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偽善者と精霊踊る育成イベント 十四月目

偽善者と育成イベント中盤戦 その07

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 かつて天使であり、その後天魔に身を窶した……なんてプレイヤーとしての設定を持っている俺ではあるが、どちらの種族も因子をせばすぐになれるので感傷はない。

 ただ、あまりプレイヤーの知り合いでそういった羽の生えた種族を見たことがないことに今さらながら気づいた。
 ……ペルソナが<天魔騎士>によって翼を生やすことはできるが、いちおう彼女は翼の生えていない魔人族なので例外にしておく。


『ふんふんふーん♪』

「……ふんっ」

『ふふふふーん♪』

「……ふんっ」


 あるかも分からないナースの鼻歌と、俺の鼻息の音だけが浮島の中心へ向かう俺たちの鳴らす音だ。
 暇潰しにスキルを使わない足音の消し方を試している俺と、常に浮遊状態でいるナースに無駄な音が出ないためである。


「そろそろ着くぞ。虚空の力は充分に練り上げられているか?」

『おー!』

「ならばよい。だが、相手が魔力への対処を上手く行える者である可能性も高い。魔力を反射する亀を倒したのであれば、それ以上のナニカができるということだ……気をつけておくんだな」

『はーい!』


 魔法反射系の武器を持っているかもしれないし、相手の能力を一時的に無効化するなんて代物かもしれない。
 翼云々で期待もしているが、それ以上にこの闘いがナースのいい経験となることを楽しみにしている。


「そろそろ貴様の器も満たされる頃だ。そうなれば……大人しく進化してもらうぞ」

『はーい』

「もちろん、形も別のものにするんだぞ」

『…………』


 なぜこの話題になると、嫌がったり無言を貫いたりするんだろうか?
 ただの駄々か? いや、そう言うことじゃない気がするんだよな。


『けいやくしゃー』

「どうした」

『けいやくしゃはー……なんでもなーい』

「何を躊躇った。俺に隠し事か?」


 成長したものだ。
 生後数日とは思えないほど、ずいぶんと柔軟な思考を持って──お父さん嬉しいよ。
 だがまあ、もうそんな時期なのか。
 娘(?)の反抗期はいつだって、とても辛いものである。


「何を隠しているかは分からぬが、それが貴様にとって重要なことなのか?」

『……うんー』

「ならば言わずともよい。俺は貴様の契約者だ。それに相応しい存在で在り続けるのであれば、何をしようが構わん」

『けいやくしゃー?』


 そろそろ目的地に着く。
 だが、これだけは言っておこう。


「──欲しろ。貴様の想いとは何かを求めるが故のもの。代えがたいナニカを得たいのであれば、たとえ誰かを犠牲にしてでも手に入れる確固たる意志を持て」


 ナースの反応は聞かないでおく。
 ……自分でも台詞セリフがアレすぎて、いろいろと羞恥心が爆発しそうだからな。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 森を抜けた先、視界いっぱいに広がる湖の上にソイツは居た。
 寒くもないのに真っ黒なコートを羽織り、意味の無い指抜くグローブを嵌めている。

 眼も髪も黒く、全身黒染めな男……うん、俺が言うべき台詞セリフは一つ。


「……厨二病か?」

「──ち、違うわい!」


 その軽快なノリツッコミ……どうやら、悪い奴ではないようだ。
 さすがに眼帯やメッシュ系はしていないようだが、それでも背負った二振りの剣がそこはかとなく厨二感を醸しだす。


「まあよい。俺の名は……そうだな、ブラックナイトとでも名乗っておこう」

「偽名ではないか。それに、どちらかと言えばそれはおれの偽名だ」


 黒色の剣士はそう言うが、他にお前を見て浮かんだ名が無かったんだよ。
 リー同様、ツッコミをさせると面白い奴にはついボケてしまう。

 少し緩んでしまいそうな頬を正し、風精霊に風を吹かせてもらいながら挨拶を行う。


「俺の名はノゾム。精霊術士にして、最強の聖霊を求める偽善者だ」

「自ら偽善者を名乗るとは……貴様、どうやらなかなかやるようだな」

「ふんっ、俺は俺の望むままに力を振るっているだけだ。……して、貴様の名を問おう」


 なんだか演じてる俺に似ているものがある気がするな、コイツ。
 そんなことを思っている間にも、彼の発言に対するモチベーションは上がっていた。


「おれの名は『リヴェル』。個にして孤、全にして仙なる者だ」


 俺の封じられた記憶くろきれきしを思い返せば、たしかリベルという神の名があった気がする。
 あの患者だろうから、おそらくそういった部分から名前を頂いたのだろう。


「ふっ、自身が仙人とでも言うのか? 貴様のように他者を騙る者が、至れるとでも?」

「その言葉、そのまま返そう。偽善者を名乗るのであれば、精霊術士などとうそぶくか」

「……俺が嘘を吐くとでも?」


 まあ、実際『無職』だしな。
 それまでに稼いだ金で眷属を養うことはできるが、その響きはたしかに苦しい。

 俺が半ば当たっている推理に苦悩する間、ペラペラと何か言っていたリヴェル。
 そして、その結論を言おうとしている。


「その魔力、ただの精霊使いではありえぬ魔力量だ。貴様の正体は──魔王だな?」


 ビシッと指を俺に向けて差すリヴェル。
 十中八九、こいつの勘でしかない。

 まあ、ここに来るに当たって軽い偽装を施してはあるし……面倒だし、それにしよう。


「──よくぞ見抜いた! 俺こそが、精霊を操る魔王──『精霊魔王』だ!!」


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