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偽善者と精霊踊る育成イベント 十四月目
偽善者と育成イベント序盤戦 その01
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「ここは……町、だな」
始まりの町とは異なる、だが似ている町に飛ばされたプレイヤーたち。
……なんだか配色が違うだけのコピペグラフィックみたいな感じで、適当感が滲みでている気がした。
「周りの皆様がたは、さっそく活動を始めていく。そして俺は──高みの見物っと」
幸いにして、精霊はエリア内に漂う。
光と闇の精霊を周辺から見つけ、姿をできるだけ消してもらえるように頼む。
そして、願いが聞き入れられ──いつものように、上からの傍観という定番のアレを実行した。
町からすぐに外へ出る者、情報収集のためにギルドを探す者、手当たり次第に住民たちへ話しかける者……多種多様だな。
「風で声を、届けてくれ」
会話チート:言之葉:が働き、俺の意思はスムーズに精霊に伝わる。
すぐに風精霊によって、周囲の声が俺の耳へ届く──すべてが、いっせいに。
『なあ、そう『ああ? 急に『誰か、共『それ『も──』』』』』
「ぎゃー! ス、ストップ!」
残念なことに、今回も<千思万考>はお休みしているので、聖徳太子がやったとされるような同時拝聴はできないのだ。
風精霊に再度、俺が指定した集団の会話のみを届けるようにお願いすることにした。
『────』
「……よし、これなら大丈夫だ」
それでも最高で七、八人の会話を耳にしなければいけないが、一度にその全員が話すことなど珍しいだろう。
一人か二人、それぐらいなら俺でもどうにかなる。
情報収集にしてはあまり質のいい情報は入らないのだが、それで充分だった。
できるだけ暗躍をするつもりだが、今回は発見される可能性が高くなる。
そのため、今のプレイヤーたちがどのような会話をするかが知りたかったのだ。
「今、リアルだとそんなこともやってるんだなー。ちゃんと確認しておけばよかった」
俺がリアルの情報を確認できる男は、そう多くない……そのため足りないんだよ、娯楽に関する情報が!
アニメ、マンガ、ラノベ──たとえを挙げたら切りがないじゃないか!
そんな俺の趣味に関する最新情報は、当然この世界に居る俺の元には届かない。
百歩譲って口伝で、甘んじてそれだけで我慢しているのだ。
「こればかりは、眷属に頼んでもどうしようもないからな……謝られちゃったし」
リオンには呆れるような目で見られたが、レイさんは本当に悪くと思っていたようで。
ペコペコとするレイさん、それを止めようとヘコヘコとする俺、スルーしていたせいか俺をボコボコにするリオン……あのときは実に混沌だった。
「アイリスに頼んで、リアルにもハッキングできないかやってもらおうかな? バレると嫌だし、頼まなかったけど」
欲望を零しながら、屋根を闊歩する。
逐一BGMを送る風精霊、姿を隠してくれる光と闇の精霊。
同時に三体の精霊が、俺の頼み事を聴いてくれているこの状況──普通の精霊術士は、これを見てどう思うのかな?
「まあ、それぞれの属性に適性が無くとも使える魔法だしな。初期から使ってる奴はこれぐらい簡単にできるか」
これらの頼み事はすべて、明確な意思を持たない下級精霊たちが行っている。
中級や上級の精霊たちを複数使役しているならともかく、妖精族であれば自在に操れるのだから……うん、普通だよな。
「──ん? 風精霊。今流している会話、ボリュームを上げて流してくれ」
チャンネルを変えて盗聴を楽しんでいたのだが、ふと気になる単語が入って来た。
風精霊にそれを話していた者たちをピックアップしてもらい、声を送ってもらうと──
『──ダンジョンに出発だ!』
「……って、もう終わったか」
その前から会話は聞いていたが、頼むのが少々遅れてしまったらしく、ボリュームを上げた頃にはその会話をしていた者たちは町を出てしまう。
「しかし、もう見つけたのか……どういう情報網なんだ?」
予想としては、敏捷力が高い仲間がギルドで情報を掴んだのだと思われる。 さすがに内部まで漂う風精霊に行ってもらうのは無理なので、実際のところはどうなのか確認できないがな。
「けどまあ、ダンジョンがあるのか。魔物を使役できない場所で、見つけられる育成対象なんているのか?」
倒せば消えてしまうし、ダンジョンの外に出ても消えてしまうダンジョンモンスター。
例外も居るいるし、実際うちのダンジョンにはそうした魔物がかなり存在する。
──いや、何もダンジョンに現れるのは魔物だけじゃないのか。
「というか、生物じゃなくても育成はできるわけだしな」
機人族を模して生みだされた魔導人形、あれらも育成の対象に含まれるのだろう。
ただ、持っていないからどういった法則で成長(?)するのか分からないんだよな。
別に無くとも、困っていないし……わざわざ人形を連れ歩かずとも、その気になれば眷属を呼びだせるわけだし。
「ダンジョン、ダンジョンかー。育成したいヤツを見つけたら、そこに行こうか」
先に行って、支配するのもいいんだが……縛りプレーの最中に実行するのもアレだし、どうせやるなら本来の目的を遂行する際の方がいいだろう。
「と、なればまずは精霊に力を借りようか。一番居そうな場所は……こっちだな」
風精霊に自重を緩和してもらい、屋根から屋根へ移動する速度を上げる。
トラブルの種は、まだ無いみたいだ。
おそらくは本人に解決させるのではなく、育成する存在に解決をさせるのだろう。
つまり、俺も偽善を行いたいのならば、育成に励まなければいけないというわけだ。
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