上 下
939 / 2,518
偽善者と精霊踊る育成イベント 十四月目

偽善者と育成イベント序盤戦 その15

しおりを挟む


 浮遊島。
 ファンタジーでもよく存在する、謎の原理で空を漂う島を総称したものである。
 大きさや環境もそれぞれ不定で、ただ一つ言えること──それは、必ずと言っていいほどにレアなモノが存在していることだ。

 そんな場所に足を踏み入れた俺たち。
 高度が高いので、少々肌寒い気がする。


「ふむ、まあまあな大きさの島だな」

『おー!』

「ナース、だが冒険はせぬぞ」

『えー!』


 気分が切り替わる程に、この島への興味があるようだが……それにはちゃんとしたわけがあるんだよ。
 ふと、空を仰ぎながら理由を答える。


「──もう、夜だからな。普通の者は、この時間は活動をせずに英気を養う。俺はもう寝たい、ナースも一度休め」

『ぶー……』


 高度が地上よりも高いこの浮遊島は、雲よりも上の位置に存在している。
 そのため星々が俺たちの頭上で輝き、暗い夜空を照らしていた。


「そう言うな。精霊に睡眠が必要ないことも理解しているが、魔力の回復のためだとでも思っておけ」

『けいやくしゃー』

「……仕方ない。これを使ってやるから、大人しくしていろ──“精霊揺籃エレメンタルクレードル”」


 地脈に存在する源泉や夢現空間にある属性の間、その他精霊を補助する魔法などを解析して構築したオリジナル精霊魔法。
 ナースを囲むようにして発動したそれは、繭を生みだしナースを包んでいく。


『ふぉ、ふぉー!』

「あらゆる属性の精霊が好む、地脈のエネルギーを再現している。どうだ、大人しくしているか?」

『おー!!』


 うん、力強い返事を頂いた。
 地脈とかがある場所ならともかく、地表から離れた場所だと燃費が悪いんだよ。
 拠点を定めて休むからいいんだが、動いている時は使えない魔法だ。


「さて、俺の拠点をそろそろ作成するとしようか──“住居作成クリエイト・ホーム”」


 精霊たちの助力を得て作った魔道具の中でも、特に複数の属性精霊が必要となったのがこの魔法を使うための魔道具だ。
 地面が発動に呼応して隆起すると、一軒家のような形になる。


「よし、完璧だ」


 しっかりと取り付けられたドアを開けば、そこには日本人らしくイグサで編まれた畳が部屋いっぱいに広がっている。
 これは木精霊の力も借り、魔道具にセットしておいたイグサの種を促進してもらうだけでできるんだがな。


「ナース……は、反応できないか」

『んにゃー、むにゃー』

「まあ、そのまま運べばいいか」


 移動には向いていない魔法ではあるが、時間をかければちゃんと動かせる。
 魔法を維持した状態で繭を動かし、どうにか生みだした家の中へ運び込む……うん、最初からここで作ればよかったな。


「そろそろ寝るか……おやすみ、ナース」

『おやすみ~?』

「ああ、起きていたのか。おやすみというのは、寝る前に交わす言葉だ。ちなみに、朝起きればおはようだぞ」

『わかったー、おやすみーけいやくしゃー』


 注意深く魔力の反応を調べていれば、ナースの反応が弱まり睡眠のような状態に入ったことが分かる。
 俺も(睡眠不要)スキルを起動したまま、意識をシャットダウンした。


「おやすみ、ナース」


  ◆   □   ◆   □   ◆


『……よ~』


 そういえば、ガラスでもなんでもいいから穴を空けておけばよかったな。
 どうせ暗視があるから大丈夫だと思って、なんにも用意してなかった。


『……よ~!』

「ん、んぅ……」


 優しい声が、俺の耳をくすぐる。
 落としていた意識が少しずつ覚醒し、開いた瞼が事象を把握しだす。


(こういう展開って、普通進化して人化したナースが起こしてくれるはずだよな)

『おはよ~!!』

「ああ、おはようナース」

『むふー』


 相も変わらず球体が俺の傍ではしゃぐ姿を見ながら、ゆっくりと起き上がる。
 そして、ナースと共に扉を抜けて島の端まで向かう。


『ふわ~!』

「ああ、綺麗だな」

『きれー!』


 雲間からゆっくりと見えてきたのは、世界に朝を告げる太陽。
 遮るものが無い空の世界へ、凄まじい熱量と共にそれは出現する。


「どうだ、ナース──これが日の出だ」

『ひのでー?』

「太陽、つまり日が出るから日の出と呼ぶのだ。ひどく単純ではあるが、それゆえにしっくりとくるであろう」

『ひのでー!』


 朝焼けは暗い世界に光をもたらし、紅黄色に空の色を染め上げていく。
 ついに光は島に当たるまで昇り、陽光が目にチラつき始める。

 俺たちはただ、それをジッと見ていた。
 ナースにとって新鮮な風景、その視界に映る世界をいったいどう捉えるのか。
 そんなことを考えながらも、精霊に頼んで索敵を始める。


(やっぱり、初日から早めに来ておいて正解だったな。まだまだ隠しているギミックがあるし、それを邪魔するプレイヤーもいない)


 空を飛べるプレイヤーであれば、準備が終わり次第すぐにこういう場所に来るだろう。
 他にも海限定の場所や地底限定の場所、そういった場所の存在を臭わせるフラグ。
 創作物では定番ではないか。


『けいやくしゃー』

「どうした、ナース」

『ナースねー、きめたー』

「……何をだ?」


 天才的な思考を得るスキルが無い今、いったいナースが何を告げるのかが分からない。
 だが、きっと悪い話ではないだろう。


『あのねあのねー』


 楽しそうな声で、ナースは告げる──


『ナース、このままでいるー!』


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?

破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。 そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。 無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた… 表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと イラストのurlになります 作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)

虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

俺と異世界とチャットアプリ

山田 武
ファンタジー
異世界召喚された主人公──朝政は与えられるチートとして異世界でのチャットアプリの使用許可を得た。 右も左も分からない異世界を、友人たち(異世界経験者)の助言を元に乗り越えていく。 頼れるモノはチートなスマホ(チャットアプリ限定)、そして友人から習った技術や知恵のみ。 レベルアップ不可、通常方法でのスキル習得・成長不可、異世界語翻訳スキル剥奪などなど……襲い掛かるはデメリットの数々(ほとんど無自覚)。 絶対不変な業を背負う少年が送る、それ故に異常な異世界ライフの始まりです。

モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件

こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。 だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。 好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。 これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。 ※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

処理中です...