948 / 2,518
偽善者と精霊踊る育成イベント 十四月目
偽善者と育成イベント中盤戦 その06
しおりを挟む幸いにして、泉に待ち伏せなんて野暮なことをする奴らではなかった。
ユウは単独犯だったようで、俺の逃げる先が泉であることはまだ知られていない。
「拠点を増やした方が良さそうだな」
『けいやくしゃー?』
「いいか、あれは貴様がどれだけ足掻いてもまだ勝てぬ相手だ。ただ虚空の力を振り回そうと、確実に無効化される」
『えー!』
仕方ないだろう、[スキル共有]で必要なスキルをダウンロードできるんだから。
まだ生まれたばかりで無垢なナースに罪科は無いが、業として今までの行動が一つでも判定されたら厄介だし。
「アレは俺の配下の内、言うことを聞かない奴だ。俺もそれを許諾していて、自由にやらせている。そうだな、力を証明させ続けているのだ」
『しょうめー?』
「貴様と異なり、アレは俺の保護が無くとも生きていける。だが力を欲し、俺の配下として動くことを誓っている……忠誠心が貴様以上に欠けているのだ」
『おー!』
ナースの忠誠心なんて、まったくと言っても問題ないぐらいにないだろうけど。
だって、無理に脅して契約を交わしたようなもんだからな。
意思を持った今であれば、俺がどれだけの非道を行ったかを自分で認識することもできるだろう。
……その結果は、聖霊に進化した後にでも発覚するけど。
「しかし、こうも相次いでトラブルばかり起きていては溜まったもんじゃない。ナース、貴様以外の精霊を使うぞ」
『えー!』
「仕方なかろう。貴様は俺を専属して守ればよい、それ以外の仕事を行う精霊が今は必要となっているのではないか」
『えへへー』
いやいや、どこに照れるか。
ユウが拘束魔法を使った際、内側からナースには魔法を解除してもらう予定だった。
実際にはボケとツッコミで忙しく、捕まえるのを忘れていたみたいだが……。
「──“合精霊創造・大地小人”」
すでに再補填されている泉の周辺に漂う精霊たちの内、土属性の精霊たちが集まり仮初の体を形成する。
四大精霊の中でも大地を司るとされるその精霊は、派手な色の服と三角帽を身に着けた小さな小人であった。
「しかし、二人か……少ない」
『どうするのー?』
「仕方ない──増やす」
周囲の精霊の数を確認して、影響範囲を調整しながら次の魔法を発動する。
「──“精霊変質”」
すると、発動した魔法の影響が及ぶ場所に居た精霊たちに変化が起きる。
まるでカメレオンのように、じんわりと元の色から茶色へと変色していくのだ。
それこそが“精霊変質”の効果。
純粋な下級精霊であれば、この魔法によって属性を変更させることができるのだ。
ユラルには怒られたこの魔法だが……緊急時の方法として、許してもらいたい。
「……ふぅ、こんな感じだな」
『すごーい!』
「当然であろう、俺は貴様の契約者であるのだからな」
『うーん!』
先ほど同様に“合精霊創造”を使い、用意した土精霊を大地小人に束ねておく。
上級精霊であるノームを、下級精霊を使うことで一時的に現界させるのがこの魔法だ。
この魔法自体は普及されており、強大な魔物を象らせたりするために使われている。
上級精霊もそうして超常的な存在の一つとして扱われているため、下級精霊を束ねて創りだせるようになっていた。
なら、精霊王を創ればいいだろ、といった野暮なことを言ってはいけない。
いくらなんでも下級精霊では精霊王を創りだすことは、物理的にも魔法的にも不可能なことだったのだ。
閑話休題
擬似ノームたちをエリアの至る所へ派遣して、探知網を築き上げた。
同時に“水鏡転陣”が使えそうな場所の捜索もさせているので、逃げる場所は格段に増えると予想される。
「あそこを抑えておこう」
『あそこー?』
「貴様が苦戦した、あの亀がいる湖だ。あそこであれば、そう簡単に侵入者は現れぬ」
『おー!』
風精霊の助力と共に舞い上がり、目的の浮島まで急加速する。
座標は一度行った際に把握しているので、どれだけ風的なものに流されていようと瞬時に行き先を理解できた。
「……ナース、俺も含めて魔力を遮断させることはできるか?」
『できるー!』
「そうか、頼む」
『うーん!』
俺は魔道具に入れた光と闇精霊に光学迷彩的なことを頼み、浮島までの道を高速で駆け抜けていく。
多少は大気に乱れが生じるだろうが、それでも迷彩がぶれなければ問題ない。
「“精霊眼”……ああ、何か居るな」
『なにかー?』
「少なくともあの亀ではない。別の者があの島へ侵入している」
『えー!』
まったくだ、思わず叫びたくなる。
浮島は他の場所にも配置されているが、どうしてよりにもよって俺たちの向かう浮島に誰かが居るのだろうか。
すでに再配置された亀を排除したようなので、わざわざ出ていく理由も見当たらない。
……精霊の乱れでそれを調べたが、何者かまでは分からない。
「警戒はしておくぞ」
『おー!』
相手が誰であれ、物理無効で魔法破壊が可能なナースが居ればどうとでもなる。
というか、ここまで来れるプレイヤーなら飛行系の何かを持っている? 翼の生えた種族なら、ぜひ会ってみたいな。
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?
破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。
そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。
無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる
そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた…
表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと
イラストのurlになります
作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)
虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
俺と異世界とチャットアプリ
山田 武
ファンタジー
異世界召喚された主人公──朝政は与えられるチートとして異世界でのチャットアプリの使用許可を得た。
右も左も分からない異世界を、友人たち(異世界経験者)の助言を元に乗り越えていく。
頼れるモノはチートなスマホ(チャットアプリ限定)、そして友人から習った技術や知恵のみ。
レベルアップ不可、通常方法でのスキル習得・成長不可、異世界語翻訳スキル剥奪などなど……襲い掛かるはデメリットの数々(ほとんど無自覚)。
絶対不変な業を背負う少年が送る、それ故に異常な異世界ライフの始まりです。
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる