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偽善者と精霊踊る育成イベント 十四月目
偽善者と分け前
しおりを挟む二人に了承を得てから、テラロドンの剥ぎ取りを済ませた。
テラだからといって、やけに安直な名前だという感想は……伏せておくことにしよう。
「とにかく、サルワス近海で祈念者とあの魔物が揉めることは無くなります。漁業への影響も減りますね」
「祈念者が動かなければ、特に問題なく行えていたのだがな」
「いずれは目覚めていたモノです。以降も出現しますが、その場合は特殊な結界によって隔離されるらしいので……ご安心を?」
「なぜ疑問調なので? 貴方のことですし、本当かどうかも分かるでしょうに」
今回の戦いも、結界が展開されていた。
影響が外部に及ぶことを、運営や運営神が望まなかったが故のシステムだろう。
ある意味、“夢現返し”のようなものだ。
プレイヤーすべてがエリアボスと戦うために、彼らも彼らなりに工夫しているんだな。
「……まあ、お気になさらず。それよりも、分け前をどうしましょうか? 私としてはお二方が三割と五分、私が三割ほどで──」
「「それはない(ですね)」」
「え、えっと……では、どうしますか?」
実際には、<複製魔法>でパパッとコピーしたので十割貰っているんだがな。
ヤンでの剥ぎ取りで装備を獲得することはできないが、それでも通常の素材は無限に得ることができる。
チートだな……うん、凄いズルい。
アイテムの無限複製は、古来よりバグという形で存在し続けた。
VRMMOが行われるようなこのご時世、そんな反則級のシステムはほぼ完全に防がれているんだが──可能性とは、恐ろしいな。
「私たちは、結局的に砲撃することしかしていない。弾代を貰えれば、それで充分だ。そうだな……一割で済む」
「こちらも同様です。むしろ、リーダーに私たちの分も預けておきましょう」
「いえ、遠慮しておきます。それに、代表者は貴方ですよ」
この後、どうにか説得して──俺が二割、二人が四割ずつで納得させた。
解体した素材やアイテムも、その割合で均等に分配を済ませている。
クーによる交渉もできないため、支離滅裂な発言で混乱させて適当に誤魔化すことしかできなかったんだけどな。
最終的に、町の者たちを労う分に使ってくれという流れで完結させた。
「神の試練を突破したこの日を祝い、サルワスでも祭りを行おうか」
「それはいいアイデアですね。リーダーの栄誉を称え、像を建立させるというのも──」
「止めて、いただけますね?」
周りに俺の本性を知らない人がいるので、今はちゃんと丁寧語での会話を行っている。
防音用の結界も、未だに行っている火属性と双銃縛りの今では実行不可能だ。
「それに、像を立てては金がもったいないではありませんか。祭りを行うための金銭であれば構いませんが、そのようなくだらない物のために使われるのは困ります」
「栄誉は要らないか。ならば、言われた通りの用途にしようか」
「やれやれ、リーダーには困ったものです」
俺が悪いみたいになっている気がする。
まあ、偽善者はそれでも構わないがな。
「……とにかく、祭りの開催は決定事項ということで。それとは別に、これを機にご相談したいことがあるんです」
「相談、だと?」
「こちらは領主である、ドナードさんへの要望でもありますね。少しばかり、内密な頼み事ですけど」
「……内容によるな。私としては、可能な限り許諾はしたい。だが、帝国のようなことを考えているのであれば、僅かながらの抵抗をさせてもらおう」
領主様らしい、素晴らしい回答だ。
俺がついさっきまでやっていた、あれだけの力の証明に対しても、人の上に立つ者としての正答を述べた。
「安心してください……とは、言い切れないですが。そちら側が害を及ぼさない限り、不穏な事態にならないことは約束しましょう」
「……それでも、内容によるな。私に、というのであれば、表に関わることなのだろう」
「ええ、少しばかり紹介したい者がいましてね。許可証を頂きたいのです」
船が港に戻るまで、まだまだ時間はある。
その間に交渉は終わるだろうし、できるだけ譲歩してもらおうか。
……これだけは、譲れないからな。
◆ □ ◆ □ ◆
サルワス
そしてあれから数日がして……なんてことはなく、普通にサルワスに戻ってきた。
これが現実の漁業であったのならば、港にサメが吊られて写真を撮るなどの一騒動があるわけだが……空間魔法による入れ物の拡張があるファンタジー世界で、そうしたことは起きない。
「それでは例の件、よろしくお願いします」
「ああ、任せておけ……というよりも、あの程度のことであれば、すぐにできる」
「頼もしいお言葉ですね……では、改めてお願いします」
「私の方でも、少し手を打ちましょう。これでも私は、元『青』のリーダーですからね」
船を降り、それぞれ別の場所へ向かう。
無理に時間を貰って、今回のイベントをやらせてもらったからな。
溜まった業務を、すぐにでも始めなければならないのだろう。
「最初の町と港町……これでもまだ二つか。離れた場所同士だし、いずれその間も繋いでいかないとな」
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