上 下
957 / 2,518
偽善者と精霊踊る育成イベント 十四月目

偽善者と育成イベント中盤戦 その15

しおりを挟む


 俺を捕まえる、それを想定した場合アルカは当然完全状態──つまり全能な俺を前提として考えなければならない。
 たしかにアルカは天才で、俺は凡人……決して埋まらない溝がそこにはあって、今の無力な俺では逃れることなど不可能だ。

 ──しかし、今の俺は『精霊魔王』だ。

 実際にはどうあれ、少なくともそれに似合うだけの力と可能性を秘めている。
 なればこそ、全能ではないが故にアルカの策を逃れることができると思った。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」


 雨が降っているわけでもないが、天に向け咆えることで生を実感する。
 今の状態でアルカに見つかれば、彼女の言うところの『ギャフン(死)』を言わされて即お陀仏だろう。

 冤罪で捕まった銀行員のように、高々と叫び続けることでなんとなく充実感を覚える。
 ……なおこのとき、予め風精霊による遮音結界を張っておくのがマナーとも言えよう。


「助かったぞ。貴様たちの働きには、千金を与えるだけの価値があった。感謝せねば──大地小人アースノームよ」


 リヴェルとの闘いで創りだした合精霊なのだが、実は帰還させずに維持していた。
 こうしてアルカの鳥籠で一苦労したわけだが、“水鏡転陣ミラーポーター”以外の脱出方法がないかとすでに思っていたわけで……。


(そうだ、潜って逃げよう)


 少しばかり脱獄犯臭いことをやっていたのも、そういった理由があったわけだ。

 生みだしておいた大地小人が穴を掘り、俺が使えるだけのトンネルを作成してくれた。
 大量の精霊を召喚して行ったのは、魔力感知が使えなくなるようにするための陽動だったということだ。


「お蔭様で、俺は自由を手に入れたわけだ」


 こういうとき、すでに敵が先回りを……という創作物のネタもあるので、入念に周囲を警戒している。
 現在進行形で行っているので、おそらくアルカはまだ・・来ていない。


「自由、は得たけど。安全はまだ確保できていないんだよ……なにせ、あのアルカだし」


 名前を出すだけでも、某恐怖の魔法使いを思いだすぐらいには気を使っている。
 なんだか想像しただけで、そのイメージを触媒に転移してくる……ぐらいのことができそうな感じなんだよな。


「とりあえずは、これでよしか。一度、安全地帯に向かおう──“水鏡転陣”」


 杖に仕込んだ水晶、その中で眠る水精霊の力によって転移が行われる。
 予め登録した、一定以上の規模を誇る水面に転移できることを利用し、誰も来ることができないような場所に印を刻んでおいた。


「まあ、リヴェルが来たけどさ」


 浮遊島の一つ、攻撃を反射できる大亀が守護していた小さな箱庭。
 他の動物や魔物が存在しないこの場所ならば、アルカもすぐには来ることができない。


「アイツは“飛行”が使える魔道具を持ってたからそれができた。アルカは風魔法も使えるから飛ぶことができる……いちおうここ、魔力切れで届かないって奴が多くなるように配置されてるんだけどな」


 途中で別の浮島が運よく飛んで来たらしいリヴェルは、本当だったのならどれだけ運がいいんだよとツッコみたくなる。
 アルカは……確実に魔力が足りるし、その気になれば適当に選んだ座標に飛ぶだけで俺の元まで追いついてきそうだ。


「純粋な風属性特化の魔法使いが何人ここまで辿り着けるのやら……プーチは無理だし、シガンが裏技を使ってどうにか、ぐらいか」


 少しばかり暇なので、ここに来れる者を口頭で推察していく。

 攻撃の時間を止める彼女の固有スキルがあれば、好きなタイミングで足場と推進力を得ることができる。
 回復魔法でちゃんと癒せば、再度同じことができる……ああ、たしかに可能だ。


「他は……眷属になってる奴は全員可能か。それに『ユニーク』は空飛ぶ船を渡してあるからそれで自由自在。あとはさっき言った座標を直接指定しての転位ぐらいか」


 それこそ選ばれし者としての才能がフルに発揮される移動理由だろう。
 有名な狩りゲーで言えば、悪運が発動時でも秘境に辿り着くぐらいのレア度だし。

 数ある島の中でー、わざわざこの場所ー、しかも弱り切った偽魔王がそこに居るー……どんだけ豪運なんだろうな、ソイツって。


「ナースの休養にはもう少しかかるが、うかつにあそこへ戻るのは控えておかないとな。ただでさえ少ない逃げ場所が、一つ減ってしまうし」


 連絡自体は念話を使えばすぐに済むので、あとで傍受されていないかを確認してから行うつもりだ。
 ずっと放置しているとナースがどうなるか分からないし、それこそナースが誰かと接触してしまう可能性が高い。

 イベント中に手に入れたアイテムを使えば数回のみ、そんな危機から逃すことも可能だろうが……それも数が少ないし、できるだけ温存しておくのがベストだ。


「まずはだいぶ減った魔力の回復、それからナースへ連絡。あとは指定した時間にでも落ち合えば大丈夫か」


 イア以外にナースの姿を見た奴はいない。
 アイツが敵に回らなければ、大丈夫だとは思うが……微妙だな。

 そんなことを思いながら、とりあえず今日の野営を行うのだった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?

破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。 そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。 無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた… 表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと イラストのurlになります 作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)

虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件

こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。 だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。 好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。 これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。 ※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

処理中です...