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偽善者と精霊踊る育成イベント 十四月目

偽善者と育成イベント中盤戦 その13

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 前回の知恵比べ同様、会場にはさまざまな種類の魔物などがスタンバイしていた。
 完全に魔物、と称するよりも『など』を付けておいた方がよい者たちもいる。

 まあ、だから今回のイベントもできるだけ魔物と一括りにせず『生命体』と『存在』という単語で話をしていたんだが。


≪技術、それすなわち知識の宝庫なり! 品評会予選ブロック、Eグループを始めさせていただきましょう!≫


 前回のようなタイトルコールは、すでにAの部が始まる前に済ませたようだ。
 これまで──Eに至る間にそういった少しだけパクってます感のある発言は無い。


≪──それでは選手、入場です!≫


 鈍重な音を立てて開いていく扉、そこから大量の魔物などが現れる。
 もちろん、ナースもな。


『けいやくしゃー!』

「ああ」


 精霊、しかも初期形態のまま参加するものはかなり珍しい……というかナースしかいないので、注目の的である。
 なにせ、前回も問答会にいちおう出てはいたからな。


≪総勢四百名の参加者の中、貴方がた五十名には二人を選んでもらいます。その方々だけが、本選へ進むことができますよ≫


 わりとシビアなんだが、人数的な問題もあるのだろうか。
 大人気VRMMO『AFO』として、この世界は多くの祈念者プレイヤーを迎え入れている。

 数十万、なんて桁は軽く超えているだろうし……運営も大変なんだろうな。


≪武で選んでは、それは武闘会となってしまいます。なので皆様には──好きな方法である物を作成してもらいます≫


 会場に設置されたモニター、そのある物とやらが表示される。
 少し耳が長い、小柄な少年。
 額にはちょこんと体躯に見合った小さな角が生えていて、少し怯えた表情が映る。

 ……はて、こんな種族居ただろうか。
 プレイヤーのほぼ全員が思ったこの疑問、すぐにそれは解決した。


≪こちらは子鬼ゴブリン族の少年を映像魔道具で映したものですね。皆様が魔子鬼デミゴブリンと呼ぶ魔物とは違い、彼らの種族はれっきとした妖精ですので殺してはいけませんよ≫


 せっかくの注意だが、ほとんどの奴らは思考がここではないどこかへフライアウェイしているので、聞いていないだろう。
 しかし……そうか、子鬼族ってこんな見た目をしているんだな。


≪初めて見たこれを元に、なんらかの方法を用いて皆様自身でこの場に生みだしてください。物質を生みだし、この場に留める必要はございません。魔力で生みだし、審査の間それを維持できるのであれば魔法でもなんでも好きに使ってください!≫


 つまり、ナースでも可能性があるのか。
 たしかに火や風属性の奴らなんてそのルールで留めておけなんて言われても難易度が他の属性よりハードすぎるからな。


≪制限時間は三十分、それ以降は審査を受け付けません。できた方は舞台の上に登ってそれを披露してください。それでは──スタートです!≫


 細かいルールはまだ行われずにいた。
 これは技術を観るものであって、パフォーマンスを観るものではない。
 つまりどんな形であれ、そこに技術が籠められていればよしということだ。


「さて、俺を驚かせるような結果を出すことはできるかな?」


 なんでも願いを叶えてやる、的なことを俺は言ってしまった。
 別に今さら否定する気はないが、黒い笑みでロクでもないことを言われてしまうと困ってしまうんだよ。


「まっ、お手並み拝見ってことで」


 必死にウンウン唸っているナースの姿を見ながら、俺は観覧を楽しむのであった。


  ◆   □   ◆   □   ◆


『けいやくしゃー!』

「……まあ、こうなるとは思っていた」


 そして、すぐに慰める作業に入る。
 いくら魔力制御能力に秀でていても、さすがに本職には勝てなかった。

 ──生産特化系の魔物が生産職に就き、極限まで高めた器用さを用いて子鬼の少年の彫刻を作り上げたのだ。

 一分の一スケールでできたそれは、目の奥で生みだされようとしている涙まで忠実に再現した素晴らしい逸品だった。


「そして二人目の出場者は……フィギュアを生みだした。ただ魔力で絵を描く貴様よりも上等な手段を用いたのだから、この結果に俺がケチを付けることはない」


 うむ、完璧な出来であった。
 俺もそのうち、眷属に内緒で八分の一サイズの眷属フィギュアでも造ってみようかな?

 おっと、それよりナースの方をどうにかしないとな。


「貴様は今回、あることを学んだ」

『?』

「技術を求めた果てに、芸術が存在するということだ。剣技を極めたその動きは、剣聖として評価される。魔法を極めたその力は、魔王として評価される。物事を極めるということは、他者を圧巻させるナニカをその概念の中へ注ぎ込むということなのだ」


 ちなみに、この場合の魔王とは魔法の王様という意味である……実は二パターンの魔王が居るんだぞ。


「ナース、貴様は描いたアレに何を籠めようとした……何もしなかったな。貴様はただ、模した絵を宙に描いただけだ。だから敗北した、だからこの場に居る」

『うー』

「しかし、今俺の言葉を聞いて貴様はそれを理解したはずだ。また一つ、成長を重ねることができた……期待しているぞ、ナース」

『おー!』


 元気になったナースを見て、心の中でホッとため息を吐く。
 しかしまさか、このタイミングで優勝候補とか実況が言っているような奴らとぶつけられて負けるとは……ナースも契約者に似て、凶運になったのか?


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