上 下
922 / 2,518
偽善者と精霊踊る育成イベント 十四月目

偽善者と分け前

しおりを挟む


 二人に了承を得てから、テラロドンの剥ぎ取りを済ませた。
 テラだからといって、やけに安直な名前だという感想は……伏せておくことにしよう。


「とにかく、サルワス近海で祈念者とあの魔物が揉めることは無くなります。漁業への影響も減りますね」

「祈念者が動かなければ、特に問題なく行えていたのだがな」

「いずれは目覚めていたモノです。以降も出現しますが、その場合は特殊な結界によって隔離されるらしいので……ご安心を?」

「なぜ疑問調なので? 貴方のことですし、本当かどうかも分かるでしょうに」


 今回の戦いも、結界が展開されていた。
 影響が外部に及ぶことを、運営や運営神が望まなかったが故のシステムだろう。
 ある意味、“夢現返し”のようなものだ。
 プレイヤーすべてがエリアボスと戦うために、彼らも彼らなりに工夫しているんだな。


「……まあ、お気になさらず。それよりも、分け前をどうしましょうか? 私としてはお二方が三割と五分、私が三割ほどで──」

「「それはない(ですね)」」

「え、えっと……では、どうしますか?」


 実際には、<複製魔法>でパパッとコピーしたので十割貰っているんだがな。
 ヤンでの剥ぎ取りで装備を獲得することはできないが、それでも通常の素材は無限に得ることができる。

 チートだな……うん、凄いズルい。
 アイテムの無限複製は、古来よりバグという形で存在し続けた。
 VRMMOが行われるようなこのご時世、そんな反則級のシステムはほぼ完全に防がれているんだが──可能性とは、恐ろしいな。


「私たちは、結局的に砲撃することしかしていない。弾代を貰えれば、それで充分だ。そうだな……一割で済む」

「こちらも同様です。むしろ、リーダーに私たちの分も預けておきましょう」

「いえ、遠慮しておきます。それに、代表者は貴方ですよ」


 この後、どうにか説得して──俺が二割、二人が四割ずつで納得させた。
 解体した素材やアイテムも、その割合で均等に分配を済ませている。

 クーによる交渉もできないため、支離滅裂な発言で混乱させて適当に誤魔化すことしかできなかったんだけどな。
 最終的に、町の者たちを労う分に使ってくれという流れで完結させた。


「神の試練を突破したこの日を祝い、サルワスでも祭りを行おうか」

「それはいいアイデアですね。リーダーの栄誉を称え、像を建立させるというのも──」

「止めて、いただけますね?」


 周りに俺の本性を知らない人がいるので、今はちゃんと丁寧語での会話を行っている。
 防音用の結界も、未だに行っている火属性と双銃縛りの今では実行不可能だ。


「それに、像を立てては金がもったいないではありませんか。祭りを行うための金銭であれば構いませんが、そのようなくだらない物のために使われるのは困ります」

「栄誉は要らないか。ならば、言われた通りの用途にしようか」

「やれやれ、リーダーには困ったものです」


 俺が悪いみたいになっている気がする。
 まあ、偽善者はそれでも構わないがな。


「……とにかく、祭りの開催は決定事項ということで。それとは別に、これを機にご相談したいことがあるんです」

「相談、だと?」

「こちらは領主である、ドナードさんへの要望でもありますね。少しばかり、内密な頼み事ですけど」

「……内容によるな。私としては、可能な限り許諾はしたい。だが、帝国のようなことを考えているのであれば、僅かながらの抵抗をさせてもらおう」


 領主様らしい、素晴らしい回答だ。
 俺がついさっきまでやっていた、あれだけの力の証明に対しても、人の上に立つ者としての正答を述べた。


「安心してください……とは、言い切れないですが。そちら側が害を及ぼさない限り、不穏な事態にならないことは約束しましょう」

「……それでも、内容によるな。私に、というのであれば、表に関わることなのだろう」

「ええ、少しばかり紹介したい者がいましてね。許可証を頂きたいのです」


 船が港に戻るまで、まだまだ時間はある。
 その間に交渉は終わるだろうし、できるだけ譲歩してもらおうか。
 ……これだけは、譲れないからな。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 サルワス


 そしてあれから数日がして……なんてことはなく、普通にサルワスに戻ってきた。

 これが現実の漁業であったのならば、港にサメが吊られて写真を撮るなどの一騒動があるわけだが……空間魔法による入れ物の拡張があるファンタジー世界で、そうしたことは起きない。


「それでは例の件、よろしくお願いします」

「ああ、任せておけ……というよりも、あの程度のことであれば、すぐにできる」

「頼もしいお言葉ですね……では、改めてお願いします」

「私の方でも、少し手を打ちましょう。これでも私は、元『青』のリーダーですからね」


 船を降り、それぞれ別の場所へ向かう。
 無理に時間を貰って、今回のイベントをやらせてもらったからな。
 溜まった業務を、すぐにでも始めなければならないのだろう。


「最初の町と港町……これでもまだ二つか。離れた場所同士だし、いずれその間も繋いでいかないとな」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?

破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。 そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。 無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた… 表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと イラストのurlになります 作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)

虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

俺と異世界とチャットアプリ

山田 武
ファンタジー
異世界召喚された主人公──朝政は与えられるチートとして異世界でのチャットアプリの使用許可を得た。 右も左も分からない異世界を、友人たち(異世界経験者)の助言を元に乗り越えていく。 頼れるモノはチートなスマホ(チャットアプリ限定)、そして友人から習った技術や知恵のみ。 レベルアップ不可、通常方法でのスキル習得・成長不可、異世界語翻訳スキル剥奪などなど……襲い掛かるはデメリットの数々(ほとんど無自覚)。 絶対不変な業を背負う少年が送る、それ故に異常な異世界ライフの始まりです。

モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件

こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。 だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。 好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。 これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。 ※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

処理中です...