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偽善者と精霊踊る育成イベント 十四月目
偽善者と育成イベント序盤戦 その15
しおりを挟む浮遊島。
ファンタジーでもよく存在する、謎の原理で空を漂う島を総称したものである。
大きさや環境もそれぞれ不定で、ただ一つ言えること──それは、必ずと言っていいほどにレアなモノが存在していることだ。
そんな場所に足を踏み入れた俺たち。
高度が高いので、少々肌寒い気がする。
「ふむ、まあまあな大きさの島だな」
『おー!』
「ナース、だが冒険はせぬぞ」
『えー!』
気分が切り替わる程に、この島への興味があるようだが……それにはちゃんとしたわけがあるんだよ。
ふと、空を仰ぎながら理由を答える。
「──もう、夜だからな。普通の者は、この時間は活動をせずに英気を養う。俺はもう寝たい、ナースも一度休め」
『ぶー……』
高度が地上よりも高いこの浮遊島は、雲よりも上の位置に存在している。
そのため星々が俺たちの頭上で輝き、暗い夜空を照らしていた。
「そう言うな。精霊に睡眠が必要ないことも理解しているが、魔力の回復のためだとでも思っておけ」
『けいやくしゃー』
「……仕方ない。これを使ってやるから、大人しくしていろ──“精霊揺籃”」
地脈に存在する源泉や夢現空間にある属性の間、その他精霊を補助する魔法などを解析して構築したオリジナル精霊魔法。
ナースを囲むようにして発動したそれは、繭を生みだしナースを包んでいく。
『ふぉ、ふぉー!』
「あらゆる属性の精霊が好む、地脈のエネルギーを再現している。どうだ、大人しくしているか?」
『おー!!』
うん、力強い返事を頂いた。
地脈とかがある場所ならともかく、地表から離れた場所だと燃費が悪いんだよ。
拠点を定めて休むからいいんだが、動いている時は使えない魔法だ。
「さて、俺の拠点をそろそろ作成するとしようか──“住居作成”」
精霊たちの助力を得て作った魔道具の中でも、特に複数の属性精霊が必要となったのがこの魔法を使うための魔道具だ。
地面が発動に呼応して隆起すると、一軒家のような形になる。
「よし、完璧だ」
しっかりと取り付けられたドアを開けば、そこには日本人らしくイグサで編まれた畳が部屋いっぱいに広がっている。
これは木精霊の力も借り、魔道具にセットしておいたイグサの種を促進してもらうだけでできるんだがな。
「ナース……は、反応できないか」
『んにゃー、むにゃー』
「まあ、そのまま運べばいいか」
移動には向いていない魔法ではあるが、時間をかければちゃんと動かせる。
魔法を維持した状態で繭を動かし、どうにか生みだした家の中へ運び込む……うん、最初からここで作ればよかったな。
「そろそろ寝るか……おやすみ、ナース」
『おやすみ~?』
「ああ、起きていたのか。おやすみというのは、寝る前に交わす言葉だ。ちなみに、朝起きればおはようだぞ」
『わかったー、おやすみーけいやくしゃー』
注意深く魔力の反応を調べていれば、ナースの反応が弱まり睡眠のような状態に入ったことが分かる。
俺も(睡眠不要)スキルを起動したまま、意識をシャットダウンした。
「おやすみ、ナース」
◆ □ ◆ □ ◆
『……よ~』
そういえば、ガラスでもなんでもいいから穴を空けておけばよかったな。
どうせ暗視があるから大丈夫だと思って、なんにも用意してなかった。
『……よ~!』
「ん、んぅ……」
優しい声が、俺の耳をくすぐる。
落としていた意識が少しずつ覚醒し、開いた瞼が事象を把握しだす。
(こういう展開って、普通進化して人化したナースが起こしてくれるはずだよな)
『おはよ~!!』
「ああ、おはようナース」
『むふー』
相も変わらず球体が俺の傍ではしゃぐ姿を見ながら、ゆっくりと起き上がる。
そして、ナースと共に扉を抜けて島の端まで向かう。
『ふわ~!』
「ああ、綺麗だな」
『きれー!』
雲間からゆっくりと見えてきたのは、世界に朝を告げる太陽。
遮るものが無い空の世界へ、凄まじい熱量と共にそれは出現する。
「どうだ、ナース──これが日の出だ」
『ひのでー?』
「太陽、つまり日が出るから日の出と呼ぶのだ。ひどく単純ではあるが、それゆえにしっくりとくるであろう」
『ひのでー!』
朝焼けは暗い世界に光を齎し、紅黄色に空の色を染め上げていく。
ついに光は島に当たるまで昇り、陽光が目にチラつき始める。
俺たちはただ、それをジッと見ていた。
ナースにとって新鮮な風景、その視界に映る世界をいったいどう捉えるのか。
そんなことを考えながらも、精霊に頼んで索敵を始める。
(やっぱり、初日から早めに来ておいて正解だったな。まだまだ隠しているギミックがあるし、それを邪魔するプレイヤーもいない)
空を飛べるプレイヤーであれば、準備が終わり次第すぐにこういう場所に来るだろう。
他にも海限定の場所や地底限定の場所、そういった場所の存在を臭わせるフラグ。
創作物では定番ではないか。
『けいやくしゃー』
「どうした、ナース」
『ナースねー、きめたー』
「……何をだ?」
天才的な思考を得るスキルが無い今、いったいナースが何を告げるのかが分からない。
だが、きっと悪い話ではないだろう。
『あのねあのねー』
楽しそうな声で、ナースは告げる──
『ナース、このままでいるー!』
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