上 下
950 / 2,519
偽善者と精霊踊る育成イベント 十四月目

偽善者と育成イベント中盤戦 その08

しおりを挟む


「精霊、魔王だと……」

「何か問題でも?」


 実際には『試練の魔王』なんだが……そちらの場合は撲滅イベントの件と結び付けられてしまうので、あえなく却下した。

 実は意外と恩恵のある二つ名システム。
 称号ともスキルとも別に、大衆からの偶像で力を得ることができるおまけ機能。
 だがそんなものでも欲しくなるのが、絶賛縛りプレー中の偽善者様なのだ。


「魔王を騙る者など幾人も見てきた……が、どうやら貴様は本物のようだな」


 何を根拠に言っているのか分からない。
 黒尽くめな格好をした双剣使いは、大げさな身振りをしてから剣を抜く。


「このリヴェル、相手が魔王であるのならば不足は無い。全力で挑もうではないか」

「貴様自ら、挑むのか。今、この近くの町では魔物などを使役して競わせるという祭りが行われていたではないか」

「……おれのような一流の猛者ともなれば、相性の良いものが易々と見つからないのだ」


 うん、どうせそんなことだろうとは想っていたが……小さな妖精でも探していたのか?


「妖精は自我を宿す。たしかに貴様では、使役することは難しいだろうな」

「そうそう、だからおれは……いや、一言も妖精を使役したいとは言ってなかろう!」

「まあよい。ならば貴様が勝てば、俺の持つ精霊を一体くれてやろう……上手くやれば、精霊が妖精へ進化するのだからな」

「なに!? それは本当か?」


 無論、本当である。
 精霊が通常ルートの進化を続けていた際、なんらかの理由で道を踏み外した結果が妖精になることが多い。

 一番多いのは、欲に負けることだ。
 その条件が緩和されるのは上級精霊から。
 それ以前の精霊たちは、あまり無茶な願いなど抱かない方がいいのだ。

 なお、ナースは俺の導きと魔法による維持があったので精霊で在り続けた。
 そうでもなければ、虚空の力を見ただけで妖精になっていたかもしれないしな。


「どうした、仙なる者? やはり我欲は捨てきれなかったか」

「ぐっ……だが、貴様は言ったな。おれが勝てば精霊を与えると」

「魔王の名の元に誓おう。無論、こちら側で何を与えるのかは決めるがな。いちいち迷われては、溜まったものではない」

「…………いいだろう」


 どうせこういう奴は、個体値だの性格だの個性だのを厳選するだろう。
 そんなのを待っていては、いつまで拘束されるか分かったものではない。

 予めこう告げておき、最初の一体で満足してもらわねば。


「ならばよし、精霊魔王らしく貴様の相手は精霊が努めさせてもらおう──現れよ」

『はーい!』

「その見た目……下級精霊? いや、だが魔力量がより強大だ。それに、鑑定も……まさか中級精霊なのか!?」

「ふっ、貴様がそう思うのであればそうなのだろうよ。だが、ただ貴様にはこのレベルで充分だと思ったことだけは伝えてやろう」


 亀を倒したのがコイツであるならば、ナースが闘うべき相手なのだろう。
 ふわふわと浮かぶナースからも、なんとなく闘いに向ける意志というものを感じ取れる気がするし……楽しみだな。


「では──始めよ!」


 俺の掛け声を合図に、戦闘は始まった。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 ──ただの中級精霊ではない。

 始まって数秒でリヴェルはそう判断する。
 ハンドボールほどの大きさの球体が小さく震えると、周囲に魔力で生成された雨のような弾丸が彼に向けられる。

『いっけー!』

 密度が高すぎて、リヴェルはその予兆を読み取ることができなかった。
 普段認識しようとする魔力のはるか高みすら凌駕する、理不尽とも呼べるほどに強大な力の奔流。

 それらがたった一度の攻撃で、リヴェルの肉体を滅ぼそうと放たれたのだ。

「だが、おれは負けぬ!」

 握り締めた二振りの剣には、それぞれ特別な力が宿っている。

 発動された魔法と同じ、あるいは対となる属性を宿すことで攻撃を無効化することができる──『魔剣[ニュートライザー]』
 外気や相手の力を自動的に吸収して持ち主の糧とする──『魔剣[アブソブレス]』

 相殺に成功した魔法はすべてリヴェルの魔力として取り込むことが可能なため、あらゆる属性の力を操れるように彼はこれまで弛まぬ努力を続けてきた。


「そして、おれにはこの力がある。観ていろ魔王! そして、貴様の目にしかと焼き付けておけ──【即応反響】!!」


 この力こそ、これまで数々の猛者たちを倒し続けたリヴェルだけが持つ能力。
 固有スキルと呼ばれる力が、握り締めた二本の剣に宿る。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 超高速の剣戟によって、正確に魔法の核に剣を当てていく。
 彼の持つ(瞬速剣術)は、力ではなく技を用いて敵を斬るための剣術だ。

 同じか対となる属性を籠めなければ相殺できない[ニュートライザー]の代わりに、魔法の属性を[アブソブレス]が取り込むことでその条件を満たす。

 一度目の接触以降は相殺に相殺を重ね、少しずつ敵の精霊が放った魔力を自身の糧として吸収し続ける。
 雨のように感じた魔法の弾丸も、やがて晴れていく。

『うそー……』

 驚いているようであったが、それはリヴェルも同様である。
 それでもどうにか口にしてしまうことだけは抑え、精霊の元へ走り抜けた。

しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

World of Fantasia

神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。 世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。 圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。 そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。 現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。 2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。 世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。

パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。

荒井竜馬
ファンタジー
『第16回ファンタジー小説大賞』奨励賞受賞作品 あらすじ  勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。  しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。  道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。  そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。  追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。  成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。  ヒロインは6話から登場します。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

処理中です...