945 / 2,518
偽善者と精霊踊る育成イベント 十四月目
偽善者と育成イベント中盤戦 その03
しおりを挟む「眷属との問題だから、縛りがほぼ確実に解除されないのが苦しいな。空間魔法が使えれば、すぐに脱出できるのに」
「ふふんっ、させないよ」
「なあ、オブリ。もしここで、俺を助けてくれたら……」
「た、助けてくれたら?」
ゴクリと生唾を飲むオブリ。
完全に甘味をご所望な様子だが、苦悩するオブリの頭にポンッと手が置かれる。
「騙されちゃダメよ、オブリ」
「ティンスお姉ちゃん」
「メルスのことよ、オブリが本当に食べたいと言えば条件なんて関係なく食べさせてくれるわ。なら、わざわざこのタイミングで従っちゃ駄目よ」
「分かった!」
クソッ、あっさりと真実を言いやがった。
そりゃそうさ、あげるに決まってんだろ!
可愛いオブリがおねだりするんなら──お父さん、特大山盛りパフェの一つや二つ、余裕で用意してやるよ(錯乱)!!
「……まあ、イイんだけどさ。どうせ準備はとっくにしていた」
「! オブリ、今すぐ精霊に」
「──遅い。“水鏡転陣”」
これまで体に取り付けていた杖、そこに嵌められていた水晶が輝き魔法を発動する。
暇な時間に水精霊を用意し、中に仕込んでおいたのだ……中に居たのでオブリの影響を受けず、正常に活動してくれた。
◆ □ ◆ □ ◆
「ふぅ、戻ってきたか」
俺が移動したのはナースと出会った森の中にある泉。
予めマーキングを施した場所へ、水があるなら移動できるのが“水鏡転陣”だ。
「ナース、居るか!」
『おー!』
「貴様の力を元の泉に合わせるため、ここに送ったが……しっかりとできたか?」
『うん!』
ちょうど今口頭で説明したように、ナースの力が俺の波長に特化しそうだったので、一度ここに戻して力を正常な形に戻していた。
そうしないと、精霊という形から変質してしまう可能性があったからだ。
故に、俺はこれまでナースと会話することなく過ごしていた。
結構前からそうなっていたんだが……その間は、演技もせずに居られたから少し楽にできていたよ。
「ついにこのときが訪れた」
『んー』
「貴様が輝かしい舞台へ降り立ち、あらゆる者を叩き潰すこのときが。虚空の力を操り、真の力を魅せるときが、だ」
『おー!』
イベントが始まるまでは、できるだけ休ませておきたかった。
あえて上級精霊で抑えていたので、溜まった経験値やら魔力やらがナースの中で渦巻いていたのだ。
この場所はヒーリングスポットとしても役立ち、ナースは万全な状態になっている。
今の間に進化を果たせるなら、それ以降は普通に精霊として存在できるだろう。
「だが……貴様はその形状のまま、魔力以外に干渉できず、知恵など存在せぬ。武力以外では何の役にも立たないではないか」
『なんだとー!』
「ふっ、では8×12は?」
『…………76?』
計算は一通り教えたんだが……いきなり掛け算にしたのが拙かったか?
まあ、知識も眷属全員分をダウンロードさせたわけじゃないのでそこまで賢くない。
──眷属の知識の中には、たまに禁忌や異端のものがあるからと止めておいたんだよ。
「96だ。まあ、気にする必要はない。貴様ができずとも、俺の配下には演算に特化した者がいる。俺が貴様を求めた理由は、計算をしてもらいたいという理由ではないのだ」
『がーん!』
「……言ったではないか、貴様以外にも俺の配下はたくさんいる。そしてその一人一人がキョウダイであると」
この場合のキョウダイには、『強大』とか『姉妹』という意味がある。
姉妹、と書いても兄弟として読めるのだ。
「そして、貴様は虚空の力を使い俺を補助する存在となる。扱いが他の者と同じになるかどうかは、活躍次第だな」
『お、おー』
「どうした、怖いか? まあ、俺は虚空に頼らずとも万能の力を有している。貴様がどのようにヘマを打とうと、それで困るような陳腐な技量の持ち主ではない」
『うーん……』
こうした場合、俺はなんと言えばいいのだろうか?
まだ進化してないので眷属にはしないし、精霊契約はすでに済ませている。
これ以上、やれることがないな。
「そうだな……もし、貴様が俺の想定以上の活躍を見せたのであれば──貴様の願い、俺の名の下に何でも一つ叶えてやろう」
『えー!?』
「俺にできるのであれば、だがな。星を一つくれだの、神になりたいだの……その程度であれば容易く可能だ」
『ふぉー! すごーい!』
ナースのことだ、そこまで小難しい願いを要求することは無いだろう。
魔力が欲しい、とか太陽が欲しいとかその程度か……太陽は現実で考えれば異常な願いではあるが、簡単に創造できるしな。
「ただし、俺の命にキチンと従え。俺は言うことを聞かぬ者に褒美を与えるほど、寛大ではないからな」
『おーーー!』
「期間はこれから行われるイベントの間。それまでに一度でも俺が驚けば……そうだな、花火でも上がるようにしてやろう」
『おーーー!!』
花火も見せてあったんだが、お気に召していたそうなんでな。
ナース用に面白可笑しくカスタマイズした花火を、高々に打ち上げてやろう。
「では行くぞ、ナース。貴様がそれを証明する舞台へ」
『うん!』
さて、実際のところ……どうなのかな?
駄目でも残念賞は用意しておこう。
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?
破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。
そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。
無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる
そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた…
表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと
イラストのurlになります
作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)
虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
俺と異世界とチャットアプリ
山田 武
ファンタジー
異世界召喚された主人公──朝政は与えられるチートとして異世界でのチャットアプリの使用許可を得た。
右も左も分からない異世界を、友人たち(異世界経験者)の助言を元に乗り越えていく。
頼れるモノはチートなスマホ(チャットアプリ限定)、そして友人から習った技術や知恵のみ。
レベルアップ不可、通常方法でのスキル習得・成長不可、異世界語翻訳スキル剥奪などなど……襲い掛かるはデメリットの数々(ほとんど無自覚)。
絶対不変な業を背負う少年が送る、それ故に異常な異世界ライフの始まりです。
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる