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偽善者と精霊踊る育成イベント 十四月目

偽善者と育成イベント中盤戦 その19

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≪──お集まりの皆様、大変長らくお待たせしたことでしょう≫


 実際、かなり待ったと思う。
 いつもなら一瞬で終わる思考が、低スペックな頭脳になったせいで物凄く処理に時間がかかったからだ。


≪しかし美とは、時間をかけることでより高位のものへ昇華するのです。どれだけの愛を注げるのか、それが対象をより魅力的にする鍵となります≫


 それは、分からなくもない。
 モブの感想ではあるが、間違いなく眷属たちは会った頃よりも今の方が綺麗だ。
 互いに協調し合い生きていくことで、心身がより研ぎ澄まされていったからだろう。


≪つまり、魅力とは……美とは愛! 人生を費やしていいと思うほどに、自身を虜にしたモノへ捧げる甘美なる愛情なのです!≫


 ここは、あんまり分からないけど。
 とにもかくにもアナウンスのテンションは最高潮まで達し、やったこさ……いや、ようやく告げてくれた。


≪予選を経て、集いし八人の愛の使徒! この中で真の愛を受けし者は誰!? 品評会、本選を始めさせてもらいます!!≫


 歓声が上がる様子を客席で聴き、手にしたお菓子を貪り食らう。
 いやいや、要するにアニメ版のホ°ケモンのコンテストと同じだから。

 なんでもありかよ、ゲームとコンテストの仕様が全然違うじゃねぇかとツッコんだ記憶もあるが……ここはあくまでAFOだし、ほとんど似ても似つかないイベントだったし忘れておこう。


「……“精霊眼”」


 暇だった。
 鑑定眼が使えない今、眷属は視界を介して情報収集をやってくれているだろう。
 だがそれは俺に届かないし、帰るまでのお楽しみ的な感じの存在と化している。

 眼に宿せる唯一の神眼を宿し、会場中を把握するようにゆっくりと首を動かす。


「これやっても、精霊に愛された種族なのか精霊なのか、それとも嫌われているのかぐらいしか分からないしなー。ついでに言えば、聖霊眼ならもっと他のモノも視えるし」


 そこら辺は上位互換の聖霊様の瞳だ。
 聖霊まで見通せる瞳は、自然界に存在するエネルギーすべての流れまで視られる。
 ……まあ、いろいろ視えすぎると情報処理能力が足らずにアレだけど。

 なので現在の俺でも使える精霊眼が、縛りプレーでも用いられている。
 聖霊魔法なら問題ないけど、眼の方はもともと強引なアップデートで手に入れたものだしな……一度ユラル様にご鞭撻のほどを願ってみようかしら?


「精霊よ、俺の願いを叶えろ。対価は俺の出した魔力、やるべきことは──────だ」


 視えた精霊に向けて声をかけると、魔力に釣られたのかあっさり了承してくれた。
 下級精霊の良いところは、俺の<畏怖嫌厭>の効果がとても薄いという点だ。
 ……なにせ、自我が薄いしな。



 本選のルールやらいろいろと説明を終えたら、ようやく品評会のスタートである。
 どうやらAグループの合格者から順に、自身をアピールするらしい。


「ふむ、順調そうだな」


 遠くから聞こえてくるのは、育成した者による声援なのかもしれない。
 風精霊は防音を頼んでいるため、盗聴に用いることはできなかった。

 なのでここは魔力で視力を強化し、なんとなくの読唇術で読み取るぐらいにしておく。
 スキルが使えずとも、使った経験が正しいやり方を覚えていてくれる。
 こういう努力も、わりと便利だ。


「しかしまあ、なんとも娯楽みたいなんだろうか。お菓子を手に取る速度も上がってしまうではないか」


 大半のモノはド派手な演出を……しかも予選よりも豪快にやっているので、まるで大迫力の4D映画を見ているようにも感じる。
 眼で見て、耳で聴いて、鼻で嗅いで、皮膚で浴びて、魔力で感じて──そしてお菓子を舌で味わって……6Dだったな。

 そうやって時間を潰し、観たパフォーマンスから何かを得たりしていた。
 指輪を介して開くことで[メニュー]を操作し、メモを書いたりSSを撮ったり……。


≪さぁ、続いては可愛くて丸い女の子。精霊のナースちゃんの登場です!≫


 そして、このときがやってきた。
 ゆっくりと開かれた扉から現れるのは、司会者の言った通り愛らしい球体だ。
 一部の者は下級精霊だと鼻で笑う……そんな輩は不思議と頭痛を起こし、口をパクパクさせて気絶していった。


「ふっ、いい気味だ」


 天罰……というより精霊罰が当たったんだろうよ。
 精霊にも神様が居るわけだし、その配下を馬鹿にしたのと同じ扱いで充分だろう。

 ただまあ、少し違うのは本人ならぬ本神ではなく、加護を受け賜わりし代理者の手によるものということだな。


「うむ。その調子だぞ、ナース」


 ナースは俺と違い必死に努力した。
 才能だけに任せていても、決して虚空魔法には届くことがなかったからだ。
 自身の才を真の意味で限界突破し、それでもなお足りない力に手を伸ばした。

 そしてその結果は、いま花開く。
 会場中に散らばった半透明の魔力、しかしナースの粋な計らいによってそれらはくっきりと人々の目に映るように──炸裂する。


「花火、教えておいて正解だったな」


 万雷の響きが会場に木霊する。
 色付けされていないのが減点、なんて野暮なことを言う奴はいないだろう。

 美しきモノにかけた時間こそが美である。
 それを真の意味で理解しているのなら、この光景にナースが費やした時間を理解できるはずなのだから。


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