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偽善者と精霊踊る育成イベント 十四月目

偽善者と育成イベント序盤戦 その18

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「ただこれ、術式も何も雑すぎる……才能がある奴が自分用にしかできないような魔法を創造したってことか」

『けいやくしゃー?』

「──貴様、今の魔法は?」

『おひさまー!』


 子供のような無邪気なボイス(イメージ)が伝わってくるが……やってることがだいぶえげつなかった。
 コンマ一秒単位での継続ダメージ、反射系の能力が発動するダメージ判定が起きる前に壁を突破するまさに光速の攻撃。


「貴様、アレを他の生き物に向けたらどうなるか分かっているのか?」

『うーん、わかんなーい』

「……そうか」


 今の俺には再現不可能な魔法なので、眷属に伝えて解析してもらわないと。
 まだ、この段階では繋げられないので頼むことはできないが、帰ったらちゃんと魔法として形式化しておこう。


「亀の回収も終わった。ナース、貴様の経験値はどうなっているかを認識しているか?」

『たくさんー?』

「あの亀、想像以上に溜め込んでいたようだな。貴様はあと少しで、通常の進化が可能となる経験量となる。もう少し狩っていけば、到達するだろう」

『おー!!』


 反射能力に驕って、日光浴をのんびりしているような魔物だったからな。
 再出現リポップするか分からないが、次に出る個体はちゃんと注意深く動いてほしい。



 空を仰げば、すでに日は真上まで昇り詰めていた……時間の感覚を忘れるほど、俺たちは熱くなっていたのか。


「狩りはこれで終わりだ。貴様が頂に届くのは、武闘会のときにしておこう」

『?』

「俺と同じプレイヤーたちが、それぞれ育成した魔物を連れてきている。これまではいろいろと無視して闘いだけをやってきたが、そろそろ別のことをしなければならない」

『べつのことー?』


 そりゃそうだ……イベントでただ延々とバトルだけやらされても、満足するのは戦闘系の楽しみを持っている者だけ。
 他のこと──生産やその他もろもろを楽しみにしている奴をないがしろには、運営もさすがにしないだろう。


「貴様のような精霊でも装備できるアイテムや、他にもスキルや面白いモノがどこかに散らばっているだろう」

『おもしろいー?』

「イベントが始まるまで、そういったものを集める時間として探索を行う。遊びをしようか、ナース」

『おー!』


 まあ、その前に鑑定でもするか──

---------------------------------------------------------
ステータス
名前:ナース (女)
種族:上級無精霊Lv92
職業:なし
---------------------------------------------------------

 超簡易的なステータスだが、レベルの異常さが分かってもらえただろうか。
 まだ数日しか経ってないのに、合計レベルで言えば──172(30+50+92)分も上げているのだから。

 いくら俺の導きや補正があって成長が早いと言っても、ここまで早く成長するのはなかなかに異常なことだ。

 弱い存在ほど早く強くなり、生き延びようとするのがこの世界の弱者の理。
 ナースはもともと、すぐに消えてしまいそうな下級の無属性精霊。

 世界からしてみれば、とても非力なスライム以下の存在として見られたのだろう。
 システムの加護的な力も働き、外部の経験値とも呼べる魂魄の残滓をより多く吸収して強くなろうとしていた。


「だからこそ、死に物狂いでここまで俺についてきたわけだ……ナース、頑張ったな」

『?』

「いや、なんでもない」


 加えて強力なスキルを保持し、さらに俺の加護が付いて状態異常は効かない……もともと精霊だからほとんどの状態異常に侵されることはなかったが、少しは影響を及ぼす魔力系の状態異常もなりづらくなっている。

 なんだか強くなりすぎた、というか目的とする場所を誤ったというか……成長というより『精超』してしまった感があるな。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 町


 とは言っても、これまでの戦闘中に見つけた物以外の情報を俺は知らない。
 キーアイテムを重要な物だと知らずに手に入れられるのは、あくまで主人公だけだ。


「……知り合いが全然見つからないこと、忘れてたな」

『けいやくしゃー?』

「ああ、少し落ち込んでいるだけだ。俺は、孤独なんだなと」

『ナース、いるよー?』


 荒んだ心が癒えていく。
 眷属であればより光速で治るのだろうが、契約精霊のやってくれたことだと考えれば、かなり頑張ってくれていると思う。


(でも実際、ナースは俺のことをどう思っているんだ?)


 契約者と呼んでくれているから、そこら辺は理解しているんだろうが……それ以外、より内面に関してはどうなってるんだろう。
 触れてはいけない部分でもあり、触れなければ気になってしょうがない場所だ。


「な、なあ、ナース」

『んー?』

「き、貴様は俺のことを……その、どう思っているのだ?」

『んーとねー』


 とりあえず、悩んでくれていることにホッとする俺が居る。
 ここできっぱり『ただのけいやくしゃー』とか言われたら間違いなく心が折れていた。


『んー……わかったー!』

「教えてくれ、ナース」


 少し溜めるナースを急かす俺。
 これが人同士の会話だったら、いったいどういう風に観られたのかな?

 そんな小さな疑問が吹き飛ぶ回答を、ナースはしてきた。


『けいやくしゃはー、けいやくしゃー!』


 ──少しだけ予想していた、心が折れてしまう回答で。


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