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偽善者と精霊踊る育成イベント 十四月目

偽善者と育成イベント中盤戦 その03

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「眷属との問題だから、縛りがほぼ確実に解除されないのが苦しいな。空間魔法が使えれば、すぐに脱出できるのに」

「ふふんっ、させないよ」

「なあ、オブリ。もしここで、俺を助けてくれたら……」

「た、助けてくれたら?」


 ゴクリと生唾を飲むオブリ。
 完全に甘味をご所望な様子だが、苦悩するオブリの頭にポンッと手が置かれる。


「騙されちゃダメよ、オブリ」

「ティンスお姉ちゃん」

「メルスのことよ、オブリが本当に食べたいと言えば条件なんて関係なく食べさせてくれるわ。なら、わざわざこのタイミングで従っちゃ駄目よ」

「分かった!」


 クソッ、あっさりと真実を言いやがった。
 そりゃそうさ、あげるに決まってんだろ!
 可愛いオブリがおねだりするんなら──お父さん、特大山盛りパフェの一つや二つ、余裕で用意してやるよ(錯乱)!!


「……まあ、イイんだけどさ。どうせ準備はとっくにしていた」

「! オブリ、今すぐ精霊に」

「──遅い。“水鏡転陣ミラーポーター”」

 これまで体に取り付けていた杖、そこに嵌められていた水晶が輝き魔法を発動する。
 暇な時間に水精霊を用意し、中に仕込んでおいたのだ……中に居たのでオブリの影響を受けず、正常に活動してくれた。


  ◆   □   ◆   □   ◆


「ふぅ、戻ってきたか」


 俺が移動したのはナースと出会った森の中にある泉。
 予めマーキングを施した場所へ、水があるなら移動できるのが“水鏡転陣”だ。


「ナース、居るか!」

『おー!』

「貴様の力を元の泉に合わせるため、ここに送ったが……しっかりとできたか?」

『うん!』


 ちょうど今口頭で説明したように、ナースの力が俺の波長に特化しそうだったので、一度ここに戻して力を正常な形に戻していた。
 そうしないと、精霊という形から変質してしまう可能性があったからだ。

 故に、俺はこれまでナースと会話することなく過ごしていた。
 結構前からそうなっていたんだが……その間は、演技もせずに居られたから少し楽にできていたよ。


「ついにこのときが訪れた」

『んー』

「貴様が輝かしい舞台へ降り立ち、あらゆる者を叩き潰すこのときが。虚空の力を操り、真の力を魅せるときが、だ」

『おー!』


 イベントが始まるまでは、できるだけ休ませておきたかった。
 あえて上級精霊で抑えていたので、溜まった経験値やら魔力やらがナースの中で渦巻いていたのだ。

 この場所はヒーリングスポットとしても役立ち、ナースは万全な状態になっている。
 今の間に進化を果たせるなら、それ以降は普通に精霊として存在できるだろう。


「だが……貴様はその形状のまま、魔力以外に干渉できず、知恵など存在せぬ。武力以外では何の役にも立たないではないか」

『なんだとー!』

「ふっ、では8×12は?」

『…………76ななじゅーろくー?』


 計算は一通り教えたんだが……いきなり掛け算にしたのが拙かったか?
 まあ、知識も眷属全員分をダウンロードさせたわけじゃないのでそこまで賢くない。

 ──眷属の知識の中には、たまに禁忌や異端のものがあるからと止めておいたんだよ。


「96だ。まあ、気にする必要はない。貴様ができずとも、俺の配下には演算に特化した者がいる。俺が貴様を求めた理由は、計算をしてもらいたいという理由ではないのだ」

『がーん!』

「……言ったではないか、貴様以外にも俺の配下はたくさんいる。そしてその一人一人がキョウダイであると」


 この場合のキョウダイには、『強大』とか『姉妹きょうだい』という意味がある。
 姉妹、と書いても兄弟として読めるのだ。


「そして、貴様は虚空の力を使い俺を補助する存在となる。扱いが他の者と同じになるかどうかは、活躍次第だな」

『お、おー』

「どうした、怖いか? まあ、俺は虚空に頼らずとも万能の力を有している。貴様がどのようにヘマを打とうと、それで困るような陳腐な技量の持ち主ではない」

『うーん……』


 こうした場合、俺はなんと言えばいいのだろうか?
 まだ進化してないので眷属にはしないし、精霊契約はすでに済ませている。
 これ以上、やれることがないな。


「そうだな……もし、貴様が俺の想定以上の活躍を見せたのであれば──貴様の願い、俺の名の下に何でも一つ叶えてやろう」

『えー!?』

「俺にできるのであれば、だがな。星を一つくれだの、神になりたいだの……その程度であれば容易く可能だ」

『ふぉー! すごーい!』


 ナースのことだ、そこまで小難しい願いを要求することは無いだろう。
 魔力が欲しい、とか太陽が欲しいとかその程度か……太陽は現実で考えれば異常な願いではあるが、簡単に創造できるしな。


「ただし、俺の命にキチンと従え。俺は言うことを聞かぬ者に褒美を与えるほど、寛大ではないからな」

『おーーー!』

「期間はこれから行われるイベントの間。それまでに一度でも俺が驚けば……そうだな、花火でも上がるようにしてやろう」

『おーーー!!』


 花火も見せてあったんだが、お気に召していたそうなんでな。
 ナース用に面白可笑しくカスタマイズした花火を、高々に打ち上げてやろう。


「では行くぞ、ナース。貴様がそれを証明する舞台へ」

『うん!』


 さて、実際のところ……どうなのかな?
 駄目でも残念賞は用意しておこう。


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