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偽善者と精霊踊る育成イベント 十四月目

偽善者と育成イベント序盤戦 その03

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 その精霊は、目的もなく彷徨う。
 自身を認識することもなく、自然界に存在するエネルギーで存在を維持し続ける。
 世界を揺蕩い、自然を活性化させるために漂う……そこに意思など存在せず、ただ在るだけでそれは発揮していた。

 いずれは溜め込んだエネルギーを使って、中級精霊となって意思を宿すことになる。
 だがそれは、はるか先のことだった。



 しかし、その日変革は訪れる。

(────)

 何を思うでもなく、ふわふわと星脈が漏れだす泉の近くに居たその精霊。
 同じように下級精霊たちがエネルギーに誘われ、その地に集っていた。

(────)

 何者かが、泉に足を踏み入れた。
 容姿や種族は判らない……そもそも、そういったものを気にする意思がない。

 ただ、精霊以外の何者かが泉に来たことでエネルギーの流れが変化した。
 文字通り全身からそれを察した精霊。

(────)

 少しして、さらに変化が起きる。
 その者から泉から漏れだすエネルギー以上のナニカが溢れだし、精霊を誘惑しだした。

 神の加護を受けたその魅力は、下級精霊のほぼすべてを吸い込む効果を齎す。
 その者が並べたアイテムへ、その精霊たちは入っていった。

(────)

 しかし、一体の下級精霊はその力に呑み込まれることなく揺蕩っていた。
 特別な能力や意志があるわけでもなく、加護を宿しているわけでもない。

 偶然、その精霊は魔法から逃れた。
 その結果、下級精霊の中でただ一体だけ漂い続ける。

(────)

 同胞が場から減ったことも、自分が取り込める泉のエネルギー量が増えたことでしか認識できない下級精霊。
 その感覚もただ過ぎるモノで、思考として固まることもなくすぐに忘れられる。

(────)

 そんな下級精霊の前に、その者が近づく。
 恐怖も怯えもない、それを感じることもできないからだ。

 ゆっくりと伸ばされる手。
 その手は下級精霊を掌に載せるように動くと……

  ◆   □   ◆   □   ◆

『…………』

「よし、成功か」


 意思無き下級精霊に、意思を植え付けることぐらい簡単にできる。
 早い話、(自我ノ芽)を【謙譲】で譲渡すればいいだけの話だからな。

 注意として、(自我ノ花)を直接書き込んではいけない。
 分かりやすく言えば──これらは圧縮と解凍の関係で、後者はとんでもなく容量を使ってしまうのだ。


「芽で馴染ませて、自発的に花を咲かせることでそれは緩和するわけだ……さて、下級精霊。俺の言葉は分かるな?」

『…………』


 肯定の意思が伝わってきた。
 まだ言語能力を持たず、意思はあっても意志がないため考えることができない。
 なので、今は曖昧なイメージを受け取ることでしか会話ができない……早めに手を打っておこう。


「俺に従え。そうすれば、お前に明確な意志とやらをくれてやろう」

『…………』

「ほう、要らぬと申すか。ならば問おう、貴様はその意思で何を望むか」

『…………』


 突然芽生えた意思なので、下級精霊もどう答えたらいいか悩むだろう。
 そういった思いをさせるのも、経験の一つなのでわざと質問してみた。


『…………』

「ふむ、自由か。たしかに俺に従えば、自由がなくなる……そう考えたわけか」

『…………』

「そうだ。貴様は今、己自身でその解に至った。俺の与えた意思は、たしかに貴様の中で芽吹いたわけだ」


 ちなみにこのロール、特に意味は無い。
 前に撲滅イベントで魔王っぽいことをしたし、今回もそうしよっかなーと思ったからこのようにしただけだ。

 もちろん、そこまで思慮が深くない精霊にそんなことは関係ない。
 初心い思考を以って、初めての会話というものを行う。


『…………』

「不満か? だが、それは貴様が俺の力を超えた褒美でもある。どういった理由が有ろうと無かろうと、現に貴様は他の下級精霊とは異なりこの場に居るのだ。故に俺は、貴様を従えようとしている」

『…………』

「当然だ。だが、無理に貴様を従えてもつまらん。どうだ、俺と来ぬか? 貴様を聖霊にすることも、それ以上の存在にすることも俺にかかれば簡単なことだ」


 結局、俺は無属性の下級精霊を選んだ。
 六大属性の精霊よりも、無属性の精霊は能力値的に長けていない。
 なぜなら自然エネルギーが元になっているので、無であることはそれだけで恩恵に与りづらいからだ。


「無属性の精霊である貴様は、通常の下級精霊よりも中級に昇格しづらい。だが、誰かと契約を交わすことでそのリスクは消える。俺は貴様を求め、貴様は俺を上手く使う。その間に貴様が俺を認めれば、そのまま契約を続ければよい……どうだ?」

『…………、…………』

「思慮に長けるようになったな。そうだ、貴様に選択肢など無かった。お前の意思で従おうとした、そう思えるようにしてやっただけの話だ。さぁ、俺に従え──『ナース』」


 名を与えることで仮初の契約は整った。
 精霊との新たな結び付きが生まれ、俺との間に魔力のラインが走る。
 そこからほんの少し、無属性の魔力が俺の元へ流れ込んでくる。


「俺の配下ナースよ、貴様には最強の聖霊を目指してもらおう。誰も見たことがない、新たな道に導かれるのだ。誰でも無い、この俺によってな!」

『…………』

「ふむ、まだ足らぬか。仕方ない、まずはその不明瞭な意思を正すことから始めよう」


 さあ、育成イベントのスタートだ。


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