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偽善者と精霊踊る育成イベント 十四月目

偽善者と育成イベント序盤戦 その08

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 自分の契約者は理不尽……ただ、漠然と考えていたナース。
 しかし目の前の光景は、それだけでは説明がつかないものだった。

(…………)

 言葉にするのも烏滸がましい、そう思えるほどに世界を塗り替えるその魔法。
 すべてを無にする虚空の力、神ですら手を出すことができない禁忌の領域。

 その一端を拝んだナースは、とある道へと自発的に導かれていく。

(……いつかー、きっとー)

  □   ◆   □   ◆   □


『けいやくしゃー、ナースもつかうー!』

「……それは、己の意思か?」

『?』

「いや、構わぬ。それよりもナース、道は果てしなく厳しいものだ。それでもなお、頂きに向かおうとするか」


 自分で焚きつけておいて何を言っているんだ、ともツッコミたいが我慢しなければ。
 そもそも、精霊が神代の属性を得る例などいっさい存在しない。

 もっともそういった情報が集まっているだろうリュシルの蔵書を見せてもらったが、やはり精霊は基本属性とそこから派生したいくつかの属性になるのが限界、という知識しか得ることができなかった。

 聖霊であるユラルに確認してみたが、精霊の場合でも属性に制限は無いとのことだ。
 もちろん、制限が無いということとそれが実現可能だということは別問題だが。


『うん、やるー!』

「……ならば、その選択を祝福しよう。虚空の力は、これから貴様の物となろう。使いこなせ、それが俺からの命令だ」

『わかったー!』


 自発的に選んだ、ということが重要だ。
 この先に何があろうと、その記憶があればナーラが折れることはないだろう。
 ……どんな目的があるのかを探る気はないが、どうして目指したかは気になるな。


「貴様に直接、虚空の力を注ぎ込む。本来であれば、得ることのできない属性だ。進化による変化に間に合うよう、少しずつではあるが強引に流す。危険だと感じたら、すぐに俺の方へ戻すのだぞ」

『う、うんー……』


 心配そうなナーラ、実際危険なのだからそう感じるのも仕方がない。
 自分の目的のため、【傲慢】にもナーラを巻き込もうとしているのだから、俺はなんとも罪深いんだろうな。

 せめてもの施しとして、失敗はしても死ぬことはないように尽力しよう。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 このあと、苦痛に耐えながらも必死に虚空の力を宿そうとするナーラのシーンに入るのは、創作物であれば王道であろう。
 だが、『現実は小説よりも奇なり』という言葉が示すように、ありえないと思えることほど現実で起きる。


『できたー!』

「……マジ、かよ」

『まじー?』

「ゴホンッ! そ、そうか……もうその身に宿したのか。では、それを見せてくれ」


 思わず遮音する前に素を出してしまうぐらい、俺も驚いてしまった。
 虚空属性を使いこなすために、俺はどれだけの時間を費やしたのか……思いだしただけで、少し涙が出てきそうだ。

 だというのに、言われた途端に集中を始めたナーラから、たしかに僅かではあるが虚空属性の反応が現れ始める。
 集中せねば生成できないことや、その量がごく僅かなことを除けば立派な進歩だ。


『どうー?』

「あ、ああ……よくやったな、ナーラ」

『でへへ~』

「ああ、本当によくやった。属性を扱うことができれば、貴様の進化先にも虚空属性が追加されるだろう」


 通常の進化の場合、これが最低条件として設けられている。
 いや、だって火精霊が水精霊になろうと思おうと、できる道理がないじゃないか。

 だがナーラは短時間で、虚空精霊になるだけの資格を得た。
 下級精霊としての意思を宿すことなく、スポンジのように俺の技術すべてを掻っ攫っていった結果かもな。


「うむ。虚空属性はここではないどこか、精霊界とも異なる次元の先に有る世界と接続することで力を手に入れる。自身で生みだす分には貴様のように制御ができるが、真骨頂を発揮するのであれば……まだ、足りぬ」

『えー!?』

「第一段階として、馴染ませるまでは済ませた。あとはそれを実践に使える状態まで昇華させることだ」

『……はーい』


 さて、ここまで模擬戦と観戦だけで経験を積ませてきたわけだが……生の体験がモノを言うとも教わったな。
 眷属にも、俺は過保護がすぎるとか意味の分からない発言をされるほどだし──ここはいっちょ、ギリギリを攻めてみよう。


「では行くぞ、すでに標的は決めてある」

『どこー?』

「ふっ、決まっているだろう」


 空間属性の精霊……は居なかったので、物凄くお世話になっている風属性たちに助力を願って移動を始める。


「──生物最強、ドラゴンの討伐だ」

『ドラゴンー?』

「……そうか、貴様はドラゴンを知らぬのであったな。本来であれば、精霊を食べてしまうほどに強大な生命体だ」

『けいやくしゃー!』


 下級精霊だけだから、中級精霊のお前は大丈夫……といった話をする前に、ナースが俺に向けて怒りの感情を向ける。


『ナース、たべられるー! いやー!』

「…………ならば勝て。俺は援護も補助もせぬ。ナーラ、貴様一人でドラゴンを一匹仕留めるのだ。虚空の力を真の意味で操ることができるのであれば、それぐらい容易い」

『お、おー』


 危機感を煽っておいた方が、なんだか力が目覚めそうだな。
 導かれているのであれば、主人公とまではいかなくとも主要人物と同等程度の成長速度なら見込める。

 ──最弱から竜殺し、まさに王道ファンタジーの展開だな。


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