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偽善者と精霊踊る育成イベント 十四月目
偽善者と魔法習得練習 後篇
しおりを挟む火の間
「……難しいわね」
「濃すぎるからか? でも、ここなら確実に感じ取れるからな。頑張ってくれ」
「ええ、やってみるわ」
対応する属性の魔力で飽和されたこの部屋であれば、ティルもその魔力を感じざるを得ないわけで──魔力感知で俺が火魔法を使う感覚を教えれば、自然と使える寸法だ。
「というより、どうしてこれまでこの方法をやらなかったのよ」
「いやー、ちょっとしたリスクがあるから躊躇ってたんだよ……魔力が多すぎる分、暴発の可能性も高い」
「……えっ?」
うん、どうやら遅かったようで。
一気に火の魔力を練り上げたティル……その結果魔力が若干暴走し、炸裂する。
ボムッ
「メルス! ……大丈夫?」
「ふー……。ああ、問題ない。こうなることはある程度想定済みだったし、水属性を予め中で溜めておいたからさ」
ティルではなく俺がその反動を受けるが、それが起きると分かっていればいくらでも対応はできる。
内側で破裂した火の魔力は、それ以上の量が用意されていた水の魔力によってあっさりと鎮火された。
──そして、<物質再成>によって俺の体は即座に修復される。
「もう、気を付けなさいよね。私だって、貴方が傷つく姿なんて……見たくないのよ」
「今回は注意しなかった俺が悪いんだから、ティルに罪はないさ。それよりほら、今ので習得できただろ?」
「…………本当、取れてるわ」
前に『月の乙女』生産班に行った急速なレベリングのプロトタイプ、眷属にしか行うことのない神速のレベリングだ。
俺と対象の二人が同じ練習を行い、目的のスキルの経験が溜まるように図る。
それを(教導)や(指導)、{感情}などが極限まで増幅し、膨大な経験値を用意する。
それを[経験共有]で眷属に送れば……目的のスキルは、すぐに手に入るわけだ。
もちろん、何もしないで習得できるほど簡単ではないため、寄生的なレベリングを行うことはできない……ちゃんと、俺といっしょに行う必要があった。
「よし、それじゃあ次は水の間に行くぞ。目指せ、魔法剣聖だ」
「……あんまり響きはよくないわね」
そういうツッコミをせんでいい!
ほらほら、どんどん習得するぞ!
◆ □ ◆ □ ◆
「これ、本当に信じられないわよ。あの頃、この習得方法があれば……未来は変わったのかしら?」
「たしか、魔力を撥くスキルがあったし、無理だったんじゃないか? そりゃあ一定以上の力ならなんでも通っただろうけど、獣人には魔法に長けた種族も居るんだし……その対策をしてこないとは思えない」
「そう、よね……ごめんなさい。急にこんなこと言っちゃって」
七系統すべての魔法の習得を終え、再び修練場に戻ってきた俺たち。
一瞬で終わった魔法習得の手間を思いだしたのか、ティルがそんなことを言った。
過去はどう足掻いても戻ってこない。
ルーンも過去を模した擬似的な世界だったし、真の意味でやり直すなんてことは不可能に近いのだ。
「ティルがそれを本当に望むなら、その国ごと取り込んでも構わない。敵対勢力が居るかもしれないけど……それはゆっくり、排除していけばいいんだしな」
「……遠慮しておくわ。きっと今のリュキアは、私の手なんて望んでいない。すでに過去の人、死んだ人だと思っているだろうしね」
「ティル」
「けど、リュキアまでメルスが支えようとしなくてもいいのよ。ちゃんと、今も国はあるだろうし……大丈夫よ」
その確証は未だに掴めていない。
アマルたちの調査も、すべての大陸を巡る必要があるためなかなか終わらないのだ。
ナックルたちにも依頼はしたが……彼ら以上に祈念者は忙しい、そう簡単には見つからないだろう。
「まあ、ティルがそういうならそれを尊重するが……いつでも言ってくれよ」
「ええ、分かったわ」
迷うような表情はしていない。
ティルも一国の王女だったわけで、覚悟などとっくに済ませているだろうし。
ならば俺が、どうこう言って粘るわけにもいかない……今は見守ることに専念だな。
「──さて、それよりもついにティルが魔法剣聖になる時が来た! さぁ驚け愚民共、最強の剣士が誕生するぞ!!」
「って言っても、私の魔力だけじゃそう長くは持たないわよ?」
「ふっふっふ。こんなこともあろうかと、予めティル用のアイテムを用意してあるぞ──じゃーん、『虹魔の剣帯』!」
シンプルな灰色のベルトを、ティルにスッと差しだす。
剣士であるティルにはこういったデザインが良いと考え、七大属性すべてを習得したときにプレゼントしようと用意していたんだ。
「魔力増大、回復量・大、消費激減、強化などなど……魔法剣士ようにカスタマイズした逸品さ!」
「……やりすぎじゃない?」
「ティルが魔法を使ってくれるんだから、これぐらいやらないと駄目だろ! ……きっとティルも、気にいってくれるよ」
「…………ハァ。頂くわ」
受け取った剣帯を腰に巻きつけ、ホルダーに獣聖剣を収める。
ホルダーはいくつもあるが、必要に応じて消せるし、サイズ調整もできるので邪魔にはならないだろう。
「魔力が物凄く増えた感覚だわ。ねえ、メルス。これがあったら、最初から練習なんてしなくてもよかったんじゃないの?」
「いや、能力をぶち込んだ代償に、使用条件として七大魔法の習得が要求された。結局使うなら、今回みたいなことをしてもらう必要はあったぞ」
「そう……まあいいわ。これ、気に入ったわよメルス」
「そうか! 作った甲斐があったよ!」
それからティルは、属性を籠める魔法剣術の練習を励むようになった。
……ぐふふふっ、これで俺もそういった技が使えるようになるぜ。
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