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偽善者と精霊踊る育成イベント 十四月目

偽善者と育成イベント中盤戦 その12

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「ハァ……疲れた」

『けいやくしゃー、だいじょうぶー?』

「ああ、どうにかな。貴様の尻拭いをしただけだ、その程度であれば容易い」

『つかれてるー』


 浮島を“水鏡転陣ミラーポーター”の移動先として登録したので、とりあえずの目標は達成した。
 使える駒も一つ拾えたし、なんだか得した気分ではあるが……本当に疲れた。

 中途半端な魔王ロールなんて、コミュ障ではあるがそれなりに人と話せる俺がやる必要はないのだ。
 だいたい、ナースとの会話の流れでそれを選んだが……それである必要もなかったな。


「ハァ……疲れた」

『けいやくしゃー!』

「ああ、大丈夫だ。ナース、それよりも貴様は進化したのか?」

『えー? うーん……ま、まだー』


 物凄く挙動不審になっているが、まあ本人(精霊)が言うならそれでもいい。


「本当にそうであるならば、仕方がない。そろそろ次の会が開かれる頃だ。ナース、俺たちもエントリーするぞ」

『あうー』

「どうした? 俺は向かうぞ」

『けいやくしゃー!』


 さて、会場はこっちだったかな……おお、かなりの人数の参加者が集まっているや。 
 魔法陣に乗り込み、会場へ転移する。
 ホログラムで説明される、次の競技の内容とは──



===============================
第二競技:展覧会(技比べ)

本選参加人数(予定):16名
予選参加人数(現在):280名

予選参加募集終了後、参加者には英数字の書かれた札をお渡しします
予選は記されたアルファベットのグループごとに行い、その上位選手のみが本選に参加することができます
競技の詳細は登録完了後にご説明します
===============================



 技を比べる展覧会であった。
 俺としてはさっさと武闘会を始めてくれた方が助かるのだが……やっぱり闘いは、締めとして使われるのだろう。


「ナース、魔力操作はちゃんとできるか?」

『ばっちりー!』

 バッチリ、と精霊文字という言語で書いているので大丈夫なのだろう。
 魔力の揺らぎもなく、安定して文字が維持できているのは高得点だな。

 だが……一つだけ問題がある。

「いいか、ナース。このままでは、確実に貴様の優勝はありえない。なぜ、俺がそう思うのか分かるか?」

『? わかんなーい』

「簡単な話だ……アレを見ろ」


 俺の視線の先には、同じく精霊種である火の精霊が主の指示通りに魔法を撃っている。
 紅の焔がお手玉のように宙を舞い、幻想的な光景を生んでいた。


「ナース、同じことができるな?」

『はーい!』


 ナースもそれを真似て、魔力を体外に放出して操作を行う。
 球体がグルグルと空に浮かび上がると、一寸の狂いもなく舞い踊っている。


「……もういい、止めて良いぞ」

『はーい!』

「もう分かっただろう。貴様の演技は玄人好みなのだ」

『んー?』


 少しばかりお茶を濁しすぎたか。
 ここは優しい言葉でオブラートに包むよりも、ガツンと言った方がいいのかもな。


「──無属性魔法は地味すぎる。いくら技術が高かろうが、芸術性が欠けているのだ」


 そりゃあもう、ナースの反応といったら凄まじいものであった。
 マイナスの感情が絡み合い、どう動いていいか分からない複雑な状況に陥ってしまう。

 時々俺の方を見ながら言葉を発しようとするが、なんだか躊躇って落ち込む……というサイクルに入っていた。


「まあ、俺の魔法で貴様の属性を変えることもできる」

『──ほんとー!』

「ああ、可能だ。ただ、俺は無属性精霊である貴様を頼ろうとしたのであって、それ以外の貴様には……わざわざ目をかけて契約するほどの価値は」

『──やだー! ぜったいやだー!!』


 必死に抵抗しているが、属性を変えても今さら付け焼刃にしかならないだろう。
 適性を得ることはできるが、魔法の習得は一からやり直す必要があるし……そういった点のデメリットはちゃんとあるのだ。


「安心しろ。貴様が嫌がることを、俺が一度でもしたか?」

『うん』

「…………貴様は俺にとって、大切な契約精霊だ。必要な際は叱るが、意味のないことはしない。それが貴様にとって重要なことだから、俺は行うのだ」

『けいやくしゃー!』


 飛んでくるナースを、俺は受け入れ……ずにヒラリと躱す。
 即答した奴に、どうして俺が親切なことをせねばならない。


『むー、けいやくしゃー!』

「ふはははっ、不満があるなら己の力のみで解決してみるがよい! たとえどのように足掻こうが、俺をどうにかするのは不可能であろうがな!」

『まてー!』


 始まるまで時間があったので、挑発して最後の調整を確認してみることに。
 感情によってある程度セーフティーが切れた状態で、それでもなお正確なコントロールができていれば合格だ。


『そりゃー!』

「き、貴様! どうしてそこまで緻密な攻撃ができ──ぐはぁっ!」

『ふふーん……って、あー!』

「甘いぞナース! 俺に飽和攻撃など、億年は早い!」


 まあ、決して隠蔽を絶やさずに追いかけっこができているし大丈夫だろう。
 成長したナースを見て、少しだけ感涙した俺であった。


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