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偽善者と精霊踊る育成イベント 十四月目

偽善者と育成イベント中盤戦 その15

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 俺を捕まえる、それを想定した場合アルカは当然完全状態──つまり全能な俺を前提として考えなければならない。
 たしかにアルカは天才で、俺は凡人……決して埋まらない溝がそこにはあって、今の無力な俺では逃れることなど不可能だ。

 ──しかし、今の俺は『精霊魔王』だ。

 実際にはどうあれ、少なくともそれに似合うだけの力と可能性を秘めている。
 なればこそ、全能ではないが故にアルカの策を逃れることができると思った。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」


 雨が降っているわけでもないが、天に向け咆えることで生を実感する。
 今の状態でアルカに見つかれば、彼女の言うところの『ギャフン(死)』を言わされて即お陀仏だろう。

 冤罪で捕まった銀行員のように、高々と叫び続けることでなんとなく充実感を覚える。
 ……なおこのとき、予め風精霊による遮音結界を張っておくのがマナーとも言えよう。


「助かったぞ。貴様たちの働きには、千金を与えるだけの価値があった。感謝せねば──大地小人アースノームよ」


 リヴェルとの闘いで創りだした合精霊なのだが、実は帰還させずに維持していた。
 こうしてアルカの鳥籠で一苦労したわけだが、“水鏡転陣ミラーポーター”以外の脱出方法がないかとすでに思っていたわけで……。


(そうだ、潜って逃げよう)


 少しばかり脱獄犯臭いことをやっていたのも、そういった理由があったわけだ。

 生みだしておいた大地小人が穴を掘り、俺が使えるだけのトンネルを作成してくれた。
 大量の精霊を召喚して行ったのは、魔力感知が使えなくなるようにするための陽動だったということだ。


「お蔭様で、俺は自由を手に入れたわけだ」


 こういうとき、すでに敵が先回りを……という創作物のネタもあるので、入念に周囲を警戒している。
 現在進行形で行っているので、おそらくアルカはまだ・・来ていない。


「自由、は得たけど。安全はまだ確保できていないんだよ……なにせ、あのアルカだし」


 名前を出すだけでも、某恐怖の魔法使いを思いだすぐらいには気を使っている。
 なんだか想像しただけで、そのイメージを触媒に転移してくる……ぐらいのことができそうな感じなんだよな。


「とりあえずは、これでよしか。一度、安全地帯に向かおう──“水鏡転陣”」


 杖に仕込んだ水晶、その中で眠る水精霊の力によって転移が行われる。
 予め登録した、一定以上の規模を誇る水面に転移できることを利用し、誰も来ることができないような場所に印を刻んでおいた。


「まあ、リヴェルが来たけどさ」


 浮遊島の一つ、攻撃を反射できる大亀が守護していた小さな箱庭。
 他の動物や魔物が存在しないこの場所ならば、アルカもすぐには来ることができない。


「アイツは“飛行”が使える魔道具を持ってたからそれができた。アルカは風魔法も使えるから飛ぶことができる……いちおうここ、魔力切れで届かないって奴が多くなるように配置されてるんだけどな」


 途中で別の浮島が運よく飛んで来たらしいリヴェルは、本当だったのならどれだけ運がいいんだよとツッコみたくなる。
 アルカは……確実に魔力が足りるし、その気になれば適当に選んだ座標に飛ぶだけで俺の元まで追いついてきそうだ。


「純粋な風属性特化の魔法使いが何人ここまで辿り着けるのやら……プーチは無理だし、シガンが裏技を使ってどうにか、ぐらいか」


 少しばかり暇なので、ここに来れる者を口頭で推察していく。

 攻撃の時間を止める彼女の固有スキルがあれば、好きなタイミングで足場と推進力を得ることができる。
 回復魔法でちゃんと癒せば、再度同じことができる……ああ、たしかに可能だ。


「他は……眷属になってる奴は全員可能か。それに『ユニーク』は空飛ぶ船を渡してあるからそれで自由自在。あとはさっき言った座標を直接指定しての転位ぐらいか」


 それこそ選ばれし者としての才能がフルに発揮される移動理由だろう。
 有名な狩りゲーで言えば、悪運が発動時でも秘境に辿り着くぐらいのレア度だし。

 数ある島の中でー、わざわざこの場所ー、しかも弱り切った偽魔王がそこに居るー……どんだけ豪運なんだろうな、ソイツって。


「ナースの休養にはもう少しかかるが、うかつにあそこへ戻るのは控えておかないとな。ただでさえ少ない逃げ場所が、一つ減ってしまうし」


 連絡自体は念話を使えばすぐに済むので、あとで傍受されていないかを確認してから行うつもりだ。
 ずっと放置しているとナースがどうなるか分からないし、それこそナースが誰かと接触してしまう可能性が高い。

 イベント中に手に入れたアイテムを使えば数回のみ、そんな危機から逃すことも可能だろうが……それも数が少ないし、できるだけ温存しておくのがベストだ。


「まずはだいぶ減った魔力の回復、それからナースへ連絡。あとは指定した時間にでも落ち合えば大丈夫か」


 イア以外にナースの姿を見た奴はいない。
 アイツが敵に回らなければ、大丈夫だとは思うが……微妙だな。

 そんなことを思いながら、とりあえず今日の野営を行うのだった。


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