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偽善者と精霊踊る育成イベント 十四月目
偽善者と育成イベント中盤戦 その02
しおりを挟む分かってはいたがショッキングな出来事を経て、いつも以上にふらふらな状態で町を彷徨い歩いていく。
盗賊系の魔物にスリをさせようとする奴もいたのだが、俺の対窃盗策はバッチリなので特に問題は無し。
『クソがぁぁぁぁっ!』
どこかで憎悪に満ちた声が上がったとしても、そんなことは俺には関係ない。
……たとえそれが、突然衛兵の居る建物内に飛ばされたのが理由だとしても。
「ちゃんと『義賊』に転職した俺に、そういうことは関係ないのだ。ちゃんとやり返す練習ぐらい、してあるに決まってるだろう」
職業スキルを指輪から再現すれば、いちおうはやることも可能だ。
だが、実際のところ業システムに引っかかるのは間違いない……たとえ0で固定だとしても、気になってしまうんだよ。
「あーあ、いっそのこと纏めて全部捕縛でもしようかな?」
もちろん、心から漏れた本音ではあるが実際には何もする気がない。
俺はあくまで偽善者であり、困っている者たちを救うのが使命だ。
それなのに、解決が簡単なトラブルを先に潰す理由もないだろう。
「まあ、眷属を相手にやろうとする奴が居るなら先に潰すけど」
「──相変わらず、本当の眷属にはお優しい様子ね」
「いやいや、この世界の眷属と言ってくれ。それに、俺はちゃんとお前たちみたいに巻き込んだ眷属の責任も取ろうとはしているんだぞ……直接会うのは久しぶりだな」
夜のような黒い髪、血のように輝く真っ赤な瞳──口を開けた際にチラリと見える、鋭い犬歯が特徴の少女。
プレイヤーとしてさまざまな経験でも積んだのか、力を渇望していた当時よりもスッキリとした相貌で俺を見ている。
「ティンス、それにオブリもな」
「久しぶりー、お兄ちゃん!」
「あー、よしよし。悪いな、あんまり地球側の眷属には俺から関わることがないようにしていたんだよ。連絡すればちゃんと行くし、なんでも力を貸すぞ」
背中から透明な蝶の翅のようなモノが生えた、とても小柄な少女。
綺麗な金色の髪は短く纏められているが、華奢な体躯と無邪気な笑顔が活発な少女というイメージを強く印象に残らせる。
「……そうなの?」
「イアがそんな感じだぞ。人のことをなんでも作れる生産職とでも思ってるのか?」
「いや、そこは否定できないわよ」
「お兄ちゃんは凄いからね」
天性のパシリとでも思われているのか? いやまあ、否定はしないけど。
アイテムを創りだすのも、彼女の要求程度であれば簡単にできるし……ほんの少しの疲労で満足できるのであれば、俺も全力でお手伝いをするってもんさ。
「けど、イアがね。そんな素振り、まったく見せなかったけど」
「そうだな……本みたいなアイテムを途中から持ち込むようにならなかったか?」
「えっ? 少なくとも、私は見たことがないけど──オブリはどう?」
「うんっ! イアお姉ちゃん、本を大切にしていたよ!」
ああ、良かった安心した。
自分の創ったアイテムが雑に扱われるというのも、ひどく残念な気分になるんだ。
あのアルカでさえ、渡した本と成長させた杖を大切にしているので、表層で思うほど心配はしていなかったんだが……そうか。
「と、路上で長話ってのも周りに迷惑か。二人共、いっしょに散歩でもするか?」
「そうね、お願いしようかしら」
「うん、いいよ!」
「なら、自前のスキルで飛んでくれ。できるなら隠蔽も……縛りプレーの最中だから、あまり大規模なことはできないんだ」
『ふーん』
なんだろう、二人の目が何かを企むようにキラリンと光った気がする。
実際は何もしないだろうし、悪意があれば気づくだろうから……気のせいか。
「それじゃあ、上に行くぞ」
風精霊の助力でふわりと浮き、展開してもらった空気の壁を踏んで空へ駆け上がる。
ティンスとオブリは自前の翼があるので、それをはためかせて天へ向かう。
「……まあ、準備はしておくか」
何もされないとは思うが、それはあくまで彼女たちだけを見た推測だ。
もし、この場にアイツが呼びだされたらと考えると──準備が必要だ。
天上の散歩というのも新鮮な気分だ。
眼下に見えるのは絶景の自然ではなく、ありふれた町並み……だからこそ、そこに風情というモノを感じる。
そんな場所を歳の離れた少女二人を連れて歩く俺……現実だったら、間違いなく脅されているなと自分を疑うよ。
「──と、いうことがあって俺は精霊を育成して参加することにした。お前たちは、どうやって参加するんだ?」
「私たちは……そうね、二人で参加よ」
「みんなギルドがあるし、ペルお姉ちゃんは独りでやってみたいって」
「あとはイアがもともと使役職だからって理由で単独行動よ」
イアは分かっていたが、ペルソナもその選択をしたのか……。
普段の行動を知らないから理由は分からないが、単独行動もたまには落ち着くよな。
「さて、そろそろ二人に訊きたいことがあるわけだが──構築している魔法を、お前たちはどうするつもりだ?」
「……分かってて準備させたのね。本当に、メルスはひどい人ね」
「お兄ちゃん、ひどーい」
「そこまで悪いことをした気はないぞ。俺はただ、理由を訊きたかっただけで──拘束されると嫌だったから止めたんだよ」
バレたからには仕方ない、と言わんばかりに拘束系の魔法が発動する。
すでに精霊しか使えないことを言っているので、頼れる精霊もその大半がオブリの統率下に入っていた。
……うーん、理由が知りたい。
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