上 下
939 / 2,519
偽善者と精霊踊る育成イベント 十四月目

偽善者と育成イベント序盤戦 その15

しおりを挟む


 浮遊島。
 ファンタジーでもよく存在する、謎の原理で空を漂う島を総称したものである。
 大きさや環境もそれぞれ不定で、ただ一つ言えること──それは、必ずと言っていいほどにレアなモノが存在していることだ。

 そんな場所に足を踏み入れた俺たち。
 高度が高いので、少々肌寒い気がする。


「ふむ、まあまあな大きさの島だな」

『おー!』

「ナース、だが冒険はせぬぞ」

『えー!』


 気分が切り替わる程に、この島への興味があるようだが……それにはちゃんとしたわけがあるんだよ。
 ふと、空を仰ぎながら理由を答える。


「──もう、夜だからな。普通の者は、この時間は活動をせずに英気を養う。俺はもう寝たい、ナースも一度休め」

『ぶー……』


 高度が地上よりも高いこの浮遊島は、雲よりも上の位置に存在している。
 そのため星々が俺たちの頭上で輝き、暗い夜空を照らしていた。


「そう言うな。精霊に睡眠が必要ないことも理解しているが、魔力の回復のためだとでも思っておけ」

『けいやくしゃー』

「……仕方ない。これを使ってやるから、大人しくしていろ──“精霊揺籃エレメンタルクレードル”」


 地脈に存在する源泉や夢現空間にある属性の間、その他精霊を補助する魔法などを解析して構築したオリジナル精霊魔法。
 ナースを囲むようにして発動したそれは、繭を生みだしナースを包んでいく。


『ふぉ、ふぉー!』

「あらゆる属性の精霊が好む、地脈のエネルギーを再現している。どうだ、大人しくしているか?」

『おー!!』


 うん、力強い返事を頂いた。
 地脈とかがある場所ならともかく、地表から離れた場所だと燃費が悪いんだよ。
 拠点を定めて休むからいいんだが、動いている時は使えない魔法だ。


「さて、俺の拠点をそろそろ作成するとしようか──“住居作成クリエイト・ホーム”」


 精霊たちの助力を得て作った魔道具の中でも、特に複数の属性精霊が必要となったのがこの魔法を使うための魔道具だ。
 地面が発動に呼応して隆起すると、一軒家のような形になる。


「よし、完璧だ」


 しっかりと取り付けられたドアを開けば、そこには日本人らしくイグサで編まれた畳が部屋いっぱいに広がっている。
 これは木精霊の力も借り、魔道具にセットしておいたイグサの種を促進してもらうだけでできるんだがな。


「ナース……は、反応できないか」

『んにゃー、むにゃー』

「まあ、そのまま運べばいいか」


 移動には向いていない魔法ではあるが、時間をかければちゃんと動かせる。
 魔法を維持した状態で繭を動かし、どうにか生みだした家の中へ運び込む……うん、最初からここで作ればよかったな。


「そろそろ寝るか……おやすみ、ナース」

『おやすみ~?』

「ああ、起きていたのか。おやすみというのは、寝る前に交わす言葉だ。ちなみに、朝起きればおはようだぞ」

『わかったー、おやすみーけいやくしゃー』


 注意深く魔力の反応を調べていれば、ナースの反応が弱まり睡眠のような状態に入ったことが分かる。
 俺も(睡眠不要)スキルを起動したまま、意識をシャットダウンした。


「おやすみ、ナース」


  ◆   □   ◆   □   ◆


『……よ~』


 そういえば、ガラスでもなんでもいいから穴を空けておけばよかったな。
 どうせ暗視があるから大丈夫だと思って、なんにも用意してなかった。


『……よ~!』

「ん、んぅ……」


 優しい声が、俺の耳をくすぐる。
 落としていた意識が少しずつ覚醒し、開いた瞼が事象を把握しだす。


(こういう展開って、普通進化して人化したナースが起こしてくれるはずだよな)

『おはよ~!!』

「ああ、おはようナース」

『むふー』


 相も変わらず球体が俺の傍ではしゃぐ姿を見ながら、ゆっくりと起き上がる。
 そして、ナースと共に扉を抜けて島の端まで向かう。


『ふわ~!』

「ああ、綺麗だな」

『きれー!』


 雲間からゆっくりと見えてきたのは、世界に朝を告げる太陽。
 遮るものが無い空の世界へ、凄まじい熱量と共にそれは出現する。


「どうだ、ナース──これが日の出だ」

『ひのでー?』

「太陽、つまり日が出るから日の出と呼ぶのだ。ひどく単純ではあるが、それゆえにしっくりとくるであろう」

『ひのでー!』


 朝焼けは暗い世界に光をもたらし、紅黄色に空の色を染め上げていく。
 ついに光は島に当たるまで昇り、陽光が目にチラつき始める。

 俺たちはただ、それをジッと見ていた。
 ナースにとって新鮮な風景、その視界に映る世界をいったいどう捉えるのか。
 そんなことを考えながらも、精霊に頼んで索敵を始める。


(やっぱり、初日から早めに来ておいて正解だったな。まだまだ隠しているギミックがあるし、それを邪魔するプレイヤーもいない)


 空を飛べるプレイヤーであれば、準備が終わり次第すぐにこういう場所に来るだろう。
 他にも海限定の場所や地底限定の場所、そういった場所の存在を臭わせるフラグ。
 創作物では定番ではないか。


『けいやくしゃー』

「どうした、ナース」

『ナースねー、きめたー』

「……何をだ?」


 天才的な思考を得るスキルが無い今、いったいナースが何を告げるのかが分からない。
 だが、きっと悪い話ではないだろう。


『あのねあのねー』


 楽しそうな声で、ナースは告げる──


『ナース、このままでいるー!』


しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

World of Fantasia

神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。 世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。 圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。 そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。 現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。 2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。 世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

死んだのに異世界に転生しました!

drop
ファンタジー
友人が車に引かれそうになったところを助けて引かれ死んでしまった夜乃 凪(よるの なぎ)。死ぬはずの夜乃は神様により別の世界に転生することになった。 この物語は異世界テンプレ要素が多いです。 主人公最強&チートですね 主人公のキャラ崩壊具合はそうゆうものだと思ってください! 初めて書くので 読みづらい部分や誤字が沢山あると思います。 それでもいいという方はどうぞ! (本編は完結しました)

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

処理中です...