めはいろいろとあったが……まあ、貴様が気にすることではない。今の貴様に必要なことはそうではないだろう」

『うぅー』


 プレイヤーだけが審査員だったら、高得点間違いなしだったんだがな。
 主人公候補えらばれしものなのか、審査員に混ざっていた奴はたしかに高得点をくれていたし。


「……貴様はやはり、武闘会で俺を驚かせることしかできないようだな。かなりの猛者が集う中、優勝をすれば俺も驚くだろう」

『がんばるー!』

「そうだ。貴様は努力する姿が映える、その調子で励むのだな」

『おー!』


 武闘会までは時間が空くし、そろそろナースにも変革が必要だろうか。
 まだ実験が済んでいないので強引なことはできないが、人体実験を済ませているものであれば本人(精霊)の承諾を得ることを条件に実行することも厭わない。


「汝、力を欲するか? さすればすべてを捧げよ、我に奉納せよ」

『んー?』

「……気にするな。貴様はすでに俺の契約精霊、必ず俺と貴様の契約を果たそう。その誓いが廃されるまで」

『おー!』


 そうなると、いいんだけどな……。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 誰も来ることのない浮島。
 かつては巨大な亀が住処としていた湖で、一人の男が俺を待っていた。


「ふん、遅いではないか」

「契約精霊の品評会があってな。その結果を見届けていたのだ。貴様はそれよりも、相棒とやらを見つけることができたのか?」

「……まだだ」


 リヴェル。
 全身真っ黒な装備で身を包む双剣使い。
 そして何より、厨二患者疑惑有り。


「おい、今おれのことを見て厨二とか思っていやがるな」

「自覚があるようで何よりだ」

「ぐっ……」

「それよりもだ。例の件、どうだったか?」


 密会に最適となるこの浮島で、俺たちは情報を交換し合う。
 他にも動いてもらっている奴はいるが、なかなかコンタクトが取れなくてな。


「貴様の言った通りだ。すでに複数の団体単位で動いている」

「ということは、アレは隠れ蓑か。気楽な祭りも楽しかったのだが……やはり、もう少し情報を漁っておくべきだったな」

「あの『ユニーク』が動いていたんだが、貴様は本当に何者なんだ」

「『ユニーク』のメンバー」


 質問にシンプルな回答を返すと、唖然とした表情を浮かべるリヴェル。
 たしかクラーレもこんな反応をしていた気がするが……アイツら、いろいろと問題がある集団だぞ?


「アレらのことは置いておけ」

「いや、置いとけと言われてもインパクトがな……」

「知らぬ。他にも動いている奴らが居るのであろう? それを教えよ」


 そして、パーティー名やらギルド名、優れたプレイヤーの名前を訊くが……やはりというか、予想通りというか。


「そうか、それで祭りはあんなに寂しいものとなっていたのか。優秀なプレイヤーたちが挙って別の場所で秘密の狩りとは……あとでクレームの嵐だな」

「おれもそこへ混ざる。貴様との関係性は極力隠しておこう」

「好きにしろ。俺は貴様に命じることはないと誓った。ただ、少しばかり頼むだけだ」

「ふんっ、恩はしっかりと返すだけだ」


 リヴェルはそう言って、プレゼントした空間属性の魔道具でどこかへ行った……ここまで来るの、アイツの方法だと大変そうだったからな。

 ──さぁ、そろそろイベントも終わりが近くなってきたよ。


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