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偽善者と精霊踊る育成イベント 十四月目
偽善者と育成イベント序盤戦 その07
しおりを挟む自分の契約者は理不尽だった。
レベルを上げ、自分の意思というものを強く持つことでそう認識したナース。
その契約者の命を受け、今はさまざまなモノを学ぶために空を漂う。
(うーん、なにをみればーいいのかなー?)
森を出て、世界の広さに驚いたものの、上空からの景色もすでに慣れてしまった。
かと言って、自身の契約者が告げた命はとてもつまらないもので──
(みんな、あんまりうまくないなー。でもでもー、これがふつうなのかなー?)
上手ではない──使役された魔物たちの戦闘や魔力操作を観て、ナースはそう考えた。
下手、と評していないのは、自分の常識と認識できる現象を照らし合わせた際、あることに気づいたわけで──
(けいやくしゃがすごすぎるー? うーん、ぜんぜんうまくとおってないもーん)
メルスの魔力操作能力は、超が付くほど一流の者たちによって築き上げられた代物。
どれだけ時間を費やしているかは個人個人異なるだろうが、プレイヤーだけで見れば、少なくとも彼以上にこの世界にログインしている者はいない。
その膨大な時間を用いて研鑽された技術こそ、ナースが仕込まれたもの。
天才や秀才であればすぐに到達するであろう高みを、時間というアドバンテージを費やすことで極めた、凡人の努力の証だった。
(けどー……にてるのもーいるのかなー?)
ナースが認識する先には、長杖を握り締めて詠唱を行うプレイヤーの姿がある。
緻密な術式を体内で制御し、口頭で使いたい魔法の構造式を唱えることでその者は凄まじい威力の魔法を発動していた。
辺り一帯を吹き飛ばす、衝撃波が地上を覆い尽くしていく。
突然のことに対応できなかったプレイヤーたちは、その波動に呑み込まれていった。
(けいやくしゃならー、すぐにできることだけどー。だんかいをふめばー、だれにでもできることなんだー)
PKが起こした惨状を観ながら、ナーラはまた一つ──常識から外れていく。
自分の契約者の理不尽さは理解してる……だが、その理不尽から技術を学んだ精霊もまた、普通の精霊からは外れていた。
(あーっ、いっちゃったー。けいやくしゃのもとにもどろーっと)
エリアを殲滅したPKがいなくなってしまい、観るべきものがなくなったナース。
思ったことを報告するため、いったん契約者の元へ戻るのだった。
□ ◆ □ ◆ □
『すごかったよー。びゅびゅんってなったらどーんってなってー……』
「…………そうか」
精霊もまた、世界から愛された種族。
生まれつき魔力の保有量が高く、人族が扱えないレベルの魔法を使うことができる。
そんな精霊だからこそ、ナースはあの爆発で何かを学んだのだろう……凡人である俺には、ただのPK行為にしか見えなかったが。
『それでねー、それでねー……』
「…………そうか」
『むー、ちゃんときいてー!』
「ああ、分かっている」
何を分かっているのか? そんなもん、俺が俺に訊きたいわ!
話せるようになったばかりの子供が、そこまで流暢に話せる方が不自然だった。
ナースの感性は……なんというか子供っぽさが伝わってくるモノなので、感想もまだそういった感覚を伝えてくるモノである。
要することもできず、延々と語られる現象について苦悩していると──
「ナース、準備をしろ」
『ほえー、なんでー?』
「そろそろ貴様に魅せるべきものを見せようと思ってな。だから、俺の後ろに居ろ」
『はーい』
ナースはすぐに俺の後方で待機する。
同時に、魔力同化方式の隠蔽を行って周囲から身を隠す……遮断方式の方がバレないんだが、非効率的だからな。
「あれだけ騒音を起こしたのだ。MPKもついでに狙っていたのか。道理で僅かながらに残っているわけだ」
先の振動によって、眠れる魔物たちが怒り狂ってフィールドに出現する。
本来であれば、魔物たちによって形成された新たな波がプレイヤーや使役された魔物を呑み込んでいく……のだろうが、この場には俺が居る。
「──許可は最初から取ってある。貴様のために、この一撃を放ってやろう」
もともとのプロジェクトとして、一度は使わなければならなかった。
精霊たちに捧げていた魔力の供給をほとんど停止させ、これから発動するであろう現象のために注いでいく。
『けいやくしゃー?』
「……貴様は俺を、そう呼ぶのか。まあ構わぬ、それよりも見ておけよ」
『はーい』
ナースの返事を訊いてから、発動を本格的に進めていく。
一度苦労してこれを使った際は、あらゆる属性をごった煮で集束させ、一つに纏め上げた状態で相殺することで生まれたエネルギーによって成立した。
だが今回は、もっと単純かつすぐにアレを使うことになる。
スキルとして存在するソレを介し、エネルギーが無限に広がる場所と直接接続──己の身を通してこちら側に引き出すだけだ。
「冠すべき名は虚空。崩壊せし力は万物を消滅させ、無尽蔵の恩恵を齎す」
『こくー……』
「その目にしかと焼きつけろ! 其は終焉の光なり──“消滅”!!」
白とも透明とも言えるような優しい光が、世界を包み込む。
触れたものすべてを等しく呑み込み、やがて消えるか細き光。
<虚空魔法>、それは神代に伝わりし魔法の中でも禁忌に近い属性を操る魔法。
──ナースが目指すべき、属性である。
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