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偽善者と精霊踊る育成イベント 十四月目

偽善者と育成イベント中盤戦 その06

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 幸いにして、泉に待ち伏せなんて野暮なことをする奴らではなかった。
 ユウは単独犯だったようで、俺の逃げる先が泉であることはまだ知られていない。


「拠点を増やした方が良さそうだな」

『けいやくしゃー?』

「いいか、あれは貴様がどれだけ足掻いてもまだ勝てぬ相手だ。ただ虚空の力を振り回そうと、確実に無効化される」

『えー!』


 仕方ないだろう、[スキル共有]で必要なスキルをダウンロードできるんだから。
 まだ生まれたばかりで無垢なナースに罪科は無いが、業として今までの行動が一つでも判定されたら厄介だし。


「アレは俺の配下の内、言うことを聞かない奴だ。俺もそれを許諾していて、自由にやらせている。そうだな、力を証明させ続けているのだ」

『しょうめー?』

「貴様と異なり、アレは俺の保護が無くとも生きていける。だが力を欲し、俺の配下として動くことを誓っている……忠誠心が貴様以上に欠けているのだ」

『おー!』


 ナースの忠誠心なんて、まったくと言っても問題ないぐらいにないだろうけど。
 だって、無理に脅して契約を交わしたようなもんだからな。

 意思を持った今であれば、俺がどれだけの非道を行ったかを自分で認識することもできるだろう。
 ……その結果は、聖霊に進化した後にでも発覚するけど。


「しかし、こうも相次いでトラブルばかり起きていては溜まったもんじゃない。ナース、貴様以外の精霊を使うぞ」

『えー!』

「仕方なかろう。貴様は俺を専属して守ればよい、それ以外の仕事を行う精霊が今は必要となっているのではないか」

『えへへー』


 いやいや、どこに照れるか。
 ユウが拘束魔法を使った際、内側からナースには魔法を解除してもらう予定だった。
 実際にはボケとツッコミで忙しく、捕まえるのを忘れていたみたいだが……。


「──“合精霊創造クリエイトエレメンタル大地小人アースノーム”」


 すでに再補填されている泉の周辺に漂う精霊たちの内、土属性の精霊たちが集まり仮初の体を形成する。
 四大精霊の中でも大地を司るとされるその精霊は、派手な色の服と三角帽を身に着けた小さな小人であった。


「しかし、二人か……少ない」

『どうするのー?』

「仕方ない──増やす」


 周囲の精霊の数を確認して、影響範囲を調整しながら次の魔法を発動する。


「──“精霊変質チェンジエレメンタル”」


 すると、発動した魔法の影響が及ぶ場所に居た精霊たちに変化が起きる。
 まるでカメレオンのように、じんわりと元の色から茶色へと変色していくのだ。

 それこそが“精霊変質”の効果。
 純粋な下級精霊であれば、この魔法によって属性を変更させることができるのだ。
 ユラルには怒られたこの魔法だが……緊急時の方法として、許してもらいたい。


「……ふぅ、こんな感じだな」

『すごーい!』

「当然であろう、俺は貴様の契約者であるのだからな」

『うーん!』


 先ほど同様に“合精霊創造”を使い、用意した土精霊を大地小人アースノームに束ねておく。
 上級精霊であるノームを、下級精霊を使うことで一時的に現界させるのがこの魔法だ。

 この魔法自体は普及されており、強大な魔物を象らせたりするために使われている。
 上級精霊もそうして超常的な存在の一つとして扱われているため、下級精霊を束ねて創りだせるようになっていた。

 なら、精霊王を創ればいいだろ、といった野暮なことを言ってはいけない。
 いくらなんでも下級精霊では精霊王を創りだすことは、物理的にも魔法的にも不可能なことだったのだ。


 閑話休題キャパぶそく


 擬似ノームたちをエリアの至る所へ派遣して、探知網を築き上げた。
 同時に“水鏡転陣ミラーポーター”が使えそうな場所の捜索もさせているので、逃げる場所は格段に増えると予想される。


「あそこを抑えておこう」

『あそこー?』

「貴様が苦戦した、あの亀がいる湖だ。あそこであれば、そう簡単に侵入者は現れぬ」

『おー!』


 風精霊の助力と共に舞い上がり、目的の浮島まで急加速する。
 座標は一度行った際に把握しているので、どれだけ風的なものに流されていようと瞬時に行き先を理解できた。


「……ナース、俺も含めて魔力を遮断させることはできるか?」

『できるー!』

「そうか、頼む」

『うーん!』


 俺は魔道具に入れた光と闇精霊に光学迷彩的なことを頼み、浮島までの道を高速で駆け抜けていく。
 多少は大気に乱れが生じるだろうが、それでも迷彩がぶれなければ問題ない。


「“精霊眼”……ああ、何か居るな」

『なにかー?』

「少なくともあの亀ではない。別の者があの島へ侵入している」

『えー!』


 まったくだ、思わず叫びたくなる。
 浮島は他の場所にも配置されているが、どうしてよりにもよって俺たちの向かう浮島に誰かが居るのだろうか。

 すでに再配置された亀を排除したようなので、わざわざ出ていく理由も見当たらない。
 ……精霊の乱れでそれを調べたが、何者かまでは分からない。


「警戒はしておくぞ」

『おー!』


 相手が誰であれ、物理無効で魔法破壊が可能なナースが居ればどうとでもなる。
 というか、ここまで来れるプレイヤーなら飛行系の何かを持っている? 翼の生えた種族なら、ぜひ会ってみたいな。


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