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偽善者と精霊踊る育成イベント 十四月目

偽善者と育成イベント中盤戦 その10

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「やれやれ、やっと見つけた」


 気絶したリヴェルはプカプカと浮いていた。
 黒いロングコートは水分をたっぷりと吸収してしまって……なんてことはなく、魔法の力によって水を完全に弾いている。


「念のため、確認っと」


 変装や変身、偽装や隠蔽などすべての可能性を疑っておく。
 触れたら『キャー、○○太さんのエッチ』的なことになっても困るのだ。

 今の俺にハラスメントのシステムが効くかどうかは別として、運営神に俺の座標がバレるのは厄介だしな。


「ふむふむ、結構な魔道具を揃えておりますな。まあ、リーとシーに比べれば全然劣ってるけど」


 なにせ神器と魔武具だしな。
 回復速度の上昇、一日に一度だけ発動できる攻撃の無効化、特定魔法の触媒……かなりそういったアイテムを持っている。


「魔剣の方はさっき見たけど、コピーもしておかないと」


 ギーの母体『模倣玉』を使って二振りの魔剣を完全な形でコピーしておく。
 意思はまだ宿っていないし、おそらく宿ることのない魔剣だった。

 これからまた別の剣と巡り合って、それこそが……なんて展開かもしれない。


「さて、他々っと……」


 そのあと、武具は全部登録したぐらいで少しだけ意識が戻ってくる。
 無効化の指輪は使用済みだったので、落ちた衝撃をモロに受けて気絶していたのだ。

 だが、ダメージとしてはそこまでひどくはなく、回復系の指輪によって目を覚ました。


「うっ、ぐぅ……」

「無様だな。自身の眼を曇らせた結果が、このような敗北を生む」

「貴様……いや、そうだな」


 やけに素直だな。
 コイツの場合は【即応反響】という固有スキルに侵蝕されておらず、自身と馴染み切っていたのでそういったものが理由ではない。

 なら、なんでだろう? ……直接聞いた方が早いか。


「やけに話を呑み込むな。自身の弱さに気づいていたということか?」

「……あの精霊を中級だと思って戦おうとしていたのは、おれ自身の選択だ。すぐに違うと分かったが、それでも上級程度の戦闘力しかないと錯覚していた」

「ふんっ、魔王の配下たる精霊がその程度の実力だと思われていたとはな。俺の配下には相応の力を与えている」

「魔王の加護、か……良い響きだな」


 実際には(不明の加護)だけどな。
 俺しかいない種族だからか、種族名で表示されるんだよな……違っふえたらどうするんだ?


「まあよい。それよりも貴様、回復魔法は通じるのか?」

「……ああ、効く」

「ならば話が早い──“回復源泉ヒールスプリング”」

「水魔法の最上級回復魔法だと!」


 説明ご苦労さん。
 リヴェルの解説通り、この魔法は水魔法のレベルを上げきると使えるようになる。
 水を触媒として使用し、変質させて一時的に回復効果のある水とする魔法だ。

 ただし、泉のように一定以上の大きさを持つ水域でなければ使用できないという微妙な条件を持っている集団回復魔法でもある。
 まあ、眷属の魔法改良技術によってとっくに解消されているけどさ。


「魔王にかかれば、使役する精霊にこの程度のことをやらせるのは容易いことだ。それよりどうだ、回復はしたか」

「えっ? あ、うん……じゃない! ああ、回復はしたぞ」

「そうか。それならば、もう立てるだろう」


 一瞬素が出た気もするが、細かいことを気にしていると話が進まないのでスルーだ。
 のろのろと立ち上がろうとするリヴェルは彼なりに、何か考えているのだろう。

 この数秒を意識加速によって何倍にも高めて思案に耽っている……さながら、物語の主要人物のように。


「どうしておれを回復した? 貴様の精霊の糧とするのであれば、殺した方が良かっただろうに……」

「お前のような雑魚を殺したとしても、所詮はカスのような経験値しか手に入らぬ」


 行動経験として手に入った分の経験値はありがたくいただくが、殺したことで集まる経験値は遠慮しておいた。

 自身の器を磨くか、それとも外部から一気に集めるか……すでに必要な量まで集められているので、ナースには自分磨きの方が必要だと判断したのだ。


「だが、貴様のような雑魚であろうと使いようによっては有能な働きを見せるだろう」

「……雑魚だと?」

「配下の精霊一人に敗れ、満身創痍な貴様に何ができる。俺の配下は奴だけではない」

「…………」


 精霊は、ナースしかいないけどさ。
 魔王なのにそれってのも虚しいな。
 今度からは聖霊魔王に……って、響きは全然変わらないじゃないか。


「貴様、どこかに与しているのか?」

「……ソロだ。冒険者ギルドに、登録はしているが」

「それは好都合だ。わざわざ単独で動いていようとは、なかなかに難儀なものだな」

「くっ、おれは孤高こそが力を与えるのだ」


 これが本当なら、『孤闘者』の称号でも付けているのだろう。
 あれを付けているだけで、ソロプレイヤーは通常の三倍の戦闘能力を得るわけだし。


「ならば貴様、俺の下に就け。俺の配下として単独行動をするがよい」

「なっ!?」

「……しまった、貴様にメリットを提示するのを忘れていたな。見た様子、欲深な普人族であろうし……条件を上げなければ、働こうとも思わぬ者たちであった」


 俺の第一印象は<畏怖嫌厭>で最悪。
 だがまあ、やってみるだけやってみようかな……スカウト。


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