951 / 2,518
偽善者と精霊踊る育成イベント 十四月目
偽善者と育成イベント中盤戦 その09
しおりを挟むナースはメルスの指示を受け、初めから全力一歩手前の魔力の解放をしていた。
虚空の属性魔力を使わない、無属性の精霊としての最大限の力……それが今、リヴェルによって切り払われた。
『むー、こうだー!』
こちらに向けて走ってくる黒色の剣士に向けて、さまざまな形にして魔力をぶつける。
だが、そのすべてが一瞬の内に消滅し、動きを止めることすらできない。
彼の持つ二振りの魔剣、その力を攻略しない限り目的を成すのは厳しかった。
「精霊よ、貴様に罪は無い。大人しくこの場から去るのであれば、おれとて原初の流れに還すことなどせぬ……魔王から放れろ」
『やだー! けいやくしゃはーナースといっしょー!』
一度目と同様に、弾幕の雨を放ちリヴェルの動きを止めようとする。
だがそこに一つ、虚空の属性魔力を籠めた一撃が混ざっていた。
「何度やっても無駄だ! おれのこの力は絶対──【即応反響】!!」
光速の剣舞が魔力を霧散させていく。
コンマ一秒の速度で減り続けている魔力の雨こそ、虚空の魔力を使うカウントダウンとなっていた。
「おれの魔剣は最強無敵、誰にも止めることなんてできな──っ!」
『やったー!』
虚空の魔力に二振りの魔剣が触れた途端、強烈な光がリヴェルを襲う。
無属性の魔力だと思っていた神代の力は、吸収できないほど膨大な魔力をその一粒の中へ凝縮していた。
相殺もまた、不可能である。
虚空の力とはただの魔力と一線を駕す、荒れ狂う虚無に繋がる無敵の力。
──虚ろな空を生みだす力の本質は、絶対的な消去能力にあった。
「……油断するなよ」
『ほえー?』
だが後ろから、メルスは忠言する。
倒したと思ったのに、どうしてそのようなことを言うのかがナースは不思議だった。
「最後の一瞬まで、決して容赦をするな。たとえ弱りかけであっても、死んだ姿を見たとしても……プレイヤーは何度でも蘇る。常識が通用しない埒外の存在に、普通という概念は意味を成さない──このようにな」
立ち込めていた煙の中に、剣を構えて立つ男のシルエットが映る。
満身創痍、といったボロボロの姿ではあったものの……その目には不屈の闘志が宿っていた。
「貴様の忠義、見させてもらったぞ。だが、おれの力はあらゆる攻撃を反射できる」
「……ああ、だから『リヴェル』なのか。その力、どこで手に入れた」
「長き修練の果てに」
短くそう告げると、リヴェルはついにナースのすぐ近くまで向かってきた。
とっさに魔力の膜で防御するが──
「おれにその手は、悪手だぞ」
『まだまだー!』
「……チッ、今の力か!」
ただの無属性魔法であれば、相殺・吸収されて内側に居たナース諸共すべて斬り裂かれていただろう。
だが、ナースが用意したのは虚空の属性魔力で生みだされた高純度の結界。
『とっしーん!』
「そのまま動くだ──どぶぅっ!!」
勢いを付けて吶喊するナース。
固有スキルの力も借りて、どうにか攻撃を当ててはいたが……高濃度すぎる虚空の力を抑えきることも敵わず、リヴェルの肉体ははらか高く空まで舞っていった。
◆ □ ◆ □ ◆
──魔法、関係ねぇじゃねぇか!
空高く飛んでいった厨二剣士を見ながら、俺はそう思った。
結界を纏っての突進って、もうほとんど物理攻撃だよな。
「まあ、しかし……よくやったな」
『えへへ~』
「褒美は何にしようか。貴様は言ったのだからな、俺と共に居ると」
『!』
おやおや、自分の台詞なのにもう忘れてしまったのかな?
ギリギリの状況というモノは、生命に本音というモノを曝け出させる。
「──契約者といっしょ、だったか? つまり貴様は、それを宣言したわけだ」
『~~~~!』
「ふっ、気にするでない。貴様も進化をすれば、もっと俺の役に立つだろ」
『──けいやくしゃのばかー!』
ほんの少し、ダメージもならない程度にポスッと魔力をぶつけてから、ナースは俺の中へ入り込んでいった。
「まったく、いい精霊を見つけたよ。だけどまあ……今度はこっちの相手をしないと」
同時に、大きな水飛沫が上がる。
間欠泉が噴き出したかのように、天高く水が昇っていく。
先ほど上に跳ね上げられたリヴェルが落ちた衝撃で、こうなったわけだが……絶対に痛かっただろうな。
「ちなみにだが、コイツは男だ。そこに創作物特有の勘違いは存在しない」
その気になればシャインと同様の処置ができるが……しっかりと{感情}を操作できるようになった今であれば、わざわざそうしたことをする理由もないので放置とする。
「それに、ナースはこの戦闘で何かを得ていた気がする。経験値も手に入れたし、間もなくそこへ至る……礼はしないとな」
お礼参り、という意味では無い。
ついでに言えば、【即応反響】や二本の魔剣をくれたりしたんだから……きっとコイツも悪い奴ではないだろう。
「となれば、まずは起こさないとな。叩きつけられれば気絶するだろうし。さっきの水飛沫から場所を特定して……よし、あっちの方向だな」
厨二の患者の元へ、ゆっくりと歩を進めていった。
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?
破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。
そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。
無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる
そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた…
表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと
イラストのurlになります
作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)
虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
俺と異世界とチャットアプリ
山田 武
ファンタジー
異世界召喚された主人公──朝政は与えられるチートとして異世界でのチャットアプリの使用許可を得た。
右も左も分からない異世界を、友人たち(異世界経験者)の助言を元に乗り越えていく。
頼れるモノはチートなスマホ(チャットアプリ限定)、そして友人から習った技術や知恵のみ。
レベルアップ不可、通常方法でのスキル習得・成長不可、異世界語翻訳スキル剥奪などなど……襲い掛かるはデメリットの数々(ほとんど無自覚)。
絶対不変な業を背負う少年が送る、それ故に異常な異世界ライフの始まりです。
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる